第7話:旅人のための癒し音楽室、スライム作曲家誕生!?
昼下がり。
果実ジャムと焼きたてスコーンの余韻がまだ残る中、ティアがふとつぶやいた。
「このダンジョンって……静かすぎません?」
「えっ、静かじゃないとダンジョンってダメなの?」
「いえ、それはそれで素敵ですけど……たまに、音楽とか流れてたらもっと癒されるなぁって」
「音楽、か……」
ティアの言葉に、俺は少し考える。
たしかに、森の中のダンジョンとはいえ、ずっと静かなのも寂しい。
せっかくゆっくり過ごせるのだから、耳にも優しい空間がほしい。
ポヨが、ぴょん! と跳ねた。
「じゃあ《音楽室フロア》作っちゃいましょう!」
「そんなのあるのか?」
「あります! 《音の精霊》と共鳴する“癒しの音波空間”が作れます! 楽器とかも設置可能ですし、魔力で自動演奏もできます!」
「え、めっちゃ便利じゃん……」
「ただし、マスターが“感情的にめちゃくちゃ癒された状態”にならないと、音精霊は姿を現してくれません!」
「……またか。結局はリラックス勝負か」
ということで俺は、温泉→昼寝→ミントティー→ふわもちクッション→キノコ三姉妹によるマッサージという、全力の癒しコンボを繰り返した。
ポヨが横で記録を取りながらうなる。
「癒され数値、MAX到達! 音精霊、召喚可能です!」
ダンジョンの空気が一瞬だけふわっと震え、澄んだ鈴の音のような風が吹いた。
そこに現れたのは、音符のような形をした半透明の生き物。ふよふよと浮いて、俺の肩に乗る。
「癒しの楽器、生成許可されました」
魔力の操作とともに、空間の中に広がる楽器群――
木製のグランドピアノ、ストリングベル、カリンバ、風の音がなる壁面装置。
どれも“音の出る家具”として、静かに佇んでいた。
ティアが目を輝かせる。
「ま、まさか……これ、全部……自由に弾けるんですか?」
「うん、そうみたいだ」
ポヨが手(?)を広げて言う。
「マスター! 僕、作曲家デビューします!」
「えっ……」
「タイトルは《スライムの休日》! ジャンルは癒し系水音ジャズ!」
「ジャンル迷子じゃない!?」
「イメージは、温泉に入りながら食べるアイスの音!」
「どんな音だよ!?」
とはいえ、ポヨが楽器の前に乗って、ピコピコと魔力で鍵盤を押しながら音を奏でる様子は、見ていて微笑ましい。
キノコ三姉妹はリズムに合わせてふよふよと揺れ、ティアはカリンバを鳴らして遊んでいる。
「こういうの、なんか……いいですね」
「静かすぎるのも寂しいけど、音があると安心するな」
「そうそう。心が落ち着きますわ」
俺も試しに、グランドピアノに手を置いた。
不思議なことに、指を置くだけで魔力が伝わり、自動で癒しのメロディが流れてくる。
心の底から、ふぅ……と力が抜けた。
《癒しの音楽室》が完成し、ダンジョンはまたひとつ、優しい表情を持った。
誰も急かさない。誰も責めない。
ここでは、スライムが作曲家になってもいいし、キノコが踊っていても、誰も驚かない。
「よし、次はラジオ局でも作るか……」
「ダンジョンFM!?」
「パーソナリティはお前な」
「やったあああああ!!」
今日もまた、静かな音楽と笑い声が、この空間を優しく包み込んでいた――。
◇あとがき
今回は、音楽と癒しをテーマにしたフロア導入回でした。
静寂に一滴の音を加えるだけで、空間の“優しさ”は格段に増すと思っています。
スライム作曲家・ポヨの活躍(?)は、今後もちょこちょこ描いていきます。癒されつつもクスッと笑える世界を、これからも丁寧に。
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