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第20話:月の庭園

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。

楽しんでいただけると嬉しいです。


明日も更新予定です(*^^*)


それでは、どうぞ!




厳しい冬が終わり、ヴァインベルク領に待望の春が訪れた。


雪解け水が川を満たし、大地からは、冬の間に準備した聖なる種が、待っていましたとばかりに力強く芽吹き始める。一人の犠牲者を出すこともなく、希望と共に冬を越せたことに、領民たちの顔には晴れやかな笑みが咲いていた。


領主としての私の仕事も、春の訪れと共に本格化する。アーネストと共に春からの本格的な農作業の計画を立て、テオたち自警団には畑を狙う魔物の討伐を依頼する。領地全体が、未来へ向かう活気に満ちていた。


そんな中、王都から嵐のような友人が、朗報と共に凱旋した。


「リリア!やったわよ!王都の貴族も大商人も、君の『聖薬』と『聖果』の噂で持ちきり!すでに予約注文が殺到してるわ!」


リーナは、分厚い注文書の束を誇らしげに広げて見せた。




その日の午後、領主の執務室には、いつものメンバーにテオも加わり、今後の発展計画を話し合っていた。


特産品の成功に沸く中、リーナが地図を広げ、目を輝かせながら新たな計画を打ち明けた。


「リリア、アーネストさん!特産品だけじゃもったいないわ!この領地には、もっと大きな可能性がある!」


彼女が地図で力強く指し示したのは、領内にある手つかずの美しい湖だった。


「ここに、王侯貴族向けの保養地リゾートを作るのよ!美しい景色、美味しい空気、そしてリリアの『聖果』を使った特別な料理…絶対に大ヒットするわ!」


「リゾート…ですか?」

リーナの突拍子もない提案に、堅実なアーネストは眉をひそめる。


「しかし、それには莫大な資金と時間、そして専門的な知識が必要に…」


「だからこそ、やりがいがあるんじゃない!それに、これからのヴァインベルクには資金も、人を惹きつける『聖女様』という最高のブランドもあるわ!」


私は、二人の議論を聞きながら、リーナの案に強く心を惹かれていた。

(人が集まれば、もっと領地が豊かになるかもしれない…)


「警備は大変になるが…やりがいはあるな」

腕を組んで聞いていたテオが、ぼそりと呟いた。

彼の前向きな言葉が、私の背中を押してくれた。


「…まずは、現地を調査してみましょう。この目で見て、可能性を探りたいわ」




翌日、私たちはリーナの提案した湖畔の調査へと向かった。メンバーは、私とノワール、リーナ、アーネスト、そして護衛を兼ねたテオの五人。馬車を降り、森の小道を抜けた先に広がっていた光景に、私たちは思わず息をのんだ。


「わぁ…!」


瑠璃色の湖面が、春の柔らかな日差しを浴びて、きらきらとダイヤモンドのように輝いている。対岸には雪を抱いた山々が連なり、その姿を鏡のように映し出す湖は、まるで一枚の絵画のようだった。


「どう!?すごいでしょ、この景色!王都の令嬢たちが、ティーカップ片手におしゃべりする姿が目に浮かぶようだわ!」


リーナは、両手を広げて深呼吸し、興奮気味に言った。


「確かに、景観は素晴らしい。ですがリーナさん、これだけでは…」


アーネストが現実的な視点で言う通り、美しい、ただそれだけだった。人を呼び寄せるには、何かもう一つ、特別な魅力が必要だ。


私たちは、湖畔に沿ってゆっくりと歩き始めた。


「テオ、この辺りに何か珍しい動物や植物はいないの?」

「いや、特には…。普通の森と変わらねえな。昔から、ただの静かな湖ってだけだ」


猟師だったテオの言葉に、リーナは「うーん、パンチが足りない…」と少しだけ肩を落とす。


私は、湖の水に触れてみようと、水際まで歩み寄った。ノワールが、私が足を滑らせないように、さりげなく背後に立ってくれる。その気配に安心しながら、私はそっと湖水に指先を浸した。


(冷たい…けど、なんだかとても澄んだ魔力を感じるわ…)


私の魔力に呼応したのか、指先が触れた場所から、水の波紋と共に、ごく微かな光の粒子が立ち上るのが見えた。


「リリア?」


ノワールだけが、その微細な変化に気づいて声をかける。


「この湖、何か特別な気がするの。もう少し、奥まで行ってみましょう」


私の直感を信じ、私たちはさらに森の奥深くへと足を進めた。木々が鬱蒼と生い茂り、昼間だというのに薄暗い。リーナが「本当にこっちで合ってるの?」と不安そうな顔をした、その時だった。


私の目に、苔むした一つの大きな石碑が飛び込んできた。


それは、森の風景に溶け込むように、しかし、確かな存在感を放ってそこに佇んでいた。何かに導かれるように、私はその石碑へと近づく。表面を覆う苔をそっと手で払うと、風化してほとんど消えかかっているが、確かにヴァインベルク家の紋章が刻まれているのが見て取れた。


「これは…?」

アーネストも、古い紋様の形式に気づき、興味深そうに覗き込む。


私は、石碑に宿る、遠い過去の記憶に触れるように、両手でそっと表面を撫でた。そして、心の底からの祈りを込めて、練習中の光魔法を静かに、静かに流し込んでみる。


(もし、ここに、かつての誰かの想いが眠っているのなら…どうか、私に応えて)


その瞬間、石碑が眩いばかりの光を放った。それは、私が今まで使ってきたどんな光よりも、神々しく、そして温かい、慈愛に満ちた光だった。


「な、なんだ!?」

「リリア!」


テオが警戒の声を上げ、ノワールが咄嗟に私を庇うように前に立つ。


光は、私たちを包み込むように広がり、周囲の空間が、陽炎のようにぐにゃりと揺らいだ。


目の前の、ただの鬱蒼とした森だったはずの景色が、まるで幻のように消え去り、その奥から、長い間、誰の目にも触れずに眠っていた壮麗な石造りの庭園が、その姿を現した。


アーチ状の回廊が優美な曲線を描き、中央には静かに水を湛える大理石の噴水。そして、庭園の至る所に配置された、月の光を浴びて淡く輝く特殊な水晶や、見たこともない銀色の葉を持つ植物たち。まるで、おとぎ話の世界に迷い込んだかのような、幻想的な光景が広がっていた。


「ま、さか…」


その光景に、博識なアーネストが古い文献の一節を思い出し、震える声で呟いた。


「これは、ヴァインベルク家に伝わるおとぎ話に謳われた、**初代聖女様が創りし『月の庭園』**では…!?」


私たちは、恐る恐る、しかし引き寄せられるように庭園に足を踏み入れる。


そこは、俗世とは切り離されたかのような、幻想的な静寂に満ちていた。


庭園に満ちる柔らかな光を浴びるだけで、調査で歩き疲れた足が軽くなり、心が洗われるような、不思議な安らぎを感じる。


「すごい…初代聖女様も、私と同じように、この領地の人々を癒やしたいと願っていたんだわ…」


私は、時を超えて届けられた先人の温かい想いに触れ、胸が熱くなるのを感じた。


「月の庭園ですって!?『聖女が創りし癒やしの庭園』…物語性が完璧じゃない!これはもう、計画の成功は間違いないわ!」


リーナは、商人としての興奮を隠しきれない様子で、目を爛々と輝かせていた。




その夜、執務室で一人、持ち帰った庭園の見取り図を眺めていると、静かにノワールが部屋に入ってきた。


「君は、過去の聖女の遺産さえも目覚めさせるんだな。本当に、すごい力だ」

彼は、心から感心したように言った。


「私一人の力じゃないわ。この庭園が、きっと私を呼んでくれたのよ。そして、ノワールや、みんながここまで導いてくれたから…」


私の言葉に、ノワールは優しく微笑むと、そっと私の髪を撫でた。

「ああ。だから、僕たちはどこまでだって行ける。君が望むなら、この領地を、世界一幸せな場所にだってしてみせるよ」


彼の言葉が、私の心に温かく染み渡る。


特産品開発に続く、新たな大きな挑戦「リゾート開発」。


ヴァインベルク領の発展は、まだ始まったばかりだ。希望に満ちた未来を予感させ、私たちの物語は、次のステージへと歩みを進めていく。


今回もお読みいただき、

本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、

皆さんの応援が、何よりの励みになります。


「面白かった!」

「続きが気になる!」と思っていただけたら、


ぜひ、

【ブックマーク】や【評価(★〜)】、

【リアクション】、そして【感想】

で応援していただけると嬉しいです!


誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、

私の創作活動の本当に大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、

引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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