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02 ダンジョンコアになったよ



 真っ暗で何も見えない。

 まだ日が昇ってないのかな。

 じゃぁもう少しだけ、お布団の中で惰眠を貪らせて下さい。


『あれっ!? なんだ僕はまだ生きてるじゃないか。あのまま死ぬのかと思ったよ。でも、ここ布団の中じゃないぞ。いや、そもそもここってどこよ?』


 僕は慌てて起き上がろうとした。

 しかし、体の感覚がない。手も足も目も鼻も口も、何の感覚もなくなっている。暖かいお湯の中で、意識だけが浮かんでいるような感じがする。

 決して気持ち悪くはない。むしろ心地良いのだが、体験したことのない感覚に僕はパニック寸前だった。


『ナニコレ怖い。もしかして夢?』


 でも、夢じゃないのは感覚で分かる。シッカリ意識があるし、頭が働くし。


『明晰夢というやつ? それとも金縛り? まさか脳とか神経に障害が出て、植物状態になっているとか? なんだよぉ怖いじゃないか……』



 僕がオロオロしていると、どこか遠くの方が光ったような気がした。

 そして、その光の中から色々なイメージがあふれ出してきて、僕の頭の中へどんどん押し寄せてきた。

 頭の中にグイグイと情報が詰め込まれていく。物理的に頭をぶん殴られたような衝撃を感じて、僕は声にならない悲鳴を上げた。


『ふごぉぉぉ! ぐむぅ……』


 ただその激流が去るのを耐えるだけだった。


 しばらくして頭の中が静かになると、僕の意識はくっきりと晴れ渡り、凄く良い気分になった。そして何もかもが納得できた。


 僕は異世界のダンジョンコアに転生していたのだ。




『なんでやねん!』


 下手な関西弁でツッコミを入れつつも、僕はこの状況を素直に受け入れていた。確かにおかしな状況だけど、直感的に否定しようがないと分かったからだ。




 僕は今、ダンジョンコアとして、地中深くに埋もれている。僕のダンジョンはまだない。それは僕がこれから作るんだから。


 体の中に力がみなぎっている。

 これが魔力というやつだろう。僕は魔力を使って、グッと伸びをするように周りの土を押しのけた。すると5メートル四方くらいの小さな部屋が、僕を中心に出来上がった。僕は部屋の真ん中にある石の台座に鎮座する形になった。


 僕の意識が宿るダンジョンコアは、ルビーのような赤く透明な結晶で、大人一人くらいの大きさがある。僕はダンジョンコアになったことで、不思議な知覚を手に入れた。ダンジョン内のことであれば、どんなことでも手に取るように分かるのだ。なので僕は、僕自身の体を客観的に見ることができた。


『幽体離脱とか、こんな感じかも知れないな』


 僕の作った部屋は、壁も床も平らな石で滑らかに仕上げられていて、天井は丈夫そうな木材で補強されていた。僕がなんとなくこんな感じにしようとイメージすると、それに沿ってダンジョンが作られて行くようだ。


『これは楽しいかも』


 自分の置かれた状況を確かめることができたせいか、恐怖心が少し薄れてきた。なんとかやっていけそうだと思った。


 そもそもなぜこんな状況に置かれたのか、という疑問もあるけど、それは怖くなるから今は考えたくない。宇宙の深淵を覗き見るような不安な気分になるから。あぁ、宇宙怖い。



『そんなことは良いんだ。とりあえず、出来ることをどんどんやっていこう』


 僕は残った魔力を使って、ダンジョンを広げていった。まるで子供のころに遊んでいたテレビゲームをしているような感覚だ。


『この部屋をもう少し大きくして、通路をつなげて……。ありゃ、魔力切れか』


 持てる魔力には容量がある。

 今それがどれくらい残っているのかは、なんとなく感覚で分かる。そして、失った魔力は時間と共に少しずつ回復していく。

 何者かによって詰め込まれた知識によると、時間当たりの魔力の回復量や最大魔力量は、ダンジョンの大きさに比例して大きくなるらしい。


『ようはダンジョンが大きくなるほど、いろいろと僕に都合がいいわけだ』



 だから僕は魔力が回復するたびに、せっせとダンジョンを広げていった。

 ちなみに、ダンジョンに湧いてくる虫とかネズミを駆除すると、僕の魔力が少し回復する。侵入者討伐という名目でご褒美が出るらしい。


『無用な殺生は嫌だけど、魔力がもっといるからね……』


 僕は魔力目当てに、せっせと虫やネズミを駆除した。

 ダンジョン内では死体が残らないのが良い。すぐにダンジョンに吸収されて魔力に変換されるのだった。だから、ちょっと気持ちの悪いゲームをしているくらいの感覚で続けられた。

 無残な死体の山がずっと残っていたら、すぐに嫌になっていたはずだ。


 僕には手足がないので、虫やネズミを駆除するのにも魔力を使う必要がある。いわゆる攻撃魔法で駆除するわけだ。それで、この時に消費される魔力と、ご褒美で得られる魔力の差がプラスになってないと意味がない。ようは、なるべく小さな魔力消費で大きなダメージを与えないといけない。


『魔力を標的の急所だけに一点集中して、ほんの一瞬だけ流す……。よし!』


 あれやこれやと試行錯誤をしているうちに、魔法の扱いにも慣れることができた。



 夢中になって作業に没頭する。

 ダンジョンコアになったことで、僕は肉体由来の様々な欲求から解放されている。睡眠欲も食欲も性欲もない。魔力さえあれば、僕はいつまでも生きていられるらしい。

 以前の身体だとボゥっとしていると色々な雑念が湧いて来ていたものだけど、そういったことも全然ない。いつまでもスッキリと気分が晴れ渡っているのだった。


『これがエターナル賢者タイムというやつか……フフッ』


 自分が無意識に呟いた冗談の、あまりのつまらなさに笑った。



 それからも飽きることなく、延々とダンジョンを拡張していった。

 初めは、わけも分からず水平方向へ広げていたため、僕のいるフロアの大きさがとんでもないことになっていた。おおよそ一辺が10キロ程の正方形。これはもう、ちょっとした都市だ。



『そういえば、僕は地下深くにいたんだよ。上に伸ばしていかないと、いつまでも外につながらないじゃないか』


 ということで、上に上にとフロアを増やしていくことにした。



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