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第8話:漆黒のプレリュード

いつも読んでくださりありがとうございます!


あともう1話だけ更新します!

楽しんでいただけると嬉しいです。


明日も更新予定です(*^^*)


それでは、どうぞ!




王城で最も壮麗な「水晶の間」。その名にふさわしく、天井から吊り下げられた幾多の巨大なシャンデリアが放つ光は、磨き上げられた大理石の床や、壁一面に嵌め込まれた無数の水晶に幾重にも乱反射していた。


まるで、夜空の星々をすべて集めて閉じ込めたかのような、眩いばかりの空間。優雅なワルツの音色と、宝石や絹が擦れる音、そして着飾った貴族たちの華やかな笑い声が、心地よい喧騒となって満ちていた。


その喧桑が、ふと、中心から波紋が広がるように静まっていく。


会場の入り口に立つ、一対の男女に、すべての視線が釘付けになったからだ。


「漆黒の仮面の魔術師」にエスコートされた「白銀の仮面の淑女」。


ノワールの纏う雰囲気は、ただそこにいるだけで周囲を圧倒した。上質な黒衣は彼の完璧なスタイルを際立たせ、仮面から覗く金色の瞳は、見る者を射竦めるような鋭い光を宿している。


一方の私は、彼が用意してくれた夜空色のドレスに身を包んでいた。繊細な銀刺繍が施されたドレスは、歩くたびに星屑を振りまくように煌めき、顔を覆う白銀の仮面が、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「な、何者だ、あの者たちは…」

「見たこともない顔だが…あの威圧感、ただ者ではないぞ」


囁き声が、会場のあちこちから聞こえてくる。突き刺さるような視線に、心臓が早鐘を打ち始める。けれど、そのたびに、隣のノワールが「大丈夫、僕がいる」と、繋がれた手のひらに優しく力を込めてくれた。


その温かさに支えられ、私は背筋を伸ばし、毅然と一歩を踏み出した。今夜、私は守られるだけの令嬢ではない。彼のパートナーなのだから。


私たちの存在がよほど気に入らなかったのだろう。会場の中心で衆目を集めていたセシリアが、アルフォンス王子を伴って、わざとらしくこちらへやってきた。


「まあ、どちら様ですの?随分と派手なご登場ですこと。まさか、後ろ盾もないのにこの場に紛れ込んだ、というわけではございませんわよね?」


家柄を笠に着た、あからさまな侮辱。

その隣で、アルフォンス王子も鼻を鳴らした。


「ふん、胡散臭い魔術師め。その女も、人前に顔を晒せぬほどの醜女だから仮面で隠しているのだろう」


彼らの下劣な言葉に、私の心が冷えていくのを感じる。だが、ノワールは動じなかった。彼は完璧な貴族の一礼をしてみせると、穏やかな声で、しかし言葉の端々に毒を含ませて言い返した。


「これはこれは、王子殿下にセシリア嬢。私の連れは、その美しさ故に、無粋な虫が寄るのを防いでいるだけです。高貴な方々には、下々の者の事情はお分かりになりますまい」


その丁寧な物言いが、逆に彼らのプライドをいたく傷つけたらしい。二人の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


その時だった。近くにいた、王子の取り巻きの一人である侯爵令息が、私に馴れ馴れしく手を伸ばしてきた。


「まあまあ、そう邪険になさらず。この私がお相手いたしますよ、美しい淑女」


その手が、私の腕に触れる寸前。


すっと、私たちの間にノワールが割り込んだ。彼は侯爵令息の手首を、まるで邪魔な小枝でも払うかのように、無造作に、しかし有無を言わさぬ力で掴み、叩き落とす。


「失礼。彼女に、安易に触れないでいただきたい」

声は静かだったが、その場の空気は凍りついた。


「なっ…貴様、この淑女の何だというのだ!」


侯爵令息が食い下がった瞬間、ノワールの纏う雰囲気が一変した。


彼は一歩前に出ると、侯爵令息の耳元に顔を寄せ、周りには聞こえないほどの小声で何かを囁いた。何を言ったのかはわからない。ただ、最後の方に発せられた、低く、力強い響きだけが、私の耳にもはっきりと届いた。


「――俺の――――――――」


その一言を聞いた瞬間、侯爵令息の顔から血の気が引いた。まるで、己の魂を根こそぎ奪い取られるような恐怖を味わったかのように、その瞳は大きく見開かれ、カタカタと震え始める。彼は悲鳴のような息を漏らすと、一目散にその場から逃げ去っていった。


(『俺の』…?)


初めて聞く、彼の荒々しい一人称。力強く、どこか独占欲を匂わせるその響きに、私の心臓がなぜかドキリと大きく鳴った。


私の混乱をよそに、ノワールは何事もなかったかのように私の隣に戻り、優雅に微笑んだ。


ワルツの音色が最高潮に達する。その瞬間を待っていたかのように、ノワールが私にだけ聞こえる声で囁いた。


「リリア、ショーの始まりだ」

彼が、パチン、と指を鳴らした。


その瞬間、水晶の間の豪奢なシャンデリアの光が一斉に消え、会場は悲鳴と共に、完全な闇と静寂に包まれた。


これから始まる、断罪の舞台。その漆黒の序曲プレリュードが、今、奏でられたのだ。

今回もお読みいただき、

本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、

皆さんの応援が、何よりの励みになります。


「面白かった!」

「続きが気になる!」と思っていただけたら、


ぜひ、

【ブックマーク】や【評価(★〜)】、

【リアクション】、そして【感想】

で応援していただけると嬉しいです!


誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、

私の創作活動の本当に大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、

引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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