10話:リリアの選択
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舞踏会の翌日、私たちは王城の一室にいた。
国王陛下と、そして一晩で憔悴しきった父――ヴァインベルク公爵が、私の前に頭を垂れている。
国王陛下の裁きは、厳格なものだった。
セシリアと継母は、全財産を没収の上、北の最果てにある修道院へ終身幽閉。アルフォンス元王子は、王位継承権を剥奪され、国民への贖罪として辺境の地で鉱山開発に従事することになった。
父は、監督不行き届きの責任を取り、全ての爵位と家督を私に譲り、自らは隠居することを涙ながらに申し出た。私は、それを静かに受け入れた。
復讐は終わった。けれど、私の心に、晴れやかな喜びはなかった。ただ、長く肩にのしかかっていた重荷が、ようやく下りたという安堵感と、ぽっかりと穴が空いたような、少しの虚しさがあるだけだった。
「リリアーナ嬢、いや、聖女殿」
国王は、今や縋るような目で私を見つめていた。
「どうか、王城に残り、その聖なる力でこの国を導いてはくれぬか。最高の地位と名誉を約束しよう。もちろん、新たな婚約者として、我が第二王子や、他の有力な公爵家の者を紹介することも…」
その言葉を裏付けるように、部屋の外からは、昨日まで私を蔑んでいた貴族たちが、面会を求めて騒ぐ声が聞こえてくる。あまりの身勝手さに、思わずため息が出そうになった。
それに…私にはまだ、自分が「聖女」であるという実感はなかった。昨夜の出来事は、まるで夢の中の出来事のよう。あの不思議な光も、どうやって出したのか自分でもわからない。ただ、宝玉に触れたら、心の奥底から温かい何かが溢れ出した、それだけだった。
私は、静かに首を横に振った。
「陛下、お申し出、痛み入ります。ですが、今の私に、そのお役目は務まりません。私は、まず自分自身と向き合いたいのです。ヴァインベルク公爵として、私の領地に戻ります」
私の揺るぎない言葉に、国王もそれ以上何も言えなかった。
◇
王都の喧騒を離れ、隠れ家へと向かう馬車の中。
ようやく、解放された。緊張の糸が切れた私は、どっと疲労を感じて、隣に座るノワールの肩に、こてんと頭を預けた。彼は驚いたように少しだけ体を硬直させたが、やがて諦めたように、私の体を優しく支えてくれる。
「お疲れ様、リリア。本当に、よく頑張ったね」
彼の優しい声と、伝わってくる温もりに、私の心はゆっくりと溶かされていく。虚しかった胸の穴が、じんわりと満たされていくようだった。
「…ノワールが、いてくれたからよ」
「僕は、君のためにいるんだ。昔も、今も、これからもずっと」
その言葉が、何よりも嬉しかった。私は、この数週間で初めて、心の底から微笑むことができた。
隠れ家に戻り、温かいお茶を飲んでようやく一息ついたのだった。
◇
数日後。
私たちはヴァインベルク領へと向かう馬車の中にいた。
「本当に、よかったのかい?リリア。王城に残れば、何不自由ない暮らしができたはずだ」
心配そうに尋ねるノワールに、私は車窓に流れる景色を見ながら、静かに答えた。
「ううん、これでいいの。ううん、これがいいのよ。やっと、自分の居場所に帰れるのだから」
ヴァインベルク領に帰るのは、何年ぶりだろうか。
私は9歳のときから王立魔法学園に通うため、王都の別宅で継母と義妹と共に暮らしていた。実の母も亡くなっていたため、ほとんど領地に戻ることはなく、私にとっても、お母様とのあたたかい思い出の詰まった場所は、いつしか足の遠のく故郷となっていた。
けれど、今は違う。あそこが、私の守るべき場所となった。
ようやく手に入れた平穏。これからは、ノワールと一緒に、静かで穏やかな日々を…。そんな淡い期待に、私の胸は膨らんでいた。
◇
しかし、その期待は、領境を越えた瞬間に打ち砕かれた。
「……ひどい」
馬車の窓から見える故郷の景色に、私は思わず声を失った。
私が知っている、緑豊かで活気のあったヴァインベルク領の面影は、どこにもなかった。
街道はひび割れ、雑草が生い茂っている。黄金色に輝いていたはずの麦畑は、手入れもされずに痩せ細り、あちこちで枯れていた。道端ですれ違う領民たちの目は虚ろで、その頬はこけ、衣服はみすぼらしく擦り切れている。
領都の中心にある公爵家の屋敷にたどり着くと、長年ヴァインベルク家に仕えてきた老執事のゼバスが、涙ながらに私たちを迎えてくれた。
「リリアーナお嬢様…!よくぞ、ご無事でお戻りに…!」
「ゼバス、久しぶりね。…領地のこの惨状は、一体どういうことなの?」
私の問いに、ゼバスは悔しそうに顔を歪め、書斎で分厚い帳簿の束を差し出した。
「全ては、カトリーヌ奥様とセシリアお嬢様の浪費と圧政によるものです。度重なる贅沢のために民に重税を課し、逆らう者は容赦なく罰し…その結果、多くの民が土地を捨てて逃げ出しました。残った者たちも、もはや生きる気力さえ失っております」
「…お父様はなにをやっていたの?」
「旦那様もカトリーヌ奥様を迎え入れてから人が変わったようでして…」
「私どもも力不足を痛感しております。」
帳簿をめくると、そこには信じがたい数字が並んでいた。収入を遥かに上回る支出、底をついた備蓄食糧、そして莫大な借金。
「お嬢様…申し上げにくいのですが、このままでは、今年の冬を越せない領民が、続出するでしょう…」
ゼバスの絶望的な言葉が、私の胸に突き刺さる。
これが、私の故郷の現実。私が目を背けている間に、こんなことになっていたなんて。
ショックで、目の前が暗くなりそうだった。その時、大きな温かい手が、私の肩を優しく、しかし力強く支えてくれた。
「リリア」
ノワールの声だった。彼は、私の隣に立ち、その金色の瞳で真っ直ぐに私を見つめている。
「君は一人じゃない。僕がいる」
その言葉に、私はハッと顔を上げた。
そうだ、私はもう一人じゃない。絶望している場合じゃない。
私は、この領地の領主。この民を守ると、そう決めたのだから。
私は、涙をぐっとこらえ、帳簿を机に置いた。その瞳には、かつての弱々しい光はなく、「領主」としての、燃えるような決意の光が宿っていた。
「私が、この領地を立て直してみせる」
「さて、どこから手をつけるかな、リリア」
ノワールが、頼もしげに口元を綻ばせる。
「まずは、民の心を取り戻すことからよ、ノワール」
私の答えに、彼は満足そうに頷いた。
まずは聖女としてではなく、一人の領主として。目の前にある問題に取り組むのだった。
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