08 どうしたものか
僕のダンジョンが動き出して、数年が経った。
ここを訪れる冒険者パーティも、今では一日10組くらいになっていた。
当初からあまり増えていないのは、僕のダンジョンが上級者向けとして知られるようになったからだろう。経験が一定レベル以下の初心冒険者は、僕のダンジョンを敬遠してるみたい。
ちなみに冒険者たちは、僕のダンジョンのことを三角山の大迷宮と呼んでいる。ダンジョンの入口がある丘の名前が三角山というらしい。
なんでそんな事情を知っているのかというと、冒険者たちの会話を盗み聞きして、この世界の情報をせっせと集めていたからだよ。
『己を知り敵を知れば百戦危うからず。やっぱり情報は大事だからね』
ダンジョンそのものは当初からあまり手を加えていない。
現状で十分すぎるというか、そもそも冒険者たちはあまり深くまで潜りたがらない。なにしろ、彼らは金を稼ぎたいからダンジョンを探索しているわけで、決して冒険をしたいわけではないんだよね。
「冒険をしないで何が冒険者か!」なんて威勢のいいことを言う奴もいなくはないが、そういうのはほとんどの場合、長生きはできないから。
冒険者というと夢のある仕事のように聞こえるけど、実際のところは何でも屋だよ。ロマンとは真逆の、ものすごい現実的な仕事なんだよね。
ともかく、僕のダンジョンに探索に来るってことは、地道に依頼を受けるのが嫌で手っ取り早く金が欲しいってことだから、余計に冒険は避けるってわけ。
『そのことに早く気づいていれば、もうちょっと違うダンジョンを作ったのに……。誰がこんな馬鹿みたいに広いダンジョンを攻略するよ?』
僕の血と汗と涙の結晶である、恐ろしく複雑で呆れるほど広大なダンジョンは、全体のほんの片隅しか探索されていない。もったいなさすぎるだろ。
まぁ、面白がってダンジョンを広げまくったのは僕なんだけど。まったく、バカだよねぇ。
たいていの冒険者パーティは、地下2階くらいまでしか降りてこない。たしか地下4階まで降りてきたのが最高記録で、そんな連中もそれ以上の探索をすぐに諦めてしまった。そのときパーティ01と遭遇してしまって、賢明にも彼らは逃げる判断をしたからね。
『浅い階の宝箱を減らすか? もう、なくすか? いやいや、そうすると人が全然来なくなるじゃないか。徘徊組をもっと下の階へ移そうかな。でも、モンスターが一匹もいないダンジョンって、つまんなくない? だいたい僕は道楽でダンジョンを運営してるわけじゃないんだよ。ただでアイテムをくれてやるとか、それはダメでしょ』
もう何回も考えたことだ。いくら考えても納得のいく良い案は浮かばない。この身体になってからというもの、一日二十四時間頭は冴えわたっているけど、元々の頭の良さというのは変らないんだよね。
『誰かが言ってた。こういう時は相手の立場になって考えるといいんだよ』
冒険者はここで仕事をして、どこに帰るのか。
ここから北に向かって歩いて三日の街だ。街までずっと草原で、何もないところを野宿しながら歩いて帰るわけだ。それって結構大変だよね。
冒険者は帰りのことを心配しながら、ダンジョン探索をしている。
もっと言うと、ダンジョンに来るまでに三日歩いているわけだ。徒歩で往復六日の行程というのは、なかなか重荷だろうな。疲れも溜まるし食費もかかるし。
『つまりその面倒を軽減してやれば、本来の仕事に集中できる。もっと深くまで探索するはずだ。よし、分かったぞ!』