13 難易度調整
シグレは真剣な顔でダンジョンのマップをチェックしている。
「ムサシ様、浅い階で動いている赤い点は何でしょうか?」
「それは、冒険者のパーティだね。ダンジョンのアイテムを漁ってるんだよ」
「そのような不届き者、ただちに捕えて処分すべきでは?」
険しい顔でシグレは立ち上がった。自分で捕らえてこようかという勢いだ。
「いや、ダメダメ。あの連中はこのダンジョンの糧だからね」
「ダンジョンの糧、ですか?」
「冒険者たちがダンジョン内で死ぬと、ダンジョンに吸収されて魔力になるんだ。それがたくさん溜まってくると、僕の最大魔力量が増える。ようは僕のダンジョンが、より強大に強固になるということだよ。だから彼らには適度に出入りしてもらって、そのうち何割かのマヌケに死んでもらわないといけない。でも、あんまりあからさまに人死にが出るようだと、警戒されて人が寄り付かなくなるでしょ」
正確なシステムは僕にも良く分からないけど、経験上これで合ってると思う。
「そういうことでしたか。差し出がましいことを……」
「良いからいいから。気になることがあれば何でも言ってよ」
「寛大なお言葉ありがとうございます」
シグレは申し訳なさそうな顔で椅子に座り直した。そして、しばらく難しい顔で考えてから話し始めた。
「つまり、ムサシ様がお求めになられていることは、冒険者どもの命を効率よく刈り取ること。そしてそれを永続させること、ということでよろしいでしょうか?」
「さすがシグレ、話が早い。僕が目指しているのはそれだよ。言ってみれば、命の搾取システムってやつだな」
自分で言いながら、ずいぶんと物騒なことを口にしていることに気づいた。そして、それに気づいたからといって、なんとも思わなくなっている。僕の心の根本部分は、もう人ではないのかも知れないな。
「恐れ入ります。そういうことでしたら、冒険者どもに期待感を持たせ、ズルズルと深みにはまらせるのがよろしいかと」
「ほうほう、詳しく聞こう」
僕はシグレのアドバイスに従って、ダンジョンの難易度を微妙に調整していった。基本的な方針は以前の僕の考えと同じだけど、より細かく巧みなバランスになっていて、さすがは悪魔だと感心させられた。
ある種のギャンブルと同じで、最初はお手軽簡単に始められて、少しだけ儲けることができる。でも、もっと儲けようと欲を出すと、あっという間に深みにはまる。ダンジョン探索にハマった冒険者たちは、最終的には命を失うことになるんだ。なんという恐ろしい罠か。
ダンジョンの難易度を調整して一月もすると、僕のダンジョンを訪れる冒険者パーティが今まで以上に増えた。
より下層のフロアまで降りてくる連中も増えてきた。今まではせいぜい地下3、4階どまりだったが、地下10階まで降りてくる冒険者パーティも現れた。
といっても冒険者パーティの全体のレベルが高くなったわけではない。浅い階の攻略が簡単になったのと、宝箱の設置場所を工夫したことが原因だけどね。
下層階で彼らを倒した方が、僕の魔力の増え方が大きいので、今回の調整は僕にとっては利益しかなかった。
ちなみに地下10階から11階に降りる階段前には、フロアガーディアンとしてオーガロードを配置しているので、地下10階より下に冒険者たちが降りてくることはまずあり得ない。
「お手柄だよ、シグレ。思った以上の結果が出ているよ」
「滅相もございません」
シグレはすました顔で謙遜しているが、背中の翼をパタパタさせて満更でもなさそうだ。
「これからも手助けしてくれると助かるよ」
「それはもう、喜んでお助けいたします」
シグレはパッと輝くような笑顔を浮かべた。
そのとき突然、頭の中で呼び出し音が鳴った。
――うん?
地下一階で宿屋の店主をしている下級悪魔からの緊急連絡だ。
――ははぁ、我が主よ。お忙しいところ恐縮でございます。
――構わないよ。で、何があったの?
――それが……