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14 ドワーフたちがやって来た




――ドワーフどもが多数押しかけて来ておりまして……。


――へぇ、ドワーフねぇ。


 僕は地下一階の宿屋に意識を移して、そこにいるドワーフ達を観察した。

 ずんぐりむっくりした体型の髭もじゃの連中が50人はいる。皆頭には鉄兜を被り、重そうな鉄の補強が入ったブーツを履いている。ファンタジー物の映画かなんかで観たとおりの、誰もが想像する通りのドワーフだった。

 彼らはそれぞれが好き勝手にわめいていて、騒々しい。会話が聞き取れないので、何の用事で来たのかさっぱり分からなかった。


――それで、連中は何しに来たの?


――はい、主様に会わせろと申しております。もちろん、約束もなしに押しかけるような無礼者を通すわけには参りませんので、追い返そうといたしましたが……。


――なるほどな。ちょっと待ってて。


――ははっ!




「ムサシ様、何かございましたか?」


 シグレが小首をかしげて僕を見ている。なんという可愛らしさか。僕に肉体があったら肉欲に溺れていただろうけど、今の僕は無機物なのだ。残念ながら。


「一階の宿屋の悪魔から連絡だ。ドワーフたちがやって来ていて、僕に会いたいんだってさ」


「ドワーフですか……。そのような下賤な者ども、ムサシ様がお会いする必要はございません。ましてや、予告もなしに押し掛けるなど、無礼千万。万死に値いたします。私が即刻処分してまいりますので」


 シグレの目が怖い。シグレは基本的に、主の僕以外には非常に冷淡だ。やはり悪魔だからだろうか。


「いやいや、待ってまって。せめて話だけでも聞こうじゃないか。どうもダンジョン探索に来た冒険者とは違うようだし。せっかくやって来たんだ、彼らの代表に会うくらいなら構わないだろ」


 しぶしぶという感じでシグレがうなずく。


「かしこまりました。では私が連れてまいります」


「うん、頼むよ」


 シグレは僕に一礼すると、瞬間移動の魔法を発動させた。

 ちなみに僕のダンジョン内では、瞬間移動の魔法は阻害されるようになっているんだけど、それを無効化するペンダントをシグレは身に着けている。こういう便利アイテムも、僕の能力によって自由に作り出すことが出来る。




 しばらくすると、シグレが戻ってきた。一人のドワーフと一緒だ。

 彼女は、まん丸いドワーフの、ほとんど見えない首根っこを掴んでいる。


「ムサシ様、ドワーフの代表を連れてまいりました」


 シグレが連れてきたドワーフを床に放った。無様に尻もちをついたドワーフは床をコロコロ転がって、僕の目の前にペタッと座り込む形になった。


「主様の御前で無礼ですよ。土下座なさい」


 氷のように冷たい言葉が、ドワーフに浴びせられる。


「うへっ!? はっ、ははぁ」


 そのドワーフはシグレの言葉に押されるように、床に額をこすりつけた。


「構わないよ。楽にしてもらって」


「はい、ムサシ様。あなた顔を上げなさい」


「ははぁ」


 ドワーフが床から僕を見上げるかたちになった。シグレはドワーフに冷たい目を向けて、何か事があればすぐに動けるように控えている。さすがに、このドワーフがここで何かするとは思えないけどね。



「僕がこのダンジョンの主だけど、何の用かな?」


「お初にお目にかかります、主様。わしはドゴロンゴ族の長、ドワンガ。わしらは東のロッカー山脈にある炭坑から、やってまいりました」


「うん。それで?」


「わしらの炭坑は元々はダンジョンでしての。じゃから、わしらの炭坑にも主様がおわした。ダンジョンコアとしての力は、もうほとんどお持ちになっとらんかったが、時々わしらのために力をふるってくだすったり、役に立つことを教えてくだすったもんで、わしらは主様として崇めておりましたのじゃ」


 僕のような存在が、他にもいたんだな。

 まぁ想像はしていたから、意外ではないんだけどね。力を失ったのは、たぶんダンジョン運営をおろそかにして、ダンジョンが廃れてしまったせいじゃないかな。


 僕の本能が、ダンジョンを大きく強くしろと言っている。僕はそれに素直にしたがってここまでやってきたけど、いつの日かこういうことに飽きてしまうのだろうか。



「いたってことは、今はもういないんだね?」


「さようでございます。わしらの炭坑は、勇者を名乗る一団の襲撃を受けましての。炭坑内は滅茶滅茶に壊されて、主様もあやつらに破壊されてしまいましたのじゃ。わしらも抵抗したんじゃが、全く歯が立たんかった……」


 ドワンガは元々しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして泣き出してしまった。仲間や家族も大勢殺されてしまったらしい。


 それにしても、勇者なんているんだね。

 勇者はダンジョンコアを破壊する。ということは、僕は勇者の敵ってことだ。

 つまり、僕は悪の側なのか?

 


「かたき討ちに協力してほしいとか?」


「いいえ、とんでもねぇです。わしらは仲間を失い、住処を失った。もう行く当てがないのです。主様どうか、わしらを保護してくださらんか」


 ドワンガは額を床にこすりつけた。


「このダンジョンのことは誰に聞いたのかな」


「はい、わしらの主様が教えてくださったのじゃ。何かのときにはここを頼るようにと……」



「ムサシ様、私は反対でございます」


 シグレが険しい顔でドワンガを見る。


「このような下等生物、ムサシ様のお役に立てるとは思えません」


「まぁ待って。他のダンジョンコアの頼みだし、ドワーフたちも役に立つから」


 シグレは不承不承という感じに頭を下げた。


「ムサシ様がそうおっしゃるなら、反対はいたしません」



「ドワンガ、君たちをここで保護してやるよ。でも、タダじゃないよ」


「ははぁ。主様、ありがとうございます」


 ドワンガはまた額を床にこすりつけるのだった。



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