第3話:仕組まれた断罪劇
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ノワールを失ってから数週間、私の時間は止まったままだった。食事も喉を通らず、夜も眠れず、ただ亡霊のように屋敷の中を彷徨うだけの日々。
セシリアの嫌味も、継母の叱責も、もはや私の心には届かなかった。私の心は、ノワールと共に死んでしまったのだから。
そんな私に、追い打ちをかけるような命令が下された。王立魔法学園の卒業記念パーティーへの参加である。もちろん、私の意志ではない。ヴァインベルク公爵家の体面のため、という継母からの厳命だった。
「いいこと、リリアーナ。あなたはただそこに突っ立って、我が家の名に泥を塗らないようにしていればいいのです。くれぐれもアルフォンス王子殿下のお目汚しになるような真似はしないように」
パーティー当日、私は侍女に着せられた重苦しいドレスをまとい、虚ろな心で王城へと向かった。きらびやかなシャンデリア、楽しげなワルツの音色、華やかな貴族たちの笑い声。そのすべてが、今の私には地獄の光景にしか見えなかった。
私は誰とも言葉を交わさず、壁際の隅で息を潜めていた。早く、この悪夢のような時間が終わってほしい。ただそれだけを願っていた。
その時だった。音楽がぴたりと止み、会場の中央に立つ婚約者のアルフォンス王子が、高らかに声を張り上げた。
「諸君、静粛に!これより、我が国の秩序を乱す、許されざる罪人を断罪する!」
会場が水を打ったように静まり返る。皆が固唾を飲んで王子の次の言葉を待つ中、彼の鋭い視線が、まっすぐに私を射抜いた。
「リリアーナ・フォン・ヴァインベルク!お前だな!」
え…? 私?
何が起きているのか理解できない私に、王子は軽蔑に満ちた声で続けた。
「しらを切るな!王家に代々伝わる秘宝、『月の涙』を盗み出した大罪人め!」
月の、涙…? 王家の秘宝?
身に覚えのない罪状に、私の頭は真っ白になった。会場中の視線が、好奇と侮蔑の色を帯びて私に突き刺さる。
「そ、そんな…私は何も…」
「言い逃れはさせん!衛兵がお前の部屋を捜索したところ、これがクローゼットの奥から見つかったのだ!」
王子が掲げたのは、紛れもなく、月の光を宿したように輝く美しい宝玉だった。なぜ、あんなものが私の部屋に?
パニックに陥る私に、セシリアが前に進み出て、悲劇のヒロインのように涙を浮かべた。
「ああ、姉様…!なんてことを…。私が王子様と親しくしているのを妬んで、このような暴挙に出るなんて…!」
「そうか、そういうことか!」
王子はセシリアの言葉に大きく頷き、私を指さして断罪の言葉を紡ぐ。
「嫉妬に狂い、国の宝を盗むとは!公爵令嬢にあるまじき卑劣な行い!リリアーナ・フォン・ヴァインベルク、貴様との婚約は、ただ今この時をもって破棄する!」
婚約破棄――。その言葉は、もはや私の心に何の痛みも与えなかった。だが、王子の怒りは収まらない。
「そして未来の王妃には、心の清らかなセシリアこそがふさわしい!貴様は反逆者として、地下牢へ投獄せよ!」
衛兵たちが私に駆け寄り、荒々しく両腕を掴む。抵抗する気力もなかった。引きずられていく私の目に映ったのは、勝ち誇ったように笑うセシリアと、彼女を庇うように抱きしめる王子の姿だった。
――ああ、そうか。全部、仕組まれていたんだ。
冷たい石の床に投げ出され、重い鉄格子の扉が閉まる音が響く。薄暗い地下牢の中、私はただ茫然と座り込んでいた。
婚約を破棄されたことも、罪人にされたことも、どうでもよかった。ただ、どうしようもなく、寂しかった。
「ノワール……」
無意識に、その名を呼んでいた。
もし、あなたが生きていてくれたなら。もし、この腕の中にあの温もりがあったなら。こんな絶望の中でも、私はまだ立っていられたかもしれないのに。
「ノワール…会いたい……」
涙が、乾いた頬を伝う。
処刑は三日後だと、衛兵が言っていた。もう、何もかも終わりだ。
私は冷たい石壁に身を寄せ、静かに目を閉じた。せめて夢の中で、もう一度だけ、あの金色の瞳に会えますように。そう、心から願いながら。
私の意識は、深い、深い闇の中へと沈んでいった。
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