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20 魔法の穴



 僕は考える。


 ダンジョンの各階には、それぞれ管理者を配置している。

 彼らはダンジョン市場の店主たち同様、僕が召喚した悪魔だ。受け持ったフロアを常に監視していて、何か異常があればすぐに僕に連絡が入るようになっている。彼らはネズミ一匹見逃さない目を持っているので、不審なエルフが侵入すればすぐに気が付くはずだ。


 それに10階ごとにフロアガーディアンを配置している。彼らは戦闘に特化した非常に強力な魔物たちだ。並みの冒険者パーティーではとても太刀打ちできない。

 彼らも侵入者を絶対に見逃さないので、階段前に待ち構えている彼らのわきをすり抜けるのは、まず不可能と言っていい。


 僕のダンジョンでは瞬間移動の魔法が阻害されるので、一足飛びに飛んでくることはできない。唯一シグレだけが、阻害をキャンセルできるアイテムを持っている。


 だから、部外者が誰にも気づかれず何事もなくここまで来るのは不可能だ。



「考えたけど分からないな。絶対に無理だと思ってたんだけどね」


 僕は素直に降参した。

 アルテシアは僕の答えに満足したのかニヤリと笑って言った。


「そうじゃな。並みの冒険者であれば100年かかっても無理な相談じゃ。不可能と言い切っても良い。じゃが、私は千年以上にも渡って魔法を研究してきた」


「うん、それでそれで?」


「まぁ急かすでない。お主は魔法も使えるし、魔法のアイテムも作り出せるじゃろ? このダンジョンを好きに作り替えることもできる。じゃが根本的な原理までは知らん」


「確かにそうなんだよね。僕も疑問には思ってたけど」


「それは、お主だけじゃない。この世界の魔法使いたちもそうなんじゃ。原理を知らんまま魔法を使っておる。実に嘆かわしいことに、真理を探究しようとするものはほとんどおらんのじゃ」


「使い方は知っているけど、なぜ魔法が発動するのかは知らないと……」


「そうじゃ。原理を知らねば、もしその魔法に欠陥があってもどうにもできまい? そもそも欠陥があることすら知りようがないじゃろう」


「ええっと、ということは今使われている魔法にも欠陥があるってこと?」


「分かってきたようじゃの。要するにじゃ、この世界で使われておる魔法は穴だらけということじゃ。古代からほとんど進歩しておらん」


 アルテシアは右手にはめた銀色のブレスレットを僕に見せた。そのブレスレットの表面には非常に細かな電子回路のようなものが刻まれているのが見えた。


「これは私が500年ほど前に作ったものじゃが、いまだに問題なく使えておる。この世界のあらゆる魔法を無効化するブレスレットじゃ」


「なっ!? それがあれば無敵ってことか」


「うむ、対策をしていない昔ながらの魔法にはな。お主のダンジョンにかかっておる瞬間移動阻害の魔法も、このブレスレットがあれば機能せんというわけじゃ」


 アルテシアが得意げな顔をする。


「そういうことだったのか……。ちなみにこのことを知ってる人って、他にどれくらいいるのかな?」


「私の知る限りでは、いくつかのダンジョンコア以外にはおらん。まぁ独自に隠れて研究しておる者がいるやもしれんが、可能性は低いじゃろ」


「わざわざ伝えに来てくれたってことは、対策法も教えてくれるってことだよね?」


「おぉ、物分かりが良いな。その通りじゃ。じゃが無償というわけにはいかんがの」


 アルテシアが可憐な少女には絶対まねができない悪い顔をする。


「……だよね。それで何が欲しいの?」


 金銀財宝だろうが魔法のアイテムだろうが、今の僕なら何でも作り出せる。たいていのことなら痛くも痒くもない。


「そうじゃのぉ……。まずは衣食住の面倒を見てもらおうかの」


「ここに住むってことか。それくらいならお安い御用だよ」


「言っておくが質素な暮らしはご免じゃぞ。飯も美味くなければダメじゃ」


 シグレの眉がぴくっと動いたが、声に出してまでは反対しない。アルテシアの情報の重要性を理解しているのだろう。


「分かってる。できる限りのことはさせてもらうよ」


「それから、10時と3時のおやつは必須じゃ」


「……わかったわかった」


「それから、研究に必要な資材をその都度出してもらおうかの」


「僕が知ってるものならいくらでも出せるけど、未知の物質とかは無理だよ」


「ふん、まぁ良いじゃろ。それから――」


「ちょっと待ちなさい」


 シグレがアルテシアをにらみつける。


「もう十分ではないですか?」


 シグレの言葉は穏やかだが、アルテシアを見る表情は非常に険しい。


「まぁまぁ、シグレ。これくらいの要求は僕にとっては大したことないし、アルテシアの情報は僕たちの生死にかかわるかもしれない重要なものだよ」


「ですが……」


「構わないんだ。アルテシア、他には?」


「お主はなかなか話が分かるのぉ。じゃあ最後じゃ。私にも秘書を一人付けてくれんかの」


「秘書?」


「そうじゃ。お主にもなかなか良い秘書がおるではないか。ぐふふふ……」


 アルテシアはシグレに非常に下品な目を向けて、嘗め回すように視線を動かした。

 その視線にシグレは青ざめて後ずさる。

 

「ヒィ」


「アルテシアの趣味にどうこう言うつもりはないけど、シグレに手を出すんじゃないぞ」


「分かっておるわ。ヌフフ……」


 そう返事をしながらも、アルテシアはシグレから目を離さないのだった。



 それからアルテシアの住処を作った。

 場所はドワーフたちの居住区とは反対側の隅の方にした。何情報だったか忘れたけど、エルフとドワーフは仲が悪いらしいからね。トラブルが起きると面倒だ。


 部屋の間取りとかは基本的にはシグレに作ってあげた住居と同じようなものだが、アルテシアの希望で部屋数は少し多くした。秘書として新しく召喚したサキュバスのカリンのことをいたく気に入ったらしく、一緒に住むのだと言う。


 カリンはシグレよりもやや幼い外見で、シグレとは少し違う色味の黒髪と黒い瞳をしていた。シグレと同様に、頭には真珠色の光沢のある一対の角、背中には漆黒の翼が生えている。体形はどちらかというとムチムチとした感じで、美しいというよりも可愛らしさが勝っている。


「ムサシよ、お主なかなか分かっておるではないか、ムフフ……」


 アルテシアはカリンにこれ以上ないというほどの、いやらしい目を向けている。


「すまんなカリン。アルテシアの秘書兼お世話係として役目をはたしてくれ」


「かしこまりました。ムサシ様」


 まぁ元々そういう系統の悪魔だから、問題なく役目をこなせるはずだ。



 そのあと、アルテシアの住居に隣接した研究室も作ってやった。

 どういう感じにすればよいか分からなかったので、中学校の理科室を思い出しながら作った。


「ほぉ、ここに流しもあるし、火も使えるわけじゃな。なんと、これをひねると水が出るではないか! 良く考えられた作りじゃ、お主なかなか分かっておるではないか」


 研究室もいたく気に入ってくれたようで、僕もホッと一息つくことができた。


「これで良い?」


「うむ、気に入った! ここに住んで、お主らのために尽力してやろう。ありがたく思うのじゃ。おぉ!?」


「なっ、なんだよ」


「忘れておった。今日の分のおやつを貰っておらん」


「…………はい、シュークリーム」


「何じゃ、このフワフワで甘いにおいのするやつは? ハムハム……、美味い! もう一つ」


「……………………はい」


 結局、アルテシアは20個もシュークリームを食べて、食べ過ぎで倒れてしまった。


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