第4話:帰還
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処刑の朝が来た。
遠くから響く、時を告げる教会の鐘の音が、私の最期の時を知らせている。冷たく湿った石の床が、薄い囚人服越しに体温を奪っていく。もう、恐怖も感じなかった。あるのは、この終わりのない苦しみからようやく解放されるという、昏い安堵だけ。
(ノワール……今、あなたのところへ行くからね……)
瞼を閉じれば、走馬灯のように蘇る。日だまりの中で丸くなる黒い背中。ゴロゴロと喉を鳴らす心地よい振動。私の涙を舐めてくれた、ざらりとした舌の感触。私の世界の、唯一の光だったあなた。
その時、地下牢に続く階段から、複数の足音が聞こえてきた。いよいよ、お迎えが来たらしい。
「時間だ、罪人リリアーナ。国王陛下の御前へ出ろ」
衛兵たちの無慈悲な声と共に、古びた錠前に鍵が差し込まれる、甲高い金属音が響いた。
ガチャン、と。
しかし、次の瞬間、ありえないことが起きた。
鍵が回る音はしたのに、扉が開かない。それどころか、衛兵たちの短い悲鳴が聞こえた。
「な、なんだこれは!?」
「影が…!影が、動いているぞ!」
何事かと顔を上げると、通路を照らす松明の炎が、まるで嵐の中のように激しく揺らめいていた。それに伴い、壁や床に落ちる影が、生き物のように蠢き、伸び、衛兵たちの足元に絡みついていく。
「ぐっ…!動けん!」
「この魔力…なんだ、これは…!?」
異様な静寂が、地下牢を支配した。肌を刺すような冷気と、巨大な何者かに見下ろされているような、圧倒的なプレッシャー。
私はただ、目の前の光景に息をのむことしかできなかった。
そして、信じがたい現象は、私の目の前で起きた。
私と通路を隔てる、太い鉄格子。それが、音もなく、歪んだ。まるで熱い鉄を飴細工のように捻るかのように。いや、違う。鉄格子が、その影自身に飲み込まれるように、闇の中へと溶けて消えていくのだ。
ぽっかりと開いた暗闇の中から、一人の青年が、静かに歩み出てきた。
月明かりすら弾くような、艶のある漆黒の髪。夜空に浮かぶ星々を溶かしたかのような、美しい金色の瞳。シンプルながらも、仕立ての良い黒衣を纏ったその姿は、およそこの薄汚い地下牢には似つかわしくない、神々しいまでの美しさを放っていた。
青年は、身動き一つできない衛兵たちには目もくれず、真っ直ぐに私へと歩み寄る。
そして、呆然とする私の目の前で、静かに片膝をついた。
「…………」
彼が顔を上げる。
その金色の瞳と、視線が交わった瞬間、私の心臓が大きく跳ねた。
知っている。私は、この瞳を知っている。誰よりも、何よりも、焦がれ続けた瞳だ。
「ノ…ワール…?」
か細く、震える声で紡いだ名に、青年は、ほんの少しだけ悲しそうに眉を寄せた。
そして、汚れた私の手を、まるで至宝に触れるかのように、そっと両手で包み込んだ。温かい。信じられないくらいに、温かい手だった。
「ごめんね、リリア。少しだけ、魂の源泉まで行って力を取りに戻っていたんだ」
彼の唇から紡がれたのは、優しく、そしてどこまでも懐かしい声だった。
「迎えが遅くなってしまった。ずいぶん待たせたみたいだね」
魂の、源泉…?
理解が追いつかない私に、彼は安心させるように、ふわりと微笑んだ。それはまさしく、日向で満足そうにしていた、あの頃のノワールの表情だった。
「……さあ、帰ろう、僕のご主人様」
その瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。ああ、夢じゃない。本当に、本当にあなたが帰ってきてくれたんだ。
「ノワール!ノワール…!」
私は彼の胸に顔を埋め、ただその名を呼び続けた。懐かしいお日様の香りが私を安心させる。
彼は優しく私の背を撫で、その温もりで私の心を溶かしていく。
ひとしきり泣いて顔を上げると、彼は私の涙を指でそっと拭った。その優しい表情が、ふっと消える。彼の視線が、牢の外で未だ硬直している衛兵たちに向けられた。
金色の瞳に宿るのは、絶対零度の冷徹な光。
「さて」
彼は立ち上がり、私を軽々と横抱きにする。その声は、先ほどまでの優しい声とはまるで違う、低く、威圧的なものだった。
「まずは、ご主人様をこんな目に遭わせた愚か者共に、俺が本当の絶望というものを教えてやる」
その声は、これから始まる壮絶な復讐劇の序曲だった。私の騎士は、最強の闇をその身に宿し、私のもとへ帰ってきてくれたのだ。温かな光を取り戻すために。
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