第9話:漆黒の断罪
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(こんなにたくさん更新はできませんのでご了承ください(>_<)
それでは、どうぞ!
漆黒の闇が、水晶の間を支配した。
貴族たちの悲鳴と動揺が渦巻く中、ダンスフロアの中央だけが、ぼんやりと光を帯び始める。それはまるで、闇の中に浮かび上がった舞台のようだった。やがて、金色の光の粒子が集まり、立体的な幻影を紡ぎ出していく。
そこに映し出されたのは、セシリアの豪華な私室。そして、下卑た笑みを浮かべるセシリアと継母の姿だったーーー。
『本当にうまくいくかしら、お母様?』
『ええ、セシリア。あの方からお借りしたこの「月の涙」の偽物を、リリアーナの部屋に隠せばいいのですもの。あの魔力なしに、疑いを晴らす術などありませんわ』
幻影のセシリアが、勝ち誇ったように笑う。
『これでリリアーナは終わりよ!惨めな罪人になって、一生を終えるのよ!あばよ、惨めな姉!』
生々しい会話に、会場のざわめきがぴたりと止む。
幻影は切り替わり、今度は王城の一室で、セシリアが嘘の涙でアルフォンス王子を誑かす場面が映し出された。
『姉様は私のものを何でも欲しがるのです…王子様、私が王子様と親しくしているのが、きっと許せないのよ…』
『なんと卑劣な女だ、リリアーナは!安心しろセシリア、私が必ず守ってみせる!』
自分がいかに愚かであったかを衆目に晒され、アルフォンス王子は屈辱に顔を歪めているーーー。
パッと、シャンデリアに再び光が灯った。
「こんなもの、偽物よ!誰かが私たちを陥れるための、悪質な魔法だわ!」
セシリアの金切り声が響くが、もはやその言葉を信じる者はいない。侮蔑と軽蔑の視線が、津波のように彼女たち親子と王子に押し寄せる。
その時、ノワールが静かに一歩前に出た。
「では、真実を証明いたしましょう」
彼の冷徹な声に、誰もが注目する。
ノワールは、どこからか取り出した一通の封書を、その場にいた文官に手渡した。
「まずはこれをお調べいただきたい。送り主の紋章は巧妙に潰されていますが、使われている羊皮紙の質、インクの成分は、王城でもごく一部の者しか使えぬ代物のはず」
文官は震える手で封書を受け取り、中身に目を通すと絶句した。
「こ、これは…!間違いなく、最高位の者しか入手できぬ物です…!」
その証言は、この事件の背後に、計り知れない権力者がいることを示唆していた。
次に、ノワールは分厚い裏帳簿を王家の会計監査官に突きつける。
「これは…!ヴァインベルク公爵家の正式な出納記録と全く合わない…!これほどの額の横領、断じて許されることでは…!」
二つの動かぬ証拠に、セシリアたちは言葉を失う。
そして、ノワールは最後に、あの「月の涙」をその手に2つ掲げた。
「なぜ、あなたがそれを!?」セシリアの悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
「あの日、あのとき、濡れ衣を着せるため月の涙は偽装された。その証拠がこれです。そして何よりの決定的な証拠…」
「皆様、この『月の涙』が、なぜ王家の秘宝と呼ばれるかご存じですかな?それは、王国を守護する**『光の古代魔法』を持つ、伝説の『聖女』**にのみ呼応し、その真の輝きを放つからだ。聖女ではない者が触れれば、ただの美しい石ころにすぎん」
会場が、今度こそ本当に静まり返った。
聖女。それは、何世代もの間、おとぎ話の中にしか存在しなかった伝説の存在。
ノワールは、宝玉を手に、まずセシリアの前に立つ。
「さあ、未来の王妃殿。この宝玉を輝かせてみてください」
セシリアは、最後の望みを託すように、震える手で宝玉に触れた。しかし、宝玉はうんともすんとも言わず、ただ静かにそこにあるだけだった。
次に、ノワールが私の方へ向き直る。
「リリア」
その声に促され、私は決意を固めた。
私はゆっくりと前へ進み出ると、自らの手で、白銀の仮面を外した。
「リリアーナ・フォン・ヴァインベルク…!?」
「罪人のはずでは…!」
会場が大きくどよめく。その全ての視線を受け止め、私はノワールの前に立った。
「リリア。さぁ手を伸ばして」
私はこくりと頷き、恐る恐るその宝玉に手を伸ばした。
指先が、ひんやりとした宝玉に触れた、その瞬間。
――私の内側から、温かい何かが溢れ出した。
宝玉が、眩い光を放ち始めたのだ。それはシャンデリアの光など比較にならないほど、神々しく、清らかで、温かい光。光は水晶の間全体を満たし、そこにいるすべての者たちの心を、優しく照らし出した。
これが、私の本当の力…?
「魔力なし」ではなかった。
誰も測定できなかっただけ。
私の魔力は「聖女」の持つ、聖なる光の魔力だったのだ。
「馬鹿な…聖女様だというのか…!?」
「ならば、我々は…聖女様を、罪人として…!」
貴族たちが、自分たちが犯した取り返しのつかない過ちの大きさに気づき、絶望の声を上げる。
これで、終わった。そう思った矢先だった。
「待て!」
声を上げたのは、アルフォンス王子だった。
彼は私の前に進み出て、恭しく片膝をついた。
その顔には、恍惚とした表情が浮かんでいる。
「リリアーナ…!君が、まさか伝説の聖女様だったとは…!私の目は節穴だったようだ。先の婚約破棄は、間違いだった。無効としよう!君こそが私の妃、この国の王妃にふさわしい!」
手のひらを返した、とはこのことだろう。
私が何かを言う前に、冷たく、静かな声が二人の間に割り込んだ。
「お断りします」
ノワールだった。
彼は、私の前に立ち、王子を見下ろしている。
「聞き間違いか?次期国王たる私の言葉に、貴様が口を挟むな!」
「見る目もなく、己の頭で考えることもできず、甘言を弄する女にいいように操られた方に、この国の未来を、そして何より、**私の主**の未来を託すことなど、到底できません」
ノワールの完璧な論破に、王子はぐうの音も出ない。
そして、最後にトドメを刺したのは、私自身だった。
「アルフォンス殿下。私は、あなたを許すつもりはありません。そして、二度とあなたの手を取ることもありません」
もはや、私の声に震えはなかった。
「私が望むのは、王妃の座ではない。ただ、私が信じる道を、私自身の足で歩いていくことです」
その直後、激怒した国王の「衛兵、この愚か者どもを全て捕らえよ!」という号令が、水晶の間に響き渡った。
私の隣には、誇らしげに微笑むノワールが立っている。
二人の華麗なる逆転劇は、今、ここに完璧な形で完成したのだった。
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