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22 いつもの朝



 ダンジョンコアの朝は早い。というか、僕は寝ないので朝も夜もないんだけど。

 ともかく、朝のうちに済ませておくことがある。


 まずは週一回のドワーフたちへの食材の提供だ。

 彼らの好きな料理は人間とはちょっと違うようなので、調理済みのものよりも素材でもらった方がうれしいらしい。ジャガイモ、玉ねぎ、キャベツ、豚肉、小麦粉等々、好きなだけ出してやっている。砂糖や塩などの調味料、香辛料、それから酒。


 酒は僕が未成年だったから、あまり種類が出せない。以前に家で盗み飲みをしたワインと養命酒と梅酒しか僕の記憶にないからだ。それでもドワーフや冒険者たちには好評で、ドワンガなどは養命酒をいたく気に入ってるのだった。


 ファンタジー物の小説なんかだとエールが定番だけど、僕は飲んだことはおろか見たこともない。

 でもある時、ふざけてエールを作ってみたら、なんと出来てしまった。ぼんやりとビールの原型みたいな泡の出る酒だろうと、適当に味を想像しながら作り出してみたのだ。

 想像上の産物である出来上がった何かを、ドワーフたちに恐る恐るふるまってみたら、思った以上に受けた。


「こっ、これは!? 今までわしらが飲んでいたエールは何だったのか!」

「グビリ……ンゴゴゴゴ、ぷはぁ。もう一杯!」

「美味い! なんという芳醇な味わいじゃ! とてもエールとは思えん」


 まぁ、エールではないんだけど、どうやら美味いらしい。僕の体で味を確かめることができないのが残念だ。

 ともかく、このエールもどきも僕が作る酒の定番となり、ドワーフや冒険者たちに親しまれることになった。



 それから、ダンジョン市場の食堂と酒場だ。

 クリームシチューやカレーなど温め直して提供するものはそのまま大鍋に入れて、トンカツやからあげ、串焼きなどは調理前の状態で、直接店の厨房にドカドカと出現させる。

 ダンジョン市場は僕が意図した以上に繁盛していて、店も連日のように超満員だった。なので、一日で消費される食材も最近では物凄い量になっている。


 ダンジョンの運営をしていたはずなのに、いつのまにか僕は食材製造マシーンになっていた。

 まぁ、そのおかげで僕の具現化能力に磨きがかかったから、これはこれで良かったと考えている。なにしろ最初のうちはカレー味のシチューが出てくることも良くあったから。味を想像力で再現するというのは、なかなか難しいのだ。


 ちなみに、味の確認は店主の悪魔やシグレにお願いしている。


「いつもながら、お見事なお味でございます」


 店主の悪魔が一礼して言った。

 僕の召喚した魔物たちは僕の魔力で生きているので食事は必要ないが、一応味覚や消化器官は備えているらしいから助かる。



「ふぅ、本日分はこれで良いだろう」


「お疲れ様です、ムサシ様」


「さてさて、もう一仕事しないとな」


「……さようでございました」


 シグレは少々渋い顔をしながら、テーブルと椅子を用意する。

 僕はテーブルの上に料理を出していく。今日は洋食にしてみた。巨大な煮込みハンバーグと山盛りのベイクドポテト、ブロッコリーと人参の炒め物、コーンポタージュ、それからフカフカのパン。


 これらはアルテシアの朝ごはんだ。

 ゆうに三人前はあるのだが、彼女は大人の男の倍は食べるのでこれが普通なのだ。


 僕が料理を出し終えたタイミングで、アルテシアがカリンを伴って部屋に入ってきた。


「ムサシよ今日の朝飯は何じゃ? 良い匂いが漂ってくるではないか」


 アルテシアはそう言いながらテーブルに着くと、さっそく料理に手を伸ばしている。


「おはようございます、ムサシ様、シグレ様」


 カリンが僕たちに深々と頭を下げて挨拶をした。


「おはよう、アルテシア、カリン」



「あなた! お行儀が悪いですよ!」


「ガツガツ……硬いことを言うでない、アグアグアグ……この肉は口の中でとろけるのぉ。実に美味い!」


 アルテシアはシグレの小言を聞き流しつつ、ものすごい勢いで朝食を平らげていく。カリンはアルテシアに飲み物をついだり、口の周りをぬぐったり、かいがいしく世話をしているのだった。



「……ふぅ、満足じゃ。ムサシよ、10時のおやつも期待しておるぞ」


「アルテシア、お前今食ったばかりだろうが」


「何を言うか! 食ほど大事なものはないのじゃ。一に食事、次に魔法、それから女……むふふ。シグレよ、今晩三人でどうじゃ?」


 アルテシアは食後のコーヒー片手に、スケベおやじそのもののセリフを吐く。


「まぁ、アルテシア様ったら……ウフフフ」


 それを聞いたカリンはなぜか嬉しそうだ。


「ヒィィ、あっ、あなたいい加減になさい!」


 シグレは腕に鳥肌を立てて後ずさった。


「アルテシア、シグレが嫌がってるじゃないか」


「なんじゃ、けちじゃのぉ。減るものじゃなし……」


 捨て台詞もスケベおやじそのものだった。


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