06 ようやく冒険者がやって来た
男五人のパーティだ。
ぎりぎり青年、オッサン手前って感じ。体つきや身に着けている物からすると、戦士が二人、魔法使い二人、斥候役が一人。周囲に油断のない視線を飛ばしながら、ゆっくりとダンジョンに近づいて来る。
斥候はいかにも動きやすそうな服装をしている。
柔らかそうな革のブーツを履き、部分的に革の補強が入った布の服。腰には小さなポシェットのような革カバンをまきつけ、ベルトには短剣が差さっている。さらに肩には小さな弓を引っかけている。
戦士は二人とも丈夫そうな革鎧と革の兜に革のグローブ、左腕にはごく小さな円形の盾を固定している。腰には剣を提げている。履いている革ブーツの甲には金属の補強がしてある。防御力優先という感じか。
魔法使いは布の服の上から、すっぽり首から下を覆うマントを羽織り、一人はつば付きのとんがり帽子、もう一人はバケツのような円筒形の帽子をかぶっている。二人とも宝石のはまった長さ1m程の杖を持っている。
五人全員がそれぞれ、小さめのリュックを背負っているが、サバイバル用品や食料が入っているのだろう。
『これだよ。こういう連中を待ってたんだよぉ』
僕は彼らの冒険者然とした出で立ちに嬉しくなった。
斥候は僕の気配に気が付いたのか、入口の方をチラッと見て少し顔色を変えた。
「どうした?」
「いや、何だろうな……。たぶん気のせいだろう」
彼らは入口前にしゃがみ込み、小声で打ち合わせを始めた。
『おぉっと、あの斥候は中々勘が鋭いな』
とりあえず僕の独断と偏見で、パーティを仕切っている戦士をリーダー、もう一人の戦士をゴリ、斥候を猫足、魔法使い二人はとんがり帽と丸帽と呼ぶことにした。
しばらくすると打ち合わせが終わったのか、彼らはダンジョンへ入る準備を始めた。各々のリュックの中身を軽くチェックしたり、装備を付け直したりブーツを履き直したりしている。
魔法使いの一人、丸帽が口の中でなにやら呪文を唱えると、ソフトボール程の光り輝く球体がひとつ出現し、彼らの頭上に浮かんだ。
『灯りの魔法か? あれは便利そうだなぁ』
「よし、行くか」「「「「おぅ!」」」」
斥候を先頭に、戦士二人、魔法使い二人の並びで、ダンジョン一階層につながる階段を静かに降りていく。
猫足の足運びは非常に独特で、まさに猫のように足音がしない。後ろの戦士や魔法使いも気を付けているが靴音は消せない。
彼ら五人は猫足を先頭に、スイスイとダンジョンを進んだ。
「おい、帰り道は分かるんだろうな?」
リーダーが先を行く猫足にたずねる。
「大丈夫だよリーダー、地図は全部ここに入ってるから」
猫足は自分の頭を指さす。
「お前に何かあったら、残された俺たち全員が道に迷うだろうが!」
「その通りだよ。だから俺を優先的に守ってくれよな」
猫足は悪い顔をして、ニカッと笑った。
「冗談だよ。次の休憩でマッピングしとくから」
彼らはほどなく小さな部屋に到着した。
猫足が部屋の一角を指さす。
「ほら、お宝だぜ」
「おほぉ、宝箱か」
「これはお楽しみだ」
「ですね」
今まで静かだった面々が、少し気が緩んだのか口々に話し始めた。
「おい、お前ら油断するんじゃないぞ!」
リーダーが怒鳴って、皆を黙らせる。
「ちょっと確認するから、離れて待っててくれ」
猫足が仲間に声をかけてから、宝箱に静かに近づく。宝箱をいろいろな方向から観察したあと、腰のカバンから道具をいくつか取り出した。
鍵穴に道具を突っ込みカチャカチャとやることしばし、カチリと音が鳴った。
「鍵が開いたぞ。どうやら、罠は仕掛けられてない様子だ」
慎重に宝箱のフタを開け、中に入っていた物を取り出す。
「こいつは、当たりかもな」
猫足の手には鞘に宝石が散りばめられた短剣が握られている。猫足はその短剣を、とんがり帽に手渡した。
「頼むぜ」
「あぁ、任せなって」
とんがり帽が口の中で何やら呪文を唱えると、彼の目が薄い黄緑色に光った。
「おほぉ! こりゃぁ当たりだね。魔法付与はないが、宝石の価値だけでも売れば100万ゴルドは固いぞ。それに短剣としてもなかなかの業物だ」
とんがり帽がすらりと鞘から短剣を抜くと、怪しい光沢のある刃を皆に見せる。猫足が手に持ってしげしげと確かめると、ぴゅうと口笛を吹いた。
「確かにコイツは値打ちものだな。どうする、リーダー?」
「……せっかくだ。もう一つ行ってみるか」
「「「「おぅ!」」」
『そろそろ仕掛けるぞ。パーティ01、かかれ』
『かしこまりました』
「む! リーダー何か来るぜ!」
猫足がパーティ01の接近に気づく。
「スケルトン4! リ、リッチ1!」
「「「「なにぃ!」」」
猫足が後ろに下がり、戦士二人が前に出てくる。剣を抜き、身構えた。
「援護を頼む!」
リーダーが叫ぶ。
「ほいきた」「分かりました」「すまん、あいつらには弓は効かねぇ」
丸帽が小さく呪文を唱えると、前衛二人の身体が薄緑に光った。なにかしらの肉体強化魔法だろうか。
「うぉらぁ!」
ゴリがスケルトンの一体に斬りかかる。剛腕から繰り出されたそれを、スケルトンは盾で受け流しつつ、ゴリから少し距離を取った。
「せいや!」
リーダーはグッと踏み込み、別なスケルトンを袈裟懸けに斬った。スケルトンは盾で攻撃を受けたが、左腕が盾ごと砕かれてしまった。
「おっしゃぁ!」
リーダーが雄叫びを上げる。
「ショックウエイブ行くぜ! 避けてくれよ」
「「おうよ!」」
とんがり帽が持つ杖の先から、目に見えない何かが飛び出す。
『ぎりぎりの魔力で防御しろ』
リッチがパーティ01の前面に、透明な障壁を展開した。
とんがり帽の魔法は、障壁によって無効化されたが、障壁も一緒に四散した。
「くそっ! あと少し威力が足りないか……」
とんがり帽が悔しそうな声を上げる。
「仕方ない、俺たちでやる! うぉらぁぁ!」
スケルトンはゴリの攻撃をするりとかわして、ゴリと微妙な間合いを保つ。リーダーに腕を砕かれたスケルトンは、後ろのスケルトンと入れ替わって後衛に回った。
「こいつらちょこまかと……」
リーダーはスケルトンたちの動きにいら立っているようだ。
僕はパーティ01に細かく指示をだした。冒険者が引けば追い、彼らが攻撃しようとするとサッと距離をとる。冒険者たちを挑発しながら、彼らに気づかれないように、奥にある通路へと誘い込んだ。
「せいやぁ!」
攻撃が当たらないことに苛立ったリーダーが、さらにグッと踏み込み、スケルトンに攻撃を加えようとしたその時。
「リーダー、そっちはマズいぞ!」
猫足が叫んだが遅かった。カタリと何かが外れる音がすると、前衛の戦士たちの頭上に拳大の石がドカドカと降り注いできた。
「うがっ!」「いてぇ!」
僕は彼らが混乱している隙に、パーティ01をダンジョンの奥へ退散させた。
「くそぉ……、なんだよアイツら!」
リーダーが悔しがって叫ぶ。
「傷を診ましょう」
丸帽が戦士たちの治療を始めた。傷を負った部分が薄青く発光している。
『回復魔法というやつか。どういう原理なんだろうな、あれは』
「はい終わりました。でも、あざはしばらく残るでしょうね」
「あんな見え透いた挑発にのるから……」と、とんがり帽。
「油断した」「すまない」
二人の戦士は申し訳なさそうな顔をした。
「それはそれとしてだ、リーダー。奴らのあの動きは、ちょっと巧み過ぎるぜ。俺は底知れない意思を感じた。ここらが潮時だと思うんだが、どうだ?」
勘の良い猫足が、スケルトンたちの動きに違和感を持ったようだ。
「……そうだな。確かに妙に統制がとれていた。儲けはもう十分だし、お前の勘は当たるからな。今回はここまでにしよう。引き上げだ!」
「「「「了解!」」」
冒険者たちはもと来た道を、静々と引き上げていた。
『へぇぇ、プロっぽいなぁ』
僕は彼らの判断に感心した。
彼らは動きからして熟練冒険者だと思う。その連中相手にパーティ01は楽々とわたりあったわけで、この結果に僕は満足した。
『適当に作ったパーティのわりに、なかなか良いバランスだったな』
ちなみに、僕のダンジョンに入った冒険者がダンジョンを出ると、僕の魔力が少し回復する。たぶん撃退ボーナスという扱いだと思う。まぁ、宝箱や罠のリセットに魔力が必要になるので、プラマイゼロなんだけどね。
たぶんダンジョン内で冒険者を倒せば、もっと多くの魔力が回復すると思う。もしかしたら、最大魔力量も増えるかもしれない。
ともかく今回は様子見だったが、次からは本気でいかせてもらおう。