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第33話「デート当日 ~いつもと違う二人~」

 そして翌日。


 まだ空が薄い青を帯びた頃――ジークは、ぱちりと目を開けた。

 心臓が、やけにうるさい。

 寝起きなのに、身体が妙に軽いくせに、胃のあたりがそわそわする。


(……今日)

 起き上がって洗面所へ。

 顔を洗って、鏡を覗き込む。


「よし……これで大丈夫だ」

 そう呟いて、いったん部屋へ戻る――のだが。


(……前髪、もうちょい整えた方がいいか?)

 気づけばまた鏡の前。

 髪を直して、服を直して、息を整える。


(よし。……今度こそ)

 ……そうして、家を出る。

 朝の空気は少し冷たく、頬に触れる風が気持ちいい。

 駅へ向かう道は、まだ人も少なくて静かだった。


(あ~……緊張してきたなぁ。セレナさんはもう来てるかな?)

 自分の靴音だけがやけに大きく聞こえる。

 鼓動のリズムに合わせて、歩幅が微妙に早くなるのが自分でも分かった。



 駅前に着く。

 人の流れ、改札の電子音、売店から漂うコーヒーの匂い。

 その中で――。


 駅の入り口の近くに、ひとり佇むセレナがいた。


 白いワンピース。

 朝の光を柔らかく受けて、清潔で、上品で、どこか“特別”に見える。

 長い黒髪は、風にふわりとなびいていた。


 いつもは後ろでまとめ上げている髪。

 でも今日は、ストレートで肩に下ろしている。


 セレナはこちらに気づくと、ぱっと顔を明るくして、手を振って笑顔を向けてくれた。


(ヤバい……めちゃくちゃ可愛いなぁ)

 胸が“ドクン”と跳ねる。

 思わず立ち止まりそうになるのを、気合で歩き続ける。


「お、おはようございます! 待たせてすみません!」

 近づいて、言った瞬間。


 セレナが、顔を真っ赤にした。


(え? あ……あれ?)

 ジークは一瞬固まる。

 だがセレナはすぐに我に返って、少しだけ視線を泳がせながらも、丁寧に言い直した。


「あ……! お、おはようございます! ちょっと雰囲気がいつもと違うので、ビックリしちゃいました。その髪型、すごく似合ってますよ」

「……あ、ありがとうございます……」


 ジークも反射で頬が熱くなる。

 互いに照れたまま、笑ってしまう。


「セレナさんもいつもと違う雰囲気で、とても素敵ですね」

 ジークがそう返すと、セレナはさらに頬を赤らめて、指先でワンピースの端をそっと掴んだ。


「あ、ありがとうございます! 普段とはちょっと違う自分の方がいいかなと……。この服、私のお気に入りなんです。今日は思い切って着てみました」


 微笑むセレナは、本当に綺麗だった。

(か……可愛い)

 

 ――そしてセレナもまた、ジークを見て胸が高鳴っていた。


 もっさり天パだった髪が、すっきり整えられて清潔感が増している。

 それに今日は、黒縁メガネじゃない。コンタクトレンズだ。


 いつもの眼鏡越しの柔らかい瞳も好き。

 でも眼鏡がない今は、瞳の色がはっきり見えて――それが妙に心臓に悪い。


(……ジークくん、眼鏡取るとこんな顔だったんだ)

 セレナは、こっそり息を飲む。

「そ、それじゃあ行きましょうか?」



 二人は事前に今日の予定を相談していた。

 まずは街をぶらぶら散策。

 ランチを食べにレストランへ。

 その後、周辺のショッピングモールや水族館などを見て回り、夕食を食べてから解散――という流れだ。


(ま、まだ1日目だしな。あまり飛ばし過ぎても良くないし……)

 ジークは心の中でそううなずきながら、歩き出す。


 駅を抜け、街中へ。


 レンガ造りの建物が建ち並び、街路樹も整備されていて、空気がどこか澄んでいる。

 朝の光が石畳を照らして、歩くだけで少し気分が上がる。


「わぁ~おしゃれな街ですねぇ……!」

 セレナが感嘆の声を上げる。

 その声が嬉しそうで、ジークの緊張も少しだけほどける。


「そうですね! 俺も初めてこの街に来た時はとても感動しました」

 ジークが笑うと、セレナもまた笑顔になる。


(あ……! あそこのお店可愛いなぁ……)

 セレナの視線が、ショーウィンドウへ吸い寄せられる。

 飾られているアクセサリーが、朝の光でキラリと光った。


(ジークくん、ああいうの好きかな?)


 そんなことを考えていると、ジークが気づいて声をかけてくる。


「あ! あのお店ですか? せっかくなのでちょっと見てみましょう!」

「え? あ、はい……!」

 セレナは少し驚きつつも、うなずいて店に入る。



 店内は、静かで、甘い香りがほんのり漂っていた。

 ガラスケースの中で、ネックレスやブレスレットが整然と並んでいる。


 セレナは綺麗なデザインのアクセサリーに目を惹かれ、思わず呟く。

「わぁ……綺麗……」


 その声に、ジークがすかさず言った。

「あの……よければプレゼントさせてもらえませんか? 今日の記念に!」


「え……?」

 セレナは驚いて目を見開く。

「そんな! 悪いですよ!」


 ジークも慌てる。

「あ、いや……! そんなに高いものじゃないですし、その……俺が買いたいだけなんです! だから遠慮しないで受け取ってください!」


「そ、そんな……! 本当に大丈夫だから! そんな気を遣わなくても……」

 セレナが遠慮すると、ジークは真剣な顔で彼女を見る。

「いつもお世話になってるし、何か記念になるものを贈りたいんです!」

 その目が真っ直ぐで、セレナは顔を赤くして俯いた。

(そ、そこまで言うなら断るのも失礼だよね……?)


「そ、それじゃあ……お言葉に甘えても、いいですか……?」

「はい! もちろんです!」

 ジークの笑顔が、ぱっと明るい。

 そして彼はネックレスを購入し、店を出た。


「あ、あの……本当にありがとうジークくん」

 セレナが改めてお礼を言うと、ジークは照れくさそうに頬を掻く。


「いえいえ! 日頃の感謝と今日の記念です!」

 セレナは嬉しそうに微笑んだ。



 二人で並んで歩いていることを意識した瞬間、急に恥ずかしくなる。

 いつもより、ずっと近い。


「そ、それじゃあそろそろお昼時ですし、ランチに行きましょう!」

 ジークが、恥ずかしさをごまかすように言う。

「え? あ……そ、そうですね!」

 セレナは同意しながら、心の中で慌てていた。

(あぁ、どうしよう。どうしていつものように言葉が出てこないの? どうしてジークくんの笑顔を見ると、頭が真っ白になっちゃうの?)


 ランチの店は、ジークが昨日ナナに聞いてリストアップしていた中から、セレナが興味を示したお店にした。


「あら素敵なレストランですね……!」

 セレナが顔をほころばせる。

 ジークは内心ガッツポーズだった。


 店に入ると、窓際のテーブル席に案内される。

 外の光が柔らかく差し込み、落ち着いた空気がふわっと二人を包んだ。


『ランチはおしゃれすぎるお店よりも、気楽に入れるお店の方がいい』

 ナナの言葉を思い出し、ジークは胸の中で「よし」とうなずく。

 セレナも、この店を気に入ったようだった。


「落ち着いていていいお店ですね。こういうお店なら……緊張せずにジークくんと話ができそうです」

 その言葉に、ジークの心臓がまた跳ねる。

(な、なんだこの可愛い生き物は!?)



 二人は注文を済ませて料理を待つ。

 ようやく腰を落ち着けたことで、緊張が少し和らいだ気がした。

 それでも、真正面から見つめ合うと――また恥ずかしい。

 けれど、話しているうちに少しずつ“いつもの調子”が戻ってくる。


「髪下ろしてるセレナさん、いつもとまた違った感じで素敵です。いつもはピシっとしていて仕事ができそうなクールなイメージですけど、今日のセレナさんはふんわりした優しい雰囲気で、とても可愛いです

 ジークの言葉に、セレナは照れて顔を赤くする。

「そ……そう? あ、ありがとう」


 ――そんなことを話していると、料理が運ばれてきた。

 二人は手を合わせる。

「いただきます!」


 ジークはオムライスとサラダのセット。

 セレナは野菜たっぷりのパスタとスープのセット。


「ジークくんはオムライスが好きなの?」

「はい!」

 ジークはオムライスを頬張りながら、元気よくうなずく。

「子供の頃から大好きで!」

 その食べっぷりが、あまりに“ジークらしくて”。

 セレナは思わず笑ってしまう。


「ふふ、ジークくん子供みたい」

「あ、やっぱり子供っぽいですかね!?」

 ジークが慌てて言うと、セレナは首を振りながら笑う。


「ううん、そうじゃないけど。でも可愛い」

 ジークは照れ笑いを浮かべる。

 セレナも、彼の笑顔につられて笑う。



 店の窓の外、街は穏やかに流れていて――

 二人の距離も、さっきより少し近くなった気がした。


「あぁ美味しかった! ごちそうさまでした!」

 店を出て、ジークが満面の笑みで言う。

 セレナも微笑んでうなずいた。

「私もすっごく美味しかった」


 二人の初デートの午前は、まだ始まったばかりだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回も読んでいただけると嬉しいです!

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