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16 オリハルコン




「えぇ!? 掘削したいって?」


「ど、どうか、ご許可いただきたく……」


 ドワンガがドワーフたちの希望をまとめてやって来た。

 彼らはどうやら、鉱物の採掘をやりたいらしい。鍛冶仕事をするための材料は僕が用意しているから、そんなことしなくてもいいはずなんだけど。


 彼らはどうしても、いちからやりたいのだという。ドワーフの習性みたいなものなのかな。



「う~ん……。ちなみに、どこ掘るつもり?」


「わしらが住んどる地域の、一番外側の壁でございます」



 シグレが能面のような表情でドワンガに詰め寄る。


「おそれ多くも、ムサシ様がお創りになったこの素晴らしいダンジョンに、お前たちの都合で穴を開けるですって? とんでもない冒涜です。私がお前たちの頭に穴を開けてやろうかしら」


 氷のような言葉がドワンガに浴びせられた。


「ヒェッ……ど、どうか」


 ドワンガは震えながら床に額をこすりつけている。



「掘ったところで、何も出ないかもしれないよ?」


 僕の言葉を聞いたドワンガは、がぱっと顔を上げ、ギラギラと目を光らせて言った。


「あそこには何かしらの鉱脈があると睨んでおるのです。こと鉱物に関しては、わしらの見立てが外れることはありませぬゆえ……」



 今現在、ドワーフ製の剣や鎧は供給過多になっていて、拡張した宝物庫までもが在庫でパンパンになってしまっている。でも下手に市場に放出したら、いろいろとおかしなことになるから、ダンジョン市場の武器屋にどんどん流すわけにもいかない。


 だから今は、ドワーフたちには鍛冶仕事を完全に休んでもらいたいんだけど、これがなかなか難しい。鍛冶仕事は彼らの生き甲斐だからね。放っておくと、どんどん武器や防具を作り続けるのだから困ってしまう。

 週休三日制はそれなりに効果があったけど、彼らはただ休むというのが苦手みたいで、これ以上むやみに休みを増やせないのだった。僕なら休みは大歓迎なんだけどね……。


 ともかく、彼らの有り余るやる気を別の方へ向けるというのは、良いアイデアかもしれない。かなり自信があるようだし、やらせても問題ないだろう。



「よし分かった。許可する」


「おぉ! 主様、ありがとうございます」



「あの、ムサシ様。よろしいのですか?」


 僕の決定にシグレが抗議の声を上げる。


「構わないよ。でも鍛冶仕事はその間はお休みだ。掘削工事に集中してもらうから。それからドワンガ、安全にはくれぐれも気を付けるように。ダンジョンならすぐに直せるけど、人の身体は直せないからね」


「ははぁ、肝に銘じます」




 ドワーフたちは喜び勇んで掘削工事に取り掛かった。


 彼らは魔法の力が付与された愛用のつるはしを使って、物凄い速さでトンネルを掘り進む。放っておくと昼も夜も休みなしに働こうとするので、ゴーレムたちを見張りにつけてある。週休三日は強制的に守らせないといけないのだ。


 それと、既存のダンジョンにぶつからないように、掘り進む方向も注意しないといけない。なるべく何もない方へ向かうように、ドワンガには念を押してある。




 掘削を許可してから一週間ほど経った。



 ドワンガが飛び跳ねるように僕の部屋に走り込んできた。


「なんですか! ムサシ様の御前ですよ」


 シグレが眉間にしわを寄せてドワンガをにらむと、ドワンガが見事なジャンピング土下座を披露した。土下座の姿勢のまま床を滑り、僕の目の前でピタリと停止した。なんという器用なやつ。


「はっ! ははぁ~」


「構わないよ。ドワンガ、何か見つけたんだろ?」


 僕の言葉でドワンガは、がばっと起き上がり満面の笑みを浮かべた。


「主様、やりましたぞ!」


 そう言うと、拳大の青味を帯びた光沢のある鉱石を懐から取り出した。


「何それ?」


「これはオリハルコンの鉱石です」


「オリハルコンだって!?」


 ファンタジー物のRPGなんかでお馴染みのオリハルコン、この世界にもあったんだ。


「さようです。こいつで作った剣は、折れず曲がらず錆びませぬ。オリハルコン製の盾はドラゴンのブレスをも防ぐと言われております。じゃが、こいつを鍛えるのはわしらの技術をもってしても至難の業。鉄の十倍の手間暇がかかるのでございます」


 ドワンガはいつになく饒舌だ。希少な鉱石を見つけてよほど嬉しいんだろうな。


「へぇ、それでどれくらいの量が見つかったの?」


「今はまだこれだけです。なにしろ珍しい石ですからの」


 ドワンガの眉がへの字になった。 


「まぁ、ゆっくり探したらいいよ。オリハルコン製の鎧兜とか作れたら良いよね」


「おぉ、それは良い考えでございます! 是非ともわしらに作らせてもらえませんか」


「わかった。急がないでいいから、凝りに凝った自信作をお願いするよ」


「仰せのままに!」



 ドワンガは挨拶もそこそこに、喜び勇んで飛び出していった。



「まったく……。あの者たちは行儀作法がなっておりません。私が厳しくしつけますので」


 シグレが渋い顔して頭を下げる。


「まぁまぁ、彼らはああいう生き物なんだよ。ともかく、これで時間稼ぎができた。さすがのドワーフたちもオリハルコン探しにかかりきりになるはずだからね。しばらくは落ち着けるはずだよ」


「なるほど、そういう事でございましたか! さすがはムサシ様です」


 シグレは心底関心したという様子でニッコリとほほ笑んだ。



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