第55話『欠片が紡ぐ調べと、ポヨの大きなページ』
棚に並ぶ欠片は、夜が明けきるころになるといっそう静かに光った。
ティアは欠片の一つに指を添え、その模様をそっとなぞる。
「ポヨが昨日描いた音符、覚えてますか?」
「もちろんです! これです!」
ポヨは胸を張って、自分のノートを広げた。
そこには欠片の線に沿って、小さな音符がちょこんちょこんと描かれていた。
ティアはそれを見て、優しく笑う。
「これを見てると……欠片たちがほんとうに歌ってるみたいですね」
モグは棚を整理しながら、また新しい欠片を持ってきた。
その欠片は薄く、光が透けるほど繊細で、置かれた瞬間に短い音を響かせた。
「……聞こえましたか?」
ティアは小さく息をのむ。
ポヨもすぐにノートを抱え込んだ。
「はい! なんだか今の音は、昨日よりも長かった気がします」
モグは欠片にそっと手を置き、その表面を軽く叩くように撫でた。
するとまた、今度は少しだけ違う音が棚の奥で鳴った。
「やっぱりモグさん……欠片と話してるんじゃないですか?」
ティアがくすっと笑いながら言うと、モグは少し視線を逸らした。
けれどその耳までうっすら赤くなっているのをティアは見逃さなかった。
「ふふっ……秘密なんですね」
ポヨはにっこり笑って大きく頷いた。
「ぼく、もっと欠片の歌を描きます!」
その日、ポヨはノートとは別に大きな紙を取り出した。
いつものノートより何倍も大きいページに、欠片の模様を描こうと決めたのだ。
「これに全部の欠片を描きたいんです」
ティアは目を丸くして笑った。
「全部ですか?」
「はい! いつか線が全部繋がったら、それがぼくの一番大きな地図です!」
モグはその大きな紙を見つめて、そっと欠片をもう一つ持ってきた。
ポヨは嬉しそうにペンを握り、その模様を大きな紙に描き写す。
描き終えると、棚の欠片が一斉に短く光った。
「見てください! 欠片たち、ぼくの地図を見てるみたいです!」
ティアは胸を押さえ、小さく息をついた。
「きっと欠片たちも嬉しいんですよ。自分たちの歌や模様が、こんなに大きな紙の上で一緒になれるなんて」
ポヨは紙をぎゅっと抱きしめて、目を輝かせた。
「もっともっと描きます! そしたらきっと……欠片たちも全部繋がりますから!」
ティアはその言葉にそっと笑みを返し、棚に並ぶ欠片を静かに見渡した。
欠片はまた一つ、小さな音を響かせて、それに応えるように棚全体が淡く光った。
【第五十五日目:欠片が歌った調べと、大きなページのはじまり】
・棚の欠片は少しずつ音を長く響かせ、ポヨの描く地図に呼応した
・ポヨはいつものノートを超える大きな紙に欠片の歌を描き始めた
・ティアとモグは静かにその様子を見守り、棚の欠片はまた一つ音を重ねた




