23 岩盤の正体
アルテシアが僕のとこにやって来て1ヶ月が過ぎたころ、各フロアの魔術回路の書き換えがついに完了した。彼女も食って寝てばかりではなく、ちゃんと仕事はしていたのだった。
仕事の合間に魔術回路のことを教えてくれることもあった。そのおかげで、僕は基本的な魔術回路なら組み立てることができるようになっていた。
魔法を使う魔物たちには、あるアイテムを装備させた。このアイテムは従来の魔法を変換して改良型の魔法を発動することができるものだ。より魔力消費が少なく精度が高く効力も大きい改良型魔法が、アイテム一つで使えるようになるわけだ。
この変換装置的なアイテムは、僕が初めて魔術回路を一から組み立てて作ったものになる。
「これで僕のダンジョンが魔法的に強化されたということか。ありがとう、アルテシアのおかげだよ」
「ふふん、そうじゃろうとも。もっと褒めるが良い」
アルテシアは腰に手を当て得意顔だ。
そんなアルテシアをカリンがウットリとした目で見つめて言った。
「さすがはアルテシア様です」
それを聞いたシグレの片眉がピクリと上がる。
「カリン、お前はアルテシアの秘書である前に、ムサシ様のしもべなのですよ。それを忘れてはいけません」
「はっ、これは申し訳ありませんでした、シグレ様」
「まぁまぁ、シグレ。カリンはアルテシアのお世話係として召喚したんだから、これまで通りで問題ないよ」
「ムサシ様がそうおっしゃるのなら、致し方ありませんが……」
「そんなことよりも、シグレもこれを着けて」
シグレ用に特別に作った、大きなルビーが嵌ったブレスレットを渡す。もちろんこれにも魔法変換用の魔術回路が組み込まれている。
「まぁ! なんて美しいの」
さっきまでの不満顔がパッと笑顔に変わった。
「シグレもこれで改良型魔法が使えるようになるよ」
「ムサシ様、ありがとうございます」
アルテシアはそんな僕たちのやり取りをにやけ顔で見ているのだった。
「ところでムサシよ、ドワーフどもは何をしておるのじゃ?」
「あぁ、あれはオリハルコンの採掘をやってるんだよ」
「オリハルコンじゃと? しかし、あれは……」
「すごい硬い岩盤にぶち当たって難儀してるらしいけどね」
「お主の言う硬い岩盤というのは、あの黒いやつのことじゃろ?」
「そうそう、黒くてガラスみたいにツヤツヤしたやつね」
「あれはお主、アダマンタイトの塊じゃぞ」
アルテシアはあきれ顔で言った。
「アダマンタイトだって?」
RPGでお馴染みの超硬度金属アダマンタイトまでこの世界にあるとは。
「なんじゃ、知らんかったのか」
「うん、ドワーフたちも知らなかったし……」
「まぁ非常に希少なのは確かじゃがな。しかしドワーフどものあのやり方では、百年かかっても穴もあけられんじゃろ」
ドワーフたちは採掘したオリハルコンを使って、魔法のつるはしを苦労して作り出した。そして、そのオリハルコン製の魔法のつるはしで岩盤を少しずつ削っているのだ。彼らが必死で丸一日働いても、ちょっとしたくぼみができる程度だった。
「何か他にうまいやり方があるの?」
「うむ。アダマンタイトを掘るなら、アダマンタイト製の道具を使うしかない」
確かにそうだ。それかアダマンタイトよりも硬い道具を使うか。
「なるほどね」
「ドワーフどもには教えてやらんのか?」
「う~ん……、実はかくかくしかじかで」
「なんじゃと? そういうことであったか、お主も悪い奴じゃな、ふははは」
アルテシアは悪い顔をして笑った。
「彼らには当分の間は黙っておいてよ」
僕のダンジョンコアとしての具現化能力を使えば、アダマンタイト製のつるはしでもダイアモンド製のドリルでも作れると思うけど。彼らにあまり効率的に働かれると、困ったことになるからね。
「それはそうと、ムサシよ」
「何?」
「3時じゃ、3時のおやつじゃ!」
「……はい、ハンバーガー」
僕が作り出せる物は基本的に僕が知っている物だけだ。
だから、おやつとかの食べ物も以前に僕が食べていたものばかりになる。あの謎エールという例外はあるけどね。今出したハンバーガーも有名なファーストフード店のものでもないし専門店のものでもない。スーパーで売られている一つ百何十円くらいのものだったりする。
「おぉ!? パンの間に調理した肉と野菜が挟まっておるのか? はぐはぐはぐ……美味い。もう一つじゃ!」
「……はい、コロッケバーガーとコーヒー牛乳」
「おぉ!? さっきのとは違うのか? 飲み物とは気がきくではないか。はぐはぐはぐ……ぐびぐびごくり……美味い! 次!」
この調子でアルテシアはハンバーガー五つを平らげた。