第10話:スライムラジオ開局! 最果て放送局の第一声
ある日の昼下がり。
《音楽室フロア》にて、ティアが作ったハープを磨いていたそのとき――
「マスター! ラジオ局を作りたいです!!」
温泉から帰ってきたスライムが、湯気とともに勢いよく叫んだ。
「……は?」
「僕、思いついちゃったんです。毎日ダンジョンに流す“おしゃべりと音楽”の時間! 題して――《最果て放送局》!」
「まさかとは思うが、昨日の“ティアの朝の音楽”に触発されたな?」
「バレました! でも、朝の静けさと違って、僕は昼の笑い声を担当しますっ!」
ティアがハープを持ったまま笑う。
「いいですね、それ。スライムの声で放送されるダンジョンラジオ、癒しというより元気が出そうです」
「でしょでしょ!? もう構成も考えてます! オープニングは僕の歌、次にお便りコーナー、そしておやつ紹介!」
「お便りって誰から来るんだよ」
「え……マスターが書いてください」
「自己完結型か……」
さっそく、ダンジョン内の一角を改装。
《最果て放送局フロア》が誕生した。
石造りの壁面には吸音結界、天井には風音魔法がこもらないように細工。
魔力で稼働する《魔導音声送信機》が中央に鎮座し、その前にデスクと、パーソナリティ用の小さな椅子。
「ポヨ、その姿じゃ椅子に座れないだろ」
「大丈夫です! 形をちょっと変えれば――ほら!」
ぷるん、とスライムが自分の体を扁平に潰して、パーソナリティ用“座布団型”へと変形する。
「……完全に合ってるのが悔しい」
「僕、声のトーンも練習しました。“おだやかで、ちょっぴり毒舌”な癒しボイス!」
「だんだんラジオじゃなくて深夜番組みたいになってきたな」
そして――いよいよ初放送の日。
フロアの周囲には、ティア、キノコ三姉妹、ゴーレムのモグまでが勢ぞろいしていた。
みんな手作りの看板や応援うちわを持っている。
「がんばれポヨ〜!」
「ぷるぷる魂、響かせて〜!」
「第一声、かみませんように〜!」
ポヨは小さなマイク型魔導具の前に立ち、ふかぶかとお辞儀する。
「では――始めます!」
魔導具が淡く光り、ダンジョン全体に音が流れ出す。
「ぷるぷるぷる〜♪ ようこそみなさん、《最果て放送局》へ!」
「本日も、ダンジョンのどこかでぼーっと過ごしている皆さんへ、スライムのポヨがお送りしますっ!」
「まずは今日の癒し情報! 本日のおやつは、《ふわもちベリー大福》です!」
「中に入ってるのは、あの伝説の“とろり甘香果”! いや〜、キノコ三姉妹が畑で転がりながら育てた逸品ですよ!」
三姉妹「転がったから味がしみました〜!」
「うるおいタイムには、マスター特製のミントティーもおすすめ! 夜には《星見フロア》でのティーサービスもありますよ〜!」
「それでは最後に一曲。ティアさんの朝の調べより、《月光のつむじ風》をどうぞ〜♪」
放送が終わった後も、ダンジョンの各所には微かな音の余韻が漂っていた。
ポヨは息を切らしていた(スライムに肺はないが、魂の疲労というやつだ)。
「……つ、疲れたぁ……でも……でも……」
ティアがタオルをかけてやる。
「とても良かったわ。声も軽快で、聞いてて楽しかった」
「ほんとですかぁあああっ!?」
「明日もお願いね?」
「ま、毎日っ!? が、がんばります……!」
こうして、《最果て放送局》は誕生した。
それは、戦わず、ただ暮らすこの場所において、誰かが誰かの心に触れる“言葉の橋”となる場所だった。
ティアがつぶやく。
「ここには、音も、香りも、言葉も……ちゃんとある。
それが、こんなにもあたたかいものなんだって、今さら知りました」
俺は頷いた。
「誰もこないダンジョンだからこそ、届けられる“声”があるのかもな」
夜、最果ての空間に響くのは、スライムの穏やかな放送の余韻と、
ほんの少しだけ照れくさそうに笑う、仲間たちの気配だった。
◇あとがき
今回はちょっと明るく、癒しのラジオ回。
声を届けるという行為は、異世界においても大きな意味を持つと考えています。
“誰かがそっと耳を傾ける”――それだけで、居場所は生まれるのだと思います。
ポヨの放送は、今後もちょくちょく登場予定。
リスナーは増えないかもしれませんが、心にだけは響きますように。
◇応援のお願い
ポヨの放送、楽しんでいただけましたか?
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ぷるぷる声が、また響くために――




