24 S級冒険者
ある日の朝。
「何じゃムサシ、ダンジョンの改修をしたのかの?」
「うん。夜のうちにちょっとね」
「なるほどのぉ、あれを使ったんじゃな」
アルテシアが床や壁を触って納得している。
「そゆこと。僕はこう見えても慎重派だからね」
「ムサシ様の目はずっと先を見ておられるのです」
シグレがふふんと鼻を鳴らして得意げな顔をする。
「まぁ良い。それよりもムサシ、朝飯じゃ」
アルテシアは空の皿をスプーンでカンカン叩いて催促をした。
「あなた! お行儀が悪いですよ。まったく食べることばかり熱心で困ります」
「何を言う! 食わずして何が人生か。一に食事、二に魔法、それから女じゃ……むふふふ。これを見よ」
アルテシアがおもむろに懐から一本のナニを取り出した。
それは怒張した男性器に似せたた形をしており、柔らかい素材で作られているのか、アルテシアの手の動きによってフルフルと揺れ動いている。
「なっ!?」
それを見たシグレは顔を赤くして固まってしまう。
「まぁ! アルテシア様ったら……うふふふ」
一方カリンは嬉しそうに笑うのだった。
「ちょっ!? アルテシア、それってあれだよな? なんでそんなものを持ち歩いてるんだよ……」
「そうとも、あれじゃ。長年の研究の末に手に入れた新素材で作ったのじゃ。肌に良い潤滑剤もあるぞ。シグレよ、どうじゃ試してみんか? のう? ホレホレ」
アルテシアは手に持ったそれを揺らしながら、シグレににじり寄る。
「ヒィ」
シグレは僕の後ろに隠れてしまった。
「アルテシア、シグレが嫌がってるじゃないか。だいたいそんなもので、どうしようっていうんだよ」
「ふふん。これは普通のとは違うのじゃ!」
アルテシアはそれを誇らしげに掲げて、僕に良く見えるようにした。
それは普通のものよりも幾分か長く、双頭になっていた。
「どうじゃ!」
「……そっ、そうか、分かった。分かったから朝ごはん食べな」
「おぉ! そうじゃったそうじゃった。今朝の飯も美味そうじゃのぅ」
アルテシアはブツを懐にしまい込むと、いつものようにすごい勢いで食べ始めるのだった。
朝食をがっつくアルテシアの元気な姿を見ながら考える。
そういえば、僕は女性経験がないまま死んでしまったんだ。それで気が付くとダンジョンコアになっていたわけで、このままだと永遠に経験できないままってことか。
性を謳歌しているアルテシアを見て、羨まし……くはないな。
肉体を持たない僕からすると、今や肉体由来の欲求はあまり現実味を感じないのだった。
何か味気ない気もするけど……。
「うん?」
「どうかなさいましたか、ムサシ様」
「ああ、ダンジョン市場の店主から連絡だ。S級冒険者パーティが入ってきたって」
冒険者は経験や実績、昇格試験の成績など諸々の要素によってランク分けされている。
見習いのF級から順に、EDCBASという並びになっていて、B級以上が上級者と言われている。僕のダンジョンは上級者向けとされているので、B級A級の冒険者が多く訪れているのだった。
S級は上級冒険者の中でもずば抜けた実績を残した者たちに与えられる名誉称号のようなもので、非常に希少なランクだ。僕もS級の冒険者パーティを見るのは初めてだ。
僕は地下一階のダンジョン市場に意識を移し、僕が知覚した映像と音声をシグレたちの前に投影した。
「おぉ!? ムサシよ、お主なかなか器用なことをするではないか。ムグムグムグ……」
アルテシアは朝食を片付けながら興味深そうに映像に見入っている。
「あの者たちがそうなのですね。何か手をお打ちになりますか、ムサシ様」
「いや、とりあえず様子を見てようか。面白そうだし」
四人組のパーティだ。見たところ戦士が一人、魔法使いが二人、斥候役が一人。
彼らは有名人らしい。周りにいる他の冒険者たちのどよめきが聞こえてくる。
ドラゴンスレイヤー……鬼の腕……。
「鬼の腕じゃと? この国屈指の冒険者パーティじゃな。あの戦士が剛腕のイワン。こっちの魔法使いが紅蓮のローズ。あっちが鉄壁のリヒター。それから疾風のコタロウ。全員が二つ名を持つS級冒険者じゃ」
「随分と詳しいじゃないか、アルテシア」
「奴らは王都を襲撃したドラゴンを倒した、救国の英雄じゃぞ。知らん方がもぐりなのじゃ。まぁお主はずっと引きこもっておるから、知らんのも仕方がないがの」
「うっさいわ。僕はダンジョン運営で忙しいの。だいたいこの体じゃぁ出歩けないだろ?」
「その通りでございます。ムサシ様はご自身の役割を立派に果たしておいでです。虫けらどものこまごまとした事情など、ムサシ様が知る必要がないのです!」
シグレは物理的な何かが出ているような険しい目でアルテシアをにらみつけた。
アルテシアは涼しい顔で食事を続けるが、アルテシアの後ろに控えていたカリンは、シグレの圧力で小さくなってしまう。
「ひぇぇ」
「……まっ、まぁ、連中がそれなりの実力者ってことは分かったよ。問題はどこまで降りてこれるかだな」