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第十四話 単独護衛依頼

王都フリードからサルタニアに戻り、二ヶ月半が経過した。


五名の死者を出したグラナ街道の護衛任務の後、ガーゴイル団全体の士気は落ち込んだままだ。


もともと三十名程の小さな傭兵団だ。

団員五名を失った傷は小さくはなかった。


談笑が絶えなかった食堂も、以前のような活気がない。

ルシアンの面倒を見てくれたレオンや、タリシャがよく座っていた席は未だ空いたままだった。


「さて、どうしたものかね」


「私の見立てが甘かったよ、申し訳ないね」


「いや、お前の判断に誤りはなかったさ。ただ、この雰囲気がよろしくないってな」


団長のゲイルがため息と一緒にこぼした『ぼやき』に、副団長でもあり、護衛任務の指揮を執っていたメリダが謝罪をする。この二ヶ月半の間、二人の間で何度もあったやり取りだ。


盗賊から商隊を護衛するというオーソドックスな依頼でこれほどの死者を出したのは、一重にイレギュラーが重なったからであり、実際のところメリダに落ち度はなかった。魔術師が予想以上に規格外だっただけだが、『あの時、こうしていれば』という自責の念は中々晴れないものだ。


ガーゴイル団は、元々ルシアンが産まれた『ロス公爵家』の私設軍の一部隊だった。


八年前、ロス公爵のファーガス・ロスがあらぬ嫌疑をかけられ、申し開きをする間もなくノヴァク公爵領軍に攻め入られた時、敗北と死を覚悟したファーガスが身分差を超えて友誼を結んでいたゲイルに息子のルシアンを託した。


ロス公爵領を離れ、ノヴァク公爵の私軍を振り切る形で、自由都市サルタニアに逃げ延び、カモフラージュとして『傭兵団ガーゴイル』が産まれた。ただ、カモフラージュも長年続けていればそれが本職になるもので、ゲイルは自身を傭兵団ガーゴイルの団長だと割り切っている。


さて、イングラス王国において、武装集団である『傭兵』が請け負う仕事は多岐に渡る。


最も分かりやすいのは、国同士や領地内の争いにおいて兵力不足を補うために雇われるケースだ。

大半が遊軍として、時には正規軍として雇用される。


ただ、南に国境を接する連合国家アイーダ、ラギア王国とは、ここ十年は大きな戦争になっていない為、ガーゴイル団が『国家間』の戦争に参戦したことはない。


同様に、イングラス王国内の傭兵団の大半は戦争への積極的な参加経験は無いが、最たる例外はゴリアテ・ライネル率いる『サイクロプス団』だろう。


サイクロプス団はイングラス王国をはじめ、アイーダ連合国、ラギア王国、ウルメリア帝国、そして未開拓領域ノクスラントがある『ミレオス大陸』随一の傭兵団と言われている。


二十年ほど前、領土拡大を図る『ラギア王国』が北のウルメリア帝国、西のイングラス王国、その南のアイーダ連合国、隣接する三ヶ国全てに同時侵攻を開始した。


三国と同時に戦端を開くなど普通に考えれば無謀だが、ラギア王国の将で、『死神』というあまりにも分かり易い二つ名で呼ばれたメルカッソ将軍が、個人の武勇と類まれな指揮力を発揮し勝利を重ねていった。


彼は騎士でありながら、稀有なエンチャンター(付与魔術師)でもあった。


エンチャンターは人の身体能力や武装を強化する事ができる。ただし、通常は一人か二人、才能に恵まれた術師でも数人までが常識だ。彼が”稀有”と言われたのは、数百人の騎士団全軍に対して魔術を行使することが出来た点だ。彼に率いられた軍は、破竹の勢いで対峙した軍を蹂躙していった。


また、彼は距離にして数百キロ離れた戦場を一日とおかず移動する事ができた。


恐らくは、転移魔術を使っていたのだと言われているが、イングラス王国において転移魔術は喪失しており、またラギア王国も国家機密としているため推測の域をでない。


間違いないのは、メルカッソが三国相手に間断なく、ほぼ時間差なく、軍を指揮し続けたという事実だけだ。


そのラギア王国軍を牽引するメルカッソがイングラス王国の国境線を大きく越えてきた時、それを止めたのが若き日のゴリアテ・ライネルだった。


当時は『暴君』の二つ名で呼ばれていた若きゴリアテ・ライネルは、ラギア王国騎士団の前に立ちはだかると、瞬く間に数人を切り捨て、血に濡れたバスタードソードの剣先をメルカッソに向けて一騎打ちを申し出た。そしてその申し出をメルカッソは受けた。


軍を率いる重責を担うメルカッソ将軍が何故その申し出を受けたのかは分からない。

自信か慢心か、それとも一兵士であるゴリアテを排除すべき『潜在的な脅威』と感じたのか。


『死神』メルカッソと、『暴君』ゴリアテの一騎打ちはイングラス王国軍とラギア王国軍、見ている者達どちらにとっても生涯脳裏に焼き付く記憶となった。


何十合、何百合、剣を切り結んだか分からない。

メルカッソは自身の付与魔術で人の身で辿り着ける頂点に近い身体能力と武装で臨んでいたが、ゴリアテは一切力負けすることなく対等に打ち合った。


戦の神メイスとの強い共振もあったが、彼の卓越した剣技がそれを可能にしたのだろう。


長い戦いの決着は唐突に訪れた。


ゴリアテは左腕を捨て、メルカッソの剣を腕に食い込ませると、右腕一本で両手持ちの大剣を一閃した。それがメルカッソの首が飛ぶ瞬間、メルカッソの最期だった。左手を犠牲に相手の剣を封じた時、ゴリアテの顔には獰猛な笑みが浮かんでいたという。


メルカッソという、全軍をエンチャントで強化するという『反則技』の使い手を失ったラギア王国軍は勢いを失い、対イングラス王国、対連合国家アイーダ、対ウルメリア帝国、全ての戦場で敗戦し、自国内に撤退した。そしてその三日後には停戦交渉の申し出があったという。


左腕を失ったゴリアテは、この戦いで暴君に代わる『傭兵王』の二つ名と、メルカッソの首にかかっていた報奨金『竜鱗貨百枚』を得た。


その名声と資金で立ち上げたのが後のサイクロプス団だ。


サイクロプス団はイングラス王国の外でも二十以上の戦場に参戦した。そして隻腕ながらも、ゴリアテがいる戦場は負けなしだった。結果として現在サイクロプス団は『ミレオス大陸』随一の傭兵団と言われている。


さて、ガーゴイル団をはじめとした一般的な傭兵団に戻そう。

従軍以外で、傭兵団が請け負うのは、商人や商隊の護衛、要人の警護だ。


それなりの都市であれば衛兵が治安維持を請け負うが、辺境や僻地にある村や町は基本的に自治組織を持つことが多い。傭兵が治安維持の一助となるケースも少なくない。


また、イングラス王国は魔物が跋扈する未開拓領域を開拓して国土を広げてきた歴史がある。

特に王国の西に広がるノクスラントの周辺地域の開拓に成功した者には、その土地の所有が国によって認可される『開拓令』が存在する。


傭兵はその開拓支援者として雇われることがある。


そして、王国各地で増えすぎた魔物や害獣を間引く役割、これも傭兵の重要な仕事だ。


様々な仕事を担う傭兵だが、彼らをただの武装したゴロツキと差別化しているのが、国が直営する『傭兵ギルド』の存在だ。


ギルドは依頼の斡旋、トラブルの仲介、登録メンバーの身分証明、ギルド間の情報共有など様々な役割を担っている。そしてギルドに登録された傭兵団だけが、依頼を受けられる仕組みになっている。


ゲイルがその傭兵ギルドに『ガーゴイル団、団員募集』の依頼を出して戻ってくると、ルシアンを呼び出した。


「ルシアン、お前にひとつ護衛依頼を任せたい」


「護衛、俺一人でですか?」


「そう、お前一人だ。理由は二つある。一つ目、依頼主に金が無い、二つ目護衛対象がそこそこ戦える男らしいからだ」


ゲイルは苦笑いを浮かべた。


「具体的に聞いても?」


「ああ、勿論だ。護衛の対象はベニードというラヌ教の司教だ。目的地はラヌ教の大聖堂があるネロス公爵領『公都モルデン』、ただその途中で『廃都グランツ』に立ち寄って欲しいそうだ」


「その金がないって、報酬は?」


「銀貨二十枚……」


モルデンには行ったことがない為、往復に何日かかるのかピンとこない。


傭兵の報酬は一日あたり『銅貨五枚』~『銀貨一枚』。安宿の相場は朝食付きで銅貨三枚あたりだ。仮に、底値の一日銀貨五枚で計算すると四十日分という事になる。

「モルデンまでの距離は、どのくらいなんですか?」


「ざっと二百キロってところか、舗装された街道だから片道十日もあれば着くだろう」


「順調に行って往復二十日間ってところですね」


「ああ。だが途中で廃都グランツに寄るのが厄介でな。街道から離れているし、廃都になってもう数十年だ、管理も行き届いていないだろうから道がまともかどうか怪しい」


「廃都ってことは人がもう住んでいない都市、ですよね。何でそんなところに?」


「知らん、それは司教様に聞いてくれ」


「つまり、一人ならトントン。二人以上なら絶対に赤字ってことは分かりました」


「順調にいって、往復で一ヶ月といったところだろうな」


ゲイルがルシアンの肩に手を置いた。


「お前、最近やけに稽古熱心だろう。旅の間、剣の訓練もできるし、実戦経験も積める。ちょうどいいんじゃないか?」


確かに、クレアとの実力差を痛感して以来、ルシアンは訓練に明け暮れていた。

そして、実戦でしか得られないものの大きさも感じていたところだった。


「分かりました。引き受けます」


「任せたぜ。明日の朝、依頼人が来る。」


(司教か……。宗教の偉い人って、何か怖いんだよね)


そうルシアンが感じるのは、あのサルタン教の信者だった盗賊と戦ったからなのか、王都で感じた圧迫感からなのか分からない。


(まあ、どうにかなるでしょ)


ルシアンは、自室の引出しから、二ヶ月前に届いた、『クレアからの手紙』を取り出して眺める。

内容は大した事が書いてあるわけではない。


・ノヴァク直轄領に到着して、ゴリアテ率いるサイクロプス団本隊と合流したこと。

・未開拓領域ノクスラントに面した『城塞都市カーレスト』に長期の拠点を構えたこと。

・心に癒しをくれる美味しい店がまだ見つかっていないこと。


そんな報告とも愚痴ともいえる、取り留めない内容が綴られ、最後に


『ルシアン、あたしのいない戦場で死なないでね』


と書かれていた。


自分も返事を返したが、正直何を書いたか覚えていない。

ただ、今思い返せば、自分の成長の遅さを嘆く情けない内容だった気がする。


(次はもっと前向きなことを、面白いことが書けるといいな)


明日に備えて早めに床に就いたルシアンは、クレアからの手紙を見返しながらいつの間にか眠りに落ちていた。

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