07 ダンジョン運営の日々
「ぐわぁぁ!」
最後まで生き残っていた戦士が、リッチの魔法を食らって死亡。
一つの冒険者パーティが全滅した。
『無理するから……』
彼ら冒険者の死体はダンジョンに吸収され、僕の魔力の源になる。彼らの衣服や持ち物はその場に残るが、たいていは後から来た別の冒険者に回収されていく。
装備品は売れば良い金になるだろうし、冒険者証をギルドに持って行けば報奨金が出るらしいからね。宝箱を開けるよりも安全だし。
それにしても、人の死にほとんど気持ちが動かなくなった。それこそ羽虫が死んだくらいの平坦な心で見ていられるのが不思議だ。
『僕って元からこうだったっけ? いや、そんなことはないよなぁ……。この身体になったから、心も人間じゃなくなったのかな』
僕のダンジョンが本格始動してから、3カ月が経過していた。
ここを訪れる冒険者は初めのうちはまばらだったが、今では一日一組は探索にやって来る。ここは街からすごい離れているのに、その割には結構繁盛していると思う。
累計で50組以上が僕のダンジョンを訪れ、そのうち3割ほどが全滅、もしくは半壊している。
『冒険者とは、なんと危険な商売なんだろう。僕には絶対無理だね』
一度も働いたことのない僕が言うのもなんだけど、もっとましな仕事に就くべきだと思うんだよね。こんな僻地までやってきて、儲けが出る保証もないし、結構な割合で死んだり死にそうな目にあったりするんだよ。ブラックどころじゃないじゃないか。自分の命をかけて博打を打っているようなものでしょ。
『ダンジョンを運営しているお前が言うなって? フフッ、確かにそうだ』
ここを訪れた冒険者の死因の一番は、パーティ01との遭遇だ。
パーティ01は地下1階から地下4階までを受け持っていて、適当に徘徊している。
冒険者たちを探し回っているわけじゃない。本当に適当にブラブラと散歩している感じだから。
ダンジョンのそれぞれのフロアは平均して5キロ四方、つまり25平方キロメートルくらいあって、それが4階層あるわけだよ。ざっと計算しても100平方キロメートルだからね。ちょっとした都市レベルの広さだよ。しかもただの平面じゃなくて複雑な迷宮だ。
普通に考えれば、冒険者パーティと徘徊組が遭遇することなんて、まずないよね。ところが、運の悪い連中というのは一定の割合でいるんだな、これが。
僕はパーティ01を率いているリッチに、逃げる者は追わないようにって言ってある。だから、逃げれば助かるんだよ。でも不思議なことに、彼らに遭遇したほとんどの冒険者たちは戦おうとする。そして見事に返り討ちに合うという……。
『勝てるわけないのに』
この3カ月で分かったのは、リッチが本気を出すと並の冒険者たちでは手も足も出ないということだ。強いとは思っていたけど、あれほどとは思わなかった。
人間の魔法使いでは扱えないような強力な魔法を自由自在に操るんだから。
冒険者たちがリッチを知らないのかというと、そうじゃない。リッチの存在を知っているのは確かなんだ。だって、ほとんどの冒険者は「やばいリッチだ!」とか叫ぶから。その上で戦うというのは、気が動転したせいなのかな。知らんけど。
リッチに率いられているスケルトンたちも、前衛としてなかなか良い仕事するしね。だから徘徊組のバランスは思った以上に良い。彼らと対等な勝負ができる冒険者パーティは、今のところ現れていない。正面から戦った者たちは皆、敗北している。
彼ら徘徊組はアンデッドパーティなので、損傷しても致命傷でなければ、ダンジョンの魔力ですぐに修復される。本当にコスパが良くて大助かりだよ。
『それにしても、あんなもので儲かるのかねぇ』
低階層のアイテムなんて大したことないはずだけど、冒険者たちは何か見つけるたびにえらく嬉しそうにしていた。だからそれなりに高く売れるんだろうけど、命をかけるほどの物かというと疑問だ。なにしろ魔力さえあれば、いくらでも量産できるものだからね。僕にとってはゴミ同然だったりする。
『街に持って帰ったら木の葉や石ころに変わっていた、とかそんなことはないよなぁ。さすがにそれは可哀そうか……』
今のところ、地下3階の真ん中くらいまでしか冒険者は来ていない。たいていのパーティは慎重で賢明だからね。なるべく浅い所で仕事を済ませて、サッサと退散してしまうんだよ。
変に無理をした愚かなパーティは……。
だから10階おきに配置しているフロアガーディアンも、地下4階より下で徘徊しているモンスターたちも今は無駄になってしまっている。
『いつかは役に立つときも来るよ。僕みたいにね』
地下1階から地下3階までの宝箱や罠は、たびたび配置する場所や種類を変更している。ずっと同じだと、冒険者たちにすぐに覚えられてしまう。僕も慈善事業でやってるわけじゃないから、やすやすと攻略させるつもりはないし。
それから、冒険者をある程度倒すと、僕の最大魔力量が少し増えることが分かった。たぶん、ダンジョンコアとしてのレベルが上がるんだと思う。だから、冒険者には程ほどに死んでもらうつもりだ。僕のダンジョンでは、不運で機転の利かない者たちが死んでいく。これは自然の摂理といってもいいよね。
でも、あまり厳しくしすぎると冒険者たちが寄り付かなくなってしまうだろう。だから、バランスが大事だ。これまでのところは、順調にいっていると思う。