15 専属鍛冶屋ゲット
さっそく僕は、ドワーフたちの住処作りに取り掛かった。
僕のいる最下層のフロアは10キロ四方、つまり100キロ平米もある。ちょっとした都市くらいの広さがあって、正直もてあましていたんだよね。
ということで、この四分の一を彼らの生活空間に当ててやることにした。
迷宮になっていた部分を更地にして、天井も高く作り直す。そして、ドワンガの希望を聞きながら、ドワーフたちの住居や集会所、公園、公衆浴場などを作った。
普通にやれば何ヶ月もかかる大工事でも、ダンジョンコアの僕にかかれば一瞬で出来てしまう。ここ最近はたいしてやることもなくて、魔力が余る一方だったし暇つぶしにはちょうど良かった。
「ドワンガ、君らは鍛冶仕事が得意なんだろ?」
「主様はよくご存じでいらっしゃる。鉄を打つのは、わしらの生き甲斐ですからの。わしらが鍛えた剣や甲冑は、どこでも引っ張りだこでございます」
「じゃあでっかい鍛冶場を用意するから、沢山作ってよ」
「それは腕が鳴りますわい」
ドワンガは豪快に笑った。
さっきまで泣いていたのに、気持ちの切り替えが早いことだ。まぁこれくらい心がタフでないと、彼らのまとめ役は難しいんだろうな。僕も見習いたいところだね。
鍛冶場のことは全く知らないので、ドワンガに細かく聞きながら溶鉱炉や各種の道具などを作った。排煙がダンジョン内に充満するとマズいので、現代の工場にあるような巨大な換気扇を鍛冶場の上の天井に作ったが、どこに排気されるのかは謎。試運転しても問題なかったので、まぁあまり深くは考えないでおこう。
「ちょっと聞きたいんだけど、君らの鉄兜とか斧とか、魔法の力が宿ってない?」
僕には彼らの身に着けている物が、薄い緑色に発光しているように見えて、ちょっと気になっていた。
ドワンガは目を丸くしてこたえた。
「良くお気づきになられましたな。これらにはルーン文字を特殊な製法で刻んでおりましての。さまざまな魔法が付与されております」
「ムサシ様、さすがでございます」
シグレがウットリした目つきで僕の方を見る。
ぞわりと背筋を電流が流れた気がしたが、気のせいだ。僕には背筋がないからね。
「シグレは気が付かなかった?」
「はい。私には、みすぼらしいなりをしている様にしか見えませんでした」
やっぱりダンジョンコアの能力なのかな。
「そうか。じゃあドワンガ、そのルーン文字を刻んだ武器や防具を時々作ってもらおうかな。ここに住むための料金ということで」
「お安い御用です。よろこんでお納めいたしますぞ」
僕は彼らの技術を得る代わりに、彼らの安全と衣食住を保証することにした。もちろん鍛冶仕事のためのいろいろな材料なんかも、こっち持ちだ。それから酒も。
酒は彼らドワーフの大好物なので、強い酒を用意してやりたいと思った。でも困ったことに僕は酒をほとんど飲んだことがない。なにしろ未成年だったから。
僕が物を作るときは、頭の中で強くイメージしないといけない。全く想像できない物は作れないんだよね。
だから食べ物でも、本格フレンチとかキャビアなんかは作れない。食べたことないから。キャビアくらいなら形を似せることはできるけど、さすがに味の再現まではできない。
なもんで、地下一階の食堂や酒場で提供している食べ物や酒は、僕が知っている物ばかりだったりする。今の僕は味を確認することができないので最初は心配だったけど、どれも客には大好評らしいね。
とりあえず、僕が再現できる酒を全種類作って、ドワンガに味見してもらった。
「ンゴゴゴゴ……、ぷはぁ~うめぇ! どれもこれも最上級品でございます。特にこいつは最高です」
ドワンガはどうやら養命酒が気に入ったようだ。
「君らが良く働いてくれたら、好きな酒を好きなだけ飲ませてあげるよ」
「うひょー。それは働き甲斐があるというもの」
それからというもの、毎日のように剣や鎧が届けられるようになった。
もちろん、どれもルーン文字が刻まれた魔法の一品ばかりだ。最初のうちは、急遽作った宝物庫に保管していたが、そこがすぐに一杯になってしまった。
「ムサシ様、いかがなさいましょう。程度をわきまえないあの者どもには、厳しい躾けが必要かと思いますが」
一向に片付かない剣や鎧の山を見たシグレの背中から、黒いオーラが立ちのぼるのを感じた。
いや、僕の目にはしっかりとそれが見えた。
「いやいや、待って。作れと言ったのは僕なんだから、それはダメだよ」
とはいえ、ドワーフたちがここまで酒目当てに頑張るとは思ってもみなかった。いくらなんでも酒好きがすぎるだろうが。
とりあえず宝物庫を整理するために、ドワーフ製の剣や鎧はスケルトンやグールたち徘徊組に装備させることにした。彼らが初めから装備している物はボロばっかりだからね。この装備入れ替えによって、彼らの攻撃力や防御力がすごいアップした。
一級品の魔法装備に身を包んだ彼らを見た冒険者たちは腰を抜かすほど驚くことになったが、そんなことは僕は知らない。
残りは地下一階の武器屋に少しずつ流した。
あまり一気にやると、冒険者たちに不審がられるので少しずつやったんだけど……。武器屋はすごい評判になってしまった。あそこにはルーン文字が刻まれた剣や鎧があると知られるようになった。
大商人が遠方から押しかけるようになってしまった。
まぁ、店主の悪魔が上手くやってくれるだろう。
「ほらシグレ。片付いたよ」
僕は自信満々に、空になった宝物庫をシグレに見せた。
「ムサシ様、あれを」
シグレは廊下の隅に山と積まれた剣や鎧を指さす。
「うぐっ……。仕方がないか」
「それでは奴らを始末して参ります」
シグレはウキウキ顔でドワーフ狩りに向かおうとした。
「ちょっとちょっと! 違う。ちがうから!」
僕はドワーフたちにおふれを出した。
『週に三日は休日として、仕事を完全に休むこと。
守らない場合は、酒の供給を減らす。 主』
この世界初の、強制週休三日制である。
このおふれ以降、ドワーフたちの上納品の量がだいぶ減った。ゼロにはなっていないが、制御可能な量になった。
めでたしめでたし。