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第22話「国防省特殊部隊オラクル・ナイツ」

 一方のジークは――

 ムーフィンを、ただ睨みつけていた。


 額の奥が熱い。視界の端がにじむ。

 呼吸は浅く、喉の奥がからからに乾いていく。

 胸の内側で、何か黒いものが煮えたぎっていた。


「ジーク……さん……?」


 その怒気はあまりにも生々しく、近くにいたアミは思わず身を縮める。

 離れた場所にいるケインでさえ、背筋に嫌な予感が走った。


(兄ちゃん……? ——マズい!!)


 ケインの脳裏に、嫌でも蘇る。

 十年前の世界都市同時襲撃事件。炎、悲鳴、血の匂い。

 あのとき“守れなかったもの”が、今ここで兄の中から顔を出そうとしている。


「落ち着け、兄ちゃん! おれに作戦がある!」


 ケインが叫ぶ。

 だがジークは、耳を貸さなかった。


 いや――まるで、聞こえていないかのようだった。

 視線はムーフィンから一瞬たりとも逸れない。

 怒りが怒りを呼び、限界へと盛り上がっていく。


 そして――ジークの怒りが、限界に達しようとした、その時。


「そこまでだ! 平和を乱す無法者どもめ!」

「覚悟しろ!」


 どっと、重い足音。

 群衆の波が裂け、世界政府国防省の兵士たちが大勢で駆け付けた。

 銃口が一斉に上がり、光沢のある金属が陽光を弾く。


 その数にムーフィンの部下たちは明らかに狼狽えた。

 目が泳ぎ、呼吸が乱れ、武器を持つ手が震える。


 ――だが、ムーフィンだけは違う。


「おや、世界政府の皆さま。くだらないお勤め、ご苦労様です」

 ムーフィンは、肩をすくめるように笑った。

 まるで“ここにいる全員”を見下ろしているかのように。


「さて、本当に私を撃ちますか? あなたたちが一斉に撃てば、たしかに私は死ぬでしょう? しかし同時に! この何の罪もない無垢な少女の命も一緒に消えることになりますがねぇ」


 ――人質。

 さっきと同じ手。

 ムーフィンはケインを脅した時と同じように、兵士たちへ告げる。


 兵士たちは無言で銃を構え続けている。

 引き金にかけた指は微動だにしない。

 だが、“撃てない”こともまた、ムーフィンは理解していた。


「あなた方は悪党を殺すためならば、この少女の命がどうなってもいいと仰るので? それが世界政府の方針なのでしょうか?」


「おぉ、怖い怖い。敵を倒すためなら市民などいくら死んでも構わないと……クク」


 ムーフィンは、周囲の市民が見守る中で、世界政府が簡単に手出しできないのをいいことに煽り続ける。

 ざわり、と群衆が揺れた。

 恐怖と疑念が混ざった声が小さく漏れる。



 その時――


「いや、撃つさ。無論、お前だけな」


 冷静な男性の声が、空気を切った。


 次の瞬間。

 ムーフィンの銃を握る左手首を、白い結晶のようなものが貫いた。

 ぱきん、と氷が割れるような鋭い音がして、結晶はまるで“針”のように突き刺さる。


 ――魔法。


 放たれた結晶は、ムーフィンの左手首の神経を正確に射抜いていた。

 一瞬の痙攣。

 そして、力が抜ける。


 ムーフィンの手から、銃が落ちる。

 その銃はまるで不思議な力に引っ張られるようにして、声の主の手元に収まった。


「な、なんだと!?」

 驚きの声を上げたムーフィンだったが、声のした方向を見て――さらに目を大きく見開く。


「バ、バカな! オラクル・ナイツ……? なぜここに!?」


 視線の先には、青い髪色の若い男性。

 黒いコートを身に纏い、手には細身の剣。

 そして胸には――国防省特殊部隊“オラクル・ナイツ”のバッジ。


 その存在だけで、場の温度が変わる。

 “格が違う”という言葉が、自然と頭に浮かぶ。


 ムーフィンが驚くのと同時に、世界政府の兵士たちはならず者たちに向けて銃撃を行う。

 乾いた発砲音が連なり、火花が跳び、ならず者たちは次々倒れていった。


「ぐっ……!」

 ムーフィンはなおも人質の少女に手を伸ばし、引きずるように連れ去ろうとする。

 だが――


「おっと、そうはいかないぜ?」

 そこに、ケインが立ちふさがった。


 銃と部下を失い、優位を崩されたムーフィンは、顔を真っ赤にして叫ぶ。


「お、おのれぇ! 覚えていることですね!」


 捨て台詞を吐き捨てると、ムーフィンは書物のようなものを開く。

 紙がめくられる音と同時に、空気が嫌なふうに濁った。


 そして――人間の三倍はありそうな化け物が五体、召喚される。


 地面が震えた。

 唸り声が鼓膜を叩く。

 市民の悲鳴が、また上がる。



「半分は犯罪者ムーフィンの捜索を。もう半分は市民の避難誘導にあたってくれ。この化け物はオレが始末する」


 オラクル・ナイツの男性は冷静に兵士へ指示を飛ばし、化け物たちへ突っ込んでいった。


 次の瞬間――

 剣が閃いた。


 目にも止まらぬ速さで細身の剣が走り、

 一体、また一体と切り裂かれる。


 刃が通った軌跡だけが残る。

 遅れて、切断面から黒い液体が噴き、化け物たちが崩れ落ちる。


 数十秒。

 それだけで、五体は全滅した。


 ――一方の男性は、汗一つ掻かず、息切れすらしていない。

 まるで、散歩でもしてきたかのような顔で剣を戻す。



「すげぇ……これが本物のオラクル・ナイツ……」


 ジークは思わず呟く。

 目の前の現実が、夢よりも眩しかった。

 国防省のエリート部隊。

 ジークが目指す、夢の先。


(俺もいつか……この人みたいに! アデルさんみたいに!)

 胸の奥で、熱い何かが灯る。

 さっきまでの怒りとは違う、前へ進むための熱。


 ケインは、人質にされていた少女へと駆け寄り、優しく声を掛けた。

「大丈夫かい? 怪我はない?」

 少女は恐怖で声が出ない。だが、力強くうなずく。

 ケインはそれを見て、ニカッと笑う。

「そうか! なら良かった」


 その笑顔につられて、少女も震えながら――それでも、ほんの少し笑顔になった。


 現場は大騒ぎとなった。

 だが、ひとまず事態は収束。

 最悪の結末は避けられた。



「お前、世界政府の環境省職員と名乗っていたな」


 オラクル・ナイツの男性が、少女の頭を撫でるケインに声を掛ける。

 ケインは背筋を伸ばし、反射的に敬礼しそうになる勢いで答えた。


「え、えっとはい! 今年から入職いたしました、ケイン・ハワードと申します!」

(国防省でもないのに出過ぎた真似をするな、って怒られるかな、こりゃあ……)


 叱責を覚悟したケイン。

 だが――


「ハワード、か。オレの名前は“月森(つきもり)冬夜(とうや)”」

 冷静な口調で名乗った男――月森冬夜は続ける。


「ハワード、戦闘とはあまり縁のない環境省……しかも新入職員でありながら見事な戦闘術だった。お前のおかげでこの場の被害者を0にすることができた。礼を言う」

 そう言って、月森は手を差し出す。


「い、いえ! こちらこそ助けていただきありがとうございます!」

 ケインは差し出された手を、強く握り返す。

 その握手は短い。だが、重い。


 それを遠くから見つめるアミとジーク。

「ケイン、本当に……怪我しなくてよかったぁ……」

 アミは目尻を拭い、胸を撫で下ろす。


 ジークもうなずきながら、少し羨ましそうに言った。

「ケイン、よくやった。お前は勇気のある弟だぜ。……あとオラクル・ナイツと握手できていいなぁ~!!」



 事件が解決した後も、世界政府は引き続き逃げたムーフィンの捜索を続けることになった。


 こんなことがあった後だが……いや、こんなことがあったからこそ。

 ケインはアミと予定通りデートしてから帰ることになった。

 ジークは予定通り、家に帰って試験勉強と夜からのバイトに備える。


 それから少し後――

「いや~いいなぁ~、ケインのヤツぅ~! オラクル・ナイツと握手してたぞ? しかもメチャクチャ強そうな人だったし」


 ジークは家の机に向かい、勉強道具を広げながら口にする。

 紙、ペン、参考書。

 いつもの光景が、妙にありがたく感じる。


「オラクル・ナイツの強さも見れたし! モチベにして試験勉強頑張りますか!」

 そう気合を入れるジーク。

 だがふと、思う。


 もし、あの時――

 オラクル・ナイツも兵士たちも来なかったら。

 自分は、どうしていただろうか。


 その瞬間、ジークの脳内にとある映像が流れる。


 血と煙の匂い。

 何かを斬る音。

 手に伝わる鈍い感触。

 転がる人やモンスターたち。


 血だまりの池に映った――


 そこで、淹れていたコーヒーができあがりを告げる音を鳴らし、ジークはハッと我に返った。

「……はぁ」

 息を吐く。

 拳が、知らぬ間に強く握りしめられていた。


「とにかく今は勉強に集中しないと……。夜はバイトだってあるんだしな」

 そう呟くと、頬をパンパンと叩いて、キッチンへ向かう。

 勉強のお供のコーヒーを取りに行くのだった。


 ケインとアミは、気を取り直して予定通りデートを楽しんでいた。

 人通りのある通り。

 さっきまでの恐怖が嘘みたいに、穏やかな日差しが二人を包む。


 アミはケインの腕を取り、楽しそうにスキップしている。

 その足取りは軽いが、たまに不安がよぎるのか、ぎゅっと腕に力が入る。

 ケインはそれに気づき、何も言わずに歩幅を合わせた。


「さっきは怖くてケインのことも心配だったけど、やっぱりケインって強くて優しくて、カッコイイね」

 ケインは照れて無言になる。

 耳が赤い。


 するとアミは、畳み掛けるように笑って続けた。

「私はそんなケインが大好きだよ!」


 アミの微笑みに、ケインは小さく息を吸って答える。

「アミ、おれもだよ。アミがいるから、おれは強くいられるんだ」


 それだけ言うと、自然と彼女の体を引き寄せていた。

 アミも照れ笑いをしながら、彼の胸に飛び込む。


「さて、今日はめいっぱい楽しむぞアミ!」

「うん! そうだね、ケイン♪」

 二人は腕を組んだまま、また歩き出すのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

次回も読んでいただけたら、嬉しいです!

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