表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/27

第2話:永遠の別れ

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。

楽しんでいただけると嬉しいです。

3~4話も本日更新します。


明日も更新予定です(*^^*)

(投稿時間は夜予定です)


それでは、どうぞ!

季節は巡り、あれから5年の歳月が流れた。


私は15歳になり、王立魔法学園の卒業を間近に控えていた。けれど、私の状況は何一つ変わらなかった。むしろ、『魔力なしの公爵令嬢』という評価は揺るぎないものとなり、学園での孤立は深まるばかりだった。


唯一の変化は、私の腕の中にあった。


かつて小さな子猫だったノワールは、今ではすっかり年老いていた。漆黒の毛並みには白いものが混じり、動きもずいぶんとゆっくりになった。それでも、その金色の瞳が私に向ける穏やかな光は、少しも変わらなかった。


「ノワール、あまり無理してはだめよ。ほら、日向はここが一番暖かいわ」


私は書斎の窓辺にクッションを置き、そっとノワールを寝かせてやる。彼は心地よさそうに目を細め、か細い声で「にゃあ」と鳴いた。その一つ一つの仕草が愛おしくて、同時に胸が締め付けられるようだった。


獣医からは、もう長くないだろうと告げられている。わかっている。生きとし生けるものには、必ず終わりが来る。けれど、私の世界からこの温もりが消えてしまうことを、どうしても受け入れられなかった。


「お願い、ノワール。もう少しだけ、私のそばにいて。あなたがいなくなったら、私…」


言葉が続かず、涙がこぼれ落ちる。ノワールは弱々しい動きで前足を伸ばし、私の頬に触れた。まるで、泣かないで、と慰めてくれるかのように。


そして、運命の日は、私の15歳の誕生日にやってきた。


その日、公爵家では私の誕生日を祝う気配など微塵もなかった。父は領地の視察で不在、継母とセシリアは、仲の良い侯爵家のお茶会に出かけている。広すぎる屋敷に、私と使用人、そしてノワールだけが取り残されていた。


それで良かった。誰にも祝われない誕生日は慣れている。それよりも、大切な時間をノワールと二人きりで過ごせることの方が、私にとっては遥かに価値があった。


「誕生日なのよ、ノワール。特別な日だから、厨房に頼んで、あなたの大好きな新鮮な白身魚をもらってきたの」


ベッドの傍らで、私は優しく語りかけた。しかし、ノワールはぐったりと横たわったまま、大好物に見向きもしない。ただ、浅く速い呼吸を繰り返しているだけだった。


「ノワール…?」



嫌な予感が、心臓を氷の指で鷲掴みにする。私は震える手でノワールの体に触れた。いつもはあんなに温かかったのに、今は少しずつ熱が失われていくのがわかった。


「いや…いやよ、ノワール!待って、行かないで!」


私は必死に彼を抱きしめた。私の世界そのものだった存在が、今、腕の中から零れ落ちていこうとしている。


すると、ノワールは最後の力を振り絞るように、ゆっくりと顔を上げた。そして、あの美しい金色の瞳で、真っ直ぐに私を見つめた。


その瞳は、不思議なほど穏やかだった。悲しみも、苦しみもない。ただ、深い、深い愛情だけを湛えていた。


『大丈夫だよ』

『ずっと、そばにいるよ』


声にはならなかったけれど、確かにそう聞こえた気がした。


ノワールは、私の涙で濡れた指先にそっと鼻先を寄せ、そして――ふっと、その体の力が抜けた。


ゴロゴロという、あの心地よい音はもう聞こえない。規則的だった呼吸も、今は永遠に止まってしまった。


「あ……あ……」

時が、止まった。

私の世界から、音が消えた。色が消えた。


腕の中にいるのは、ただの動かなくなった黒い毛皮の塊。私の太陽は、光を失い、冷たくなってしまった。


どれくらいの時間、そうしていたのだろう。夕暮れの赤い光が部屋に差し込み、ノワールの亡骸を照らした頃、ガチャリと扉が開いた。


「あら、姉様。まだこんなところにいたのですか。ずいぶんと静かだと思ったら…あらあら、その汚い猫、とうとう死んだのですの?」


帰宅したセシリアが、嘲るような笑みを浮かべて私を見下ろしていた。


「ちょうどよかったじゃありませんか。そんな不吉な黒猫、あなたのような出来損ないにしか懐きませんでしたものね」


言葉が、耳に入ってこない。ただ、セシリアの唇が動いているのが見えるだけ。


私の腕の中には、もう二度と温まることのない、小さな亡骸。


私の世界は、完全な灰色に塗りつぶされた。いや、灰色ですらない。光の一切を失った、底なしの暗闇に沈んでいった。


この絶望が、これから始まるさらなる悲劇の、ほんの序章に過ぎないことを、私はまだ知らなかった。

今回もお読みいただき、

本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、

皆さんの応援が、何よりの励みになります。


「面白かった!」

「続きが気になる!」と思っていただけたら、


ぜひ、

【ブックマーク】や【評価(★〜)】、

【リアクション】、そして【感想】

で応援していただけると嬉しいです!


誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、

私の創作活動の本当に大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、

引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ