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第10話「弟の晴れ姿と、背中を押す兄」

 翌朝。

 昨日からハワード家に住むことになったアミは、ケインの持ち物や服装をチェックする。

「ケイン、緊張すると思うけど頑張ってね。ジークさんと一緒にテレビの前で応援してるから!」

 そう言って夫となるケインの手を握るアミ。

「ありがとう、アミ! しっかり見ててくれよな、俺の晴れ姿!」

 ケインも笑顔で握り返す。

 冗談めかす彼の様子に、アミは大丈夫そうだ、と安心した。

 もっと緊張しているのかと思っていたが、リラックスできている。


 玄関を出る前、2人はもう一度見つめ合う。

「行って来るよアミ」

「うん、行ってらっしゃい。晩御飯楽しみにしててね♪」

 2人はゆっくり顔を近づけると、そっと唇を重ねるのだった。


 それから少しして……。

「兄ちゃん、行って来る」

 最近に日課になった朝の体操を終えたジークに、ケインが声を掛けた。

 何も気負うことのない、いつものような軽やかな挨拶だった。

「……おう、行って来い……緊張して挨拶噛むなよ~?」

 ジークの方が多少緊張してしまっていたが、すぐにからかうようにケインを肘でつついた。

「はは、大丈夫だよ、もう何度も練習したし」

 2人はほんの少しの間、笑いあった。

「よし、じゃあ行って来い!」

 笑い終えたジークは、今日まさに、夢への本当の一歩を踏み出す弟の背中を押した。

「……おう!」

 兄の力強い掌と声を受けたケインの表情が、少し引き締まる。

 彼はそのまま、振り返ることなく歩いていく。

「……頑張れよケイン」

 ジークは小さくそう呟くのだった。



 それから2時間ほど後。

 テレビに世界政府の入社式が中継される。

「き、緊張してきたぁ~、頑張れケイン!」

「…………ごくり……」

 アミとジークはテレビの前のソファに座り、緊張した面持ちでケインの晴れ舞台を見守っている。

 ケインの姿がわずかに映る。

 代表挨拶があるため、ケインの席は最前列だ。

「き、きき来た! ジークさん、ケインがあそこに!」

「お、おおおお落ち着けアミちゃん。まだ挨拶は先のはずだ!」


 2人は世界政府の理事長挨拶、国防省長挨拶、環境省長挨拶など進行していく入社式を固唾を飲んで見守る。

 そしてついに新入職員代表挨拶の時間となった。

「ケ、ケイン! きゃああっ! 頑張れっ!」

「うおっ! マジか、マジでもう始まるのか!?」

 テレビの前で慌てふためく2人。

 その間に、ケインがゆっくりと壇上に上がる。


「皆さん、初めまして。私はこの度世界政府に入社することになりましたケイン・ハワードと申します」

 緊張しながらも丁寧な挨拶を始めるケイン。

 画面越しにも伝わる、いつもの声、いつもの表情。

 出発前と変わらない弟の姿に、ジークはようやく落ち着いた。

(よし! 順調だな)

 一方、アミの方はアワアワしながら画面から目が離せないようだ。


 そしてついにケインは話し始めた。

「私が入社を決意した理由は……『世界平和の実現』という大きな夢があるからです!」

 そう話すケインの表情は真剣そのもので、その眼差しには強い意志を感じた。

「10年前に起きた世界都市同時襲撃事件では多くの命が失われました。私もあの事件で両親を亡くしています。世界政府が平和な世の中を目指して創設されてから、すでに100年以上の月日が経過しましたが、世界平和を実現できたと胸を張って言えるのでしょうか?」

 ケインの言葉に、テレビの前で聞き入る2人。

「確かにここ数年は着実に平和に向けて前進しています。しかし先の事件を筆頭に、世界各地では絶えず争いが起きています。世界政府と協力し、全ての種族の幸せと平和を願ったアルウィーンは悲劇的な結末を迎えました。真の平和はまだまだ先なのかもしれません。……でも、だからこそ私は世界政府の新たな一員として、平和を夢見て自らの職務に励み、その実現に向けて努力する覚悟です」


 ケインがそう話すのを聞いていたジークは、思わず目頭が熱くなる。

(ああ……俺の弟は本当に立派になったんだな……)

「世界平和は簡単なものではありません。しかし私は、私たちは諦めません。今日から世界政府の一員なのだという自覚を持ち、平和のために誠心誠意尽くし、働きます。先輩職員の皆さま、なにとぞご指導のほどよろしくお願いいたします」

 弟の立派な姿に、気付けばジークの頬を涙が伝っていた。

「ケイン……立派だよ……」

 隣でアミも目を潤ませる。

 ケインの晴れ舞台は大成功だった。

 ほどなくして入社式は無事に終了したのだった。


 テレビに映っていたケインは、緊張が解けたのかホッとした様子で笑いながら、先輩社員や同期社員と握手を交わしていた。

「お疲れ様! よくやったぞケイン!」

「ケインが帰ってきたら、お祝いしないとですね!」

 ジークとアミはケインの帰宅を待ちながら、そう笑い合うのだった。



 それから数時間後、ケインは無事に帰宅した。

「ただいま~! 2人とも! うぉっ!?」

 笑顔で玄関から入ってきたケイン。勢いよく抱き着いてきたアミに驚きつつも、彼女の背中に手を回した。

「お帰りなさいケイン! とってもカッコよかったよ!」

「おめでとうケイン! よくやったなぁ~!」

 2人の熱烈な歓迎に照れながらも、ケインは嬉しそうに微笑む。

 その日の夜は、入社式のことや入社初日に何をしていたのかを話して多いに盛り上がったのだった。

 そしてジークはあらためて誓うのだった。

 いつか必ず世界政府の国防省に入り、ケインと肩を並べ、兄弟で人々の平和を守るのだ、と。



 その日から、3人の新たな生活が始まった。

 朝早く起きて、アミは朝食とケインのお弁当の準備を、ケインは出社の準備を、ジークは日課のジョギングと筋トレを、それぞれ行う。

 そして3人そろって食事を食べた後、ケインは世界政府の職員のみが利用できる転送装置による出勤をするために、最寄駅へと向かう。

 それを送り出したアミとジークは、それぞれ別々のことをする。

 アミは主に家事をやりながら、2ヶ月後に控えたケインとの結婚式の準備を進め、ジークは自室で試験勉強と肉体鍛錬を行いながら、並行して新しいバイト先を探す。

 式場のスタッフとの打ち合わせや買い物に行くアミに、ジークが同行することもある。

 そのついでに、いいバイト先がないかも探しているのだ。

 夜になってケインが帰宅すると3人揃って夕食を食べる。

 そんな新しい生活が始まるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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