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18 エルフの少女



「あんまり順調じゃないって?」


「ははぁ、さようでございます」


 僕の前にひざまずいているドワンガは、憔悴しきった様子で返事をした。

 非常に硬い岩盤にぶち当たってしまい、そこから掘削が進まないという。ドワンガたちが愛用している魔法のつるはしが全く歯が立たないらしく、彼が持ってきたそれは刃先が折れてしまっていた。



 僕の隣に立つシグレはドワンガに冷たい視線を浴びせる。


「お前が自信満々だったから、ムサシ様が特別に掘削をお認めになったのです。このまま大した成果もあげられないのであれば……」


 シグレの背中から濃厚な黒いオーラが立ち昇る。


「ひぇぇ、お、お許しを」


 いつもは血色の良いドワンガの顔から血の気がひいている。



「まぁまぁ、彼も怠けているわけじゃないんだし」


 オリハルコンの採掘もあれから少しは進んでいて、剣一本分くらいの量は採れている。

 それに、この件はそもそも急ぐ必要なんか全然ない。異常に勤勉すぎるドワーフたちの関心を鍛冶仕事から逸らすためのものなんだから、むしろ10年でも100年でもじっくり時間をかけてもらった方が良いくらいなんだ。

 シグレもその辺りのことは百も承知で、この機会に気に食わないドワンガに嫌味を言いたいだけなんだよね。



「そうはおっしゃいますがムサシ様」


 シグレは不満顔で黒いオーラを引っ込めた。


「良いのいいの。僕は別に急いでないし、大した成果があがらなくても構わないよ。まぁ腰を据えてゆっくりやりなよ。それにしても、ドワンガたちでもあの岩盤の正体が分からないんだね」



 鉱物の専門家であるドワーフたちも、あの硬い岩盤が何で出来ているのか分からなかった。全く未知の岩石だという。真っ黒で金属のような光沢があり、ガラスのような透明感もある。一見するともろそうに見えるが、それが恐ろしく硬いのだった。


 試しにマスターリッチに強力な魔法で攻撃してもらったが、全ての魔法がはじかれてしまった。オーガロードの斬撃でも傷一つ付けることができず、ドワーフ謹製の上等な剣が何本も折れただけだった。



「さようで。わしの三百年の生涯でも、見たことも聞いたこともありませぬ」


「ふーん。ともかく珍しいものってことだね。あの岩盤自体がレア素材なのかもしれないよ」


「そうであればよろしいのですが」


 シグレも珍しさについては認めているようだ。



「ドワンガ、報告ありがとう。今日は皆で酒でも飲んで休んだら良いよ」


 彼の好物である養命酒を一樽渡してやった。


「おぉ、こいつはありがたい。皆も喜びますわい。それでは、わしはこれで失礼いたします」


 ドワンガはホクホク顔で帰っていった。



「ムサシ様はあの者たちに甘すぎます」


 シグレは渋い顔でドワンガの背中を見ている。


「彼らは僕の直接の部下ではなくて、他のダンジョンコアから託されたお客の様なものだからね」


「さようでございますが……」



 元々住んで居たダンジョンが破壊されて、彼らは命からがらここに逃げてきた。僕のダンジョンのことは、彼らが慕っていたダンジョンコアから聞いたという。

 彼らは僕を頼り、僕はそれに応えたんだ。


 ドワーフたちは粗野だけど、根は良い連中なんだよね。

 彼らの職人魂も嫌いじゃない。一つの事を昼夜をかけてやり遂げようとする、そのやる気の高さ。一度も社会に出て働いたことがない僕からすると、彼らのパワフルさにうらやましさすら覚える。

 彼らが持っているやる気の十分の一も僕にあれば、僕の人生も変わっていただろうか。



 シグレとおしゃべりを続けていると、一人の少女がスタスタと部屋に入ってきた。


 艶のある長い銀髪に白い肌、特徴のある長くとがった耳。ファンタジー物のアニメなどでお馴染みのエルフだ。そのエルフの少女は、髪と同じ銀色の瞳をこちらに向けて言った。


「ごきげんよう」


 彼女のあまりの自然さに、僕はあっけにとられてしまった。


 それにしても、エルフなんてこのダンジョンにいたっけ? 僕が召喚した?

 いや、エルフは魔物ではないから召喚できない。冒険者か?

 いや、各フロアガーディアンに動きはない。階層管理者からも報告はない。

 一体彼女は何者なんだ? どうやってここへ?



 思考がクルクルと空回りしている僕の横で、シグレが叫んだ。


「曲者!」 

 

 そう叫ぶと同時に、僕の周囲に魔法の防御壁を作り出した。

 僕もようやく正気に戻り、近くにいた魔物たちを呼び寄せてエルフの少女を取り囲んだ。



「待たれよ。私に敵意はない。お主たちに伝えたいことがあってここに来たのじゃ」


 そのエルフの少女は落ち着いた様子で言った。

 姿かたちはどう見ても十代の少女だが、樹齢数千年の老木が話しているような雰囲気がある。

 彼女は手ぶらで棒立ちでこちらを見ている。僕たちを攻撃するそぶりはない。彼女か言うように、確かに敵意はなさそうだ。



「いったいどうやって、ここまで無事に来れたの?」


 僕は最大の疑問を口にした。

 エルフの少女は、人形のように整った顔に薄く笑いを浮かべて答えた。


「私が伝えたいのは、まさにそれに関する事じゃ」




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