第20話:月の庭園
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厳しい冬が終わり、ヴァインベルク領に待望の春が訪れた。
雪解け水が川を満たし、大地からは、冬の間に準備した聖なる種が、待っていましたとばかりに力強く芽吹き始める。一人の犠牲者を出すこともなく、希望と共に冬を越せたことに、領民たちの顔には晴れやかな笑みが咲いていた。
領主としての私の仕事も、春の訪れと共に本格化する。アーネストと共に春からの本格的な農作業の計画を立て、テオたち自警団には畑を狙う魔物の討伐を依頼する。領地全体が、未来へ向かう活気に満ちていた。
そんな中、王都から嵐のような友人が、朗報と共に凱旋した。
「リリア!やったわよ!王都の貴族も大商人も、君の『聖薬』と『聖果』の噂で持ちきり!すでに予約注文が殺到してるわ!」
リーナは、分厚い注文書の束を誇らしげに広げて見せた。
◇
その日の午後、領主の執務室には、いつものメンバーにテオも加わり、今後の発展計画を話し合っていた。
特産品の成功に沸く中、リーナが地図を広げ、目を輝かせながら新たな計画を打ち明けた。
「リリア、アーネストさん!特産品だけじゃもったいないわ!この領地には、もっと大きな可能性がある!」
彼女が地図で力強く指し示したのは、領内にある手つかずの美しい湖だった。
「ここに、王侯貴族向けの保養地を作るのよ!美しい景色、美味しい空気、そしてリリアの『聖果』を使った特別な料理…絶対に大ヒットするわ!」
「リゾート…ですか?」
リーナの突拍子もない提案に、堅実なアーネストは眉をひそめる。
「しかし、それには莫大な資金と時間、そして専門的な知識が必要に…」
「だからこそ、やりがいがあるんじゃない!それに、これからのヴァインベルクには資金も、人を惹きつける『聖女様』という最高のブランドもあるわ!」
私は、二人の議論を聞きながら、リーナの案に強く心を惹かれていた。
(人が集まれば、もっと領地が豊かになるかもしれない…)
「警備は大変になるが…やりがいはあるな」
腕を組んで聞いていたテオが、ぼそりと呟いた。
彼の前向きな言葉が、私の背中を押してくれた。
「…まずは、現地を調査してみましょう。この目で見て、可能性を探りたいわ」
◇
翌日、私たちはリーナの提案した湖畔の調査へと向かった。メンバーは、私とノワール、リーナ、アーネスト、そして護衛を兼ねたテオの五人。馬車を降り、森の小道を抜けた先に広がっていた光景に、私たちは思わず息をのんだ。
「わぁ…!」
瑠璃色の湖面が、春の柔らかな日差しを浴びて、きらきらとダイヤモンドのように輝いている。対岸には雪を抱いた山々が連なり、その姿を鏡のように映し出す湖は、まるで一枚の絵画のようだった。
「どう!?すごいでしょ、この景色!王都の令嬢たちが、ティーカップ片手におしゃべりする姿が目に浮かぶようだわ!」
リーナは、両手を広げて深呼吸し、興奮気味に言った。
「確かに、景観は素晴らしい。ですがリーナさん、これだけでは…」
アーネストが現実的な視点で言う通り、美しい、ただそれだけだった。人を呼び寄せるには、何かもう一つ、特別な魅力が必要だ。
私たちは、湖畔に沿ってゆっくりと歩き始めた。
「テオ、この辺りに何か珍しい動物や植物はいないの?」
「いや、特には…。普通の森と変わらねえな。昔から、ただの静かな湖ってだけだ」
猟師だったテオの言葉に、リーナは「うーん、パンチが足りない…」と少しだけ肩を落とす。
私は、湖の水に触れてみようと、水際まで歩み寄った。ノワールが、私が足を滑らせないように、さりげなく背後に立ってくれる。その気配に安心しながら、私はそっと湖水に指先を浸した。
(冷たい…けど、なんだかとても澄んだ魔力を感じるわ…)
私の魔力に呼応したのか、指先が触れた場所から、水の波紋と共に、ごく微かな光の粒子が立ち上るのが見えた。
「リリア?」
ノワールだけが、その微細な変化に気づいて声をかける。
「この湖、何か特別な気がするの。もう少し、奥まで行ってみましょう」
私の直感を信じ、私たちはさらに森の奥深くへと足を進めた。木々が鬱蒼と生い茂り、昼間だというのに薄暗い。リーナが「本当にこっちで合ってるの?」と不安そうな顔をした、その時だった。
私の目に、苔むした一つの大きな石碑が飛び込んできた。
それは、森の風景に溶け込むように、しかし、確かな存在感を放ってそこに佇んでいた。何かに導かれるように、私はその石碑へと近づく。表面を覆う苔をそっと手で払うと、風化してほとんど消えかかっているが、確かにヴァインベルク家の紋章が刻まれているのが見て取れた。
「これは…?」
アーネストも、古い紋様の形式に気づき、興味深そうに覗き込む。
私は、石碑に宿る、遠い過去の記憶に触れるように、両手でそっと表面を撫でた。そして、心の底からの祈りを込めて、練習中の光魔法を静かに、静かに流し込んでみる。
(もし、ここに、かつての誰かの想いが眠っているのなら…どうか、私に応えて)
その瞬間、石碑が眩いばかりの光を放った。それは、私が今まで使ってきたどんな光よりも、神々しく、そして温かい、慈愛に満ちた光だった。
「な、なんだ!?」
「リリア!」
テオが警戒の声を上げ、ノワールが咄嗟に私を庇うように前に立つ。
光は、私たちを包み込むように広がり、周囲の空間が、陽炎のようにぐにゃりと揺らいだ。
目の前の、ただの鬱蒼とした森だったはずの景色が、まるで幻のように消え去り、その奥から、長い間、誰の目にも触れずに眠っていた壮麗な石造りの庭園が、その姿を現した。
アーチ状の回廊が優美な曲線を描き、中央には静かに水を湛える大理石の噴水。そして、庭園の至る所に配置された、月の光を浴びて淡く輝く特殊な水晶や、見たこともない銀色の葉を持つ植物たち。まるで、おとぎ話の世界に迷い込んだかのような、幻想的な光景が広がっていた。
「ま、さか…」
その光景に、博識なアーネストが古い文献の一節を思い出し、震える声で呟いた。
「これは、ヴァインベルク家に伝わるおとぎ話に謳われた、**初代聖女様が創りし『月の庭園』**では…!?」
私たちは、恐る恐る、しかし引き寄せられるように庭園に足を踏み入れる。
そこは、俗世とは切り離されたかのような、幻想的な静寂に満ちていた。
庭園に満ちる柔らかな光を浴びるだけで、調査で歩き疲れた足が軽くなり、心が洗われるような、不思議な安らぎを感じる。
「すごい…初代聖女様も、私と同じように、この領地の人々を癒やしたいと願っていたんだわ…」
私は、時を超えて届けられた先人の温かい想いに触れ、胸が熱くなるのを感じた。
「月の庭園ですって!?『聖女が創りし癒やしの庭園』…物語性が完璧じゃない!これはもう、計画の成功は間違いないわ!」
リーナは、商人としての興奮を隠しきれない様子で、目を爛々と輝かせていた。
◇
その夜、執務室で一人、持ち帰った庭園の見取り図を眺めていると、静かにノワールが部屋に入ってきた。
「君は、過去の聖女の遺産さえも目覚めさせるんだな。本当に、すごい力だ」
彼は、心から感心したように言った。
「私一人の力じゃないわ。この庭園が、きっと私を呼んでくれたのよ。そして、ノワールや、みんながここまで導いてくれたから…」
私の言葉に、ノワールは優しく微笑むと、そっと私の髪を撫でた。
「ああ。だから、僕たちはどこまでだって行ける。君が望むなら、この領地を、世界一幸せな場所にだってしてみせるよ」
彼の言葉が、私の心に温かく染み渡る。
特産品開発に続く、新たな大きな挑戦「リゾート開発」。
ヴァインベルク領の発展は、まだ始まったばかりだ。希望に満ちた未来を予感させ、私たちの物語は、次のステージへと歩みを進めていく。
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