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第23話:反撃の狼煙

完結まで残り…5話


地盤沈下という、あからさまな敵意に満ちた攻撃。


それを、私とノワール、そして仲間たちの力で防ぎきったあの日から、ヴァインベルク領の空気は、一見、変わらぬ平穏を保っていた。リゾートの建設は再開され、聖果の畑は春の日差しを浴びて、青々と葉を茂らせている。


だが、水面下では、全てが大きく動き出していた。


「…間違いない。この魔術の残滓は、王宮の魔術師団、それも宰相直属の『闇鴉ダーククロウ』と呼ばれる部隊にしか使えない、特殊な術式だ」


執務室で、ノワールは静かに、しかし断定的な口調で言った。彼はあの日、地盤沈下を引き起こした闇魔術の痕跡を採取し、数日かけて解析していたのだ。その金色の瞳には、冷たい怒りの光が宿っている。


「宰相ダリウス…」


私の呟きに、アーネストが息を呑む。リーナとテオも、厳しい表情で顔を見合わせた。


セシリアたちを裏で操っていた黒幕。その正体が、この国の最高権力者の一人であるという事実に、部屋の空気は重く沈んだ。平民から成り上がり、その類稀なる才覚で国を動かす傑物。その仮面の裏に、これほどの邪悪を隠していたとは。


その重い沈黙を破ったのは、一羽の速達鳥ハヤブサの到着だった。


足に結び付けられていたのは、アードラー侯爵家の紋章が押された、一通の密書。私が封を切ると、そこには、簡潔にして、衝撃的な警告が記されていた。


『宰相ダリウスに、不穏な動きあり。王都の軍部を掌握しつつある。来るべき時に備えよ』


「…やはり、繋がっていたのね」


ジュリアン様からの警告は、ノワールの解析結果が真実であることを、決定的に裏付けていた。ダリウスは、もはや小細工ではなく、この国そのものを動かして、私たちを、ヴァインベルク領を、根こそぎ潰しにかかろうとしている。


(守っているだけでは、だめだ…)


この豊かな大地を、笑顔で暮らす領民たちを、そして、誰よりも大切な私の騎士様を。

このまま、敵の攻撃をただ待ち、受け身でいるだけでは、いずれジリ貧になり、全てを失ってしまうだろう。


私は、静かに立ち上がった。


そして、部屋にいる、私にとって最も信頼できる仲間たちの顔を、一人一人、見渡した。

忠実な執政官、アーネスト。


嵐のような友人、リーナ。

頼れる騎士団長、テオ。

そして、私のただ一人の騎士、ノワール。


私は、決意を込めて、宣言した。

「私たちは、これより、反撃に転じます」


その言葉に、全員の視線が、私に集中する。


「宰相ダリウスの悪事を暴き、王都に、この国に、真の平穏を取り戻すのです。それは、とても危険で、困難な道になるでしょう。ですが、私には、あなたたちの力が必要です。どうか、この戦いのために、力を貸していただけないでしょうか」


領主として、聖女として、私は深々と頭を下げた。

私の覚悟を受け、最初に口を開いたのは、テオだった。


「顔を上げてください、リリアーナ様。俺たちは、とっくの昔に、あんたに命を預ける覚悟はできています。ヴァインベルクの自警団、…いや騎士団は、あんたの剣となり、盾となる」


彼の言葉に、アーネストが、リーナが、力強く頷く。


そして、ノワールが、私の前に跪いた。彼は、私の手を取り、その騎士服の胸元で輝くブローチに誓うように、静かに言った。


「僕の全ては、いつだって君のものだ、リリア。君が行くというのなら、地の果てだろうと、冥府の底だろうと、付き従うまで」


彼の温かい手に、私はどれほど勇気づけられただろう。

そうだ、私は一人じゃない。




その日から、ヴァインベルク領は、二つの顔を持つことになった。


表向きは、リゾート開発が順調に進み、特産品の出荷に沸く、平和で豊かな領地。


だが、その水面下では、来るべき決戦に向けた準備が、着々と、そして秘密裏に進められていた。


リーナは、彼女が持つ大陸中の商業ギルドのネットワークを駆使し、王都のあらゆる情報を収集し始めた。貴族の動向、物資の流れ、軍の配置。それらの情報は、金で買える、最高の武器だった。


アーネストは、王都への「遠征」を想定し、兵站計画の策定に取り掛かった。食料、武具、薬。膨大な物資を、いかにして効率よく運び、管理するか。彼の緻密な計算が、作戦の生命線となる。


そして、テオ。彼は、ノワールの最終的な指導のもと、自警団を、もはやどこの国の騎士団にも引けを取らない、少数精鋭の「ヴァインベルク騎士団」として再編成していた。彼らの瞳には、故郷を守るという覚悟と、リリアーナへの絶対的な忠誠が燃えている。


私は、聖女として、領主として、その全てを束ねる。


そして、ノワールと共に、来るべき戦いに備え、光と闇の力を合わせる訓練を、夜ごと繰り返していた。


冬は終わり、季節は春。

ヴァインベルクの大地に、力強い生命が芽吹く頃。


私たちの反撃の狼煙は、静かに、しかし確かな炎となって、上がろうとしていた。


お読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、皆さまの応援が何よりの励みになります(>_<)


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誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さまの声が、皆さまが考えてる100万倍、私の創作活動の大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです(*^ω^*)

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