第45話『静かな廊下の終わりで、ティアが拾った音』
夜のダンジョンは、昼間より少しだけ息を潜めているように思えた。
ティアはそっと壁沿いを歩きながら、床に細く走るひび割れを指でなぞる。
廊下の奥は暗く、モグが棚を整理するときに使う小さなランタンだけが頼りだった。
「ここまで来るの、久しぶりですね……」
ティアは小さくつぶやいて笑った。
ポヨは彼女のすぐ後ろで、くるくると体を回しながら足元の石を確かめている。
ふいに、何かが転がるような音がした。
「……?」
ティアは小さな驚きとともに足を止める。
視線を落とすと、そこには欠片ではなく、丸く滑らかな石がひとつ転がっていた。
拾い上げると、かすかに震えている気がした。
手のひらの上で、それはほんの短い間、微かな音を立てたのだ。
「……鳴いた?」
ポヨは目をぱちくりさせて、その石を覗き込む。
「生きてるのかな……?」
ティアは少し困ったように笑ってから、その石を胸にそっと抱え込んだ。
「もしこれが生きてるなら……ここにいていいよ。誰にも見つからないこの静かな場所なら、大丈夫だから」
ポヨはちょっとだけ羨ましそうに石を見つめ、それから大きく息をついた。
「ぼくも、この廊下にずっといていいですか?」
「もちろんです」
ティアは石を抱えたままポヨを見て、優しく微笑んだ。
その笑みは、モグが棚の奥からそっと見つめる視線にまで届いていた。
【第四十五日目:静かな廊下で拾った、小さな音】
・ティアが廊下の奥で拾ったのは、かすかに音を立てる丸い石
・ポヨはそれを羨ましそうに見ながらも、一緒にその場所にいた
・この静かなダンジョンは、今日もまた少しだけ新しいものを受け入れた




