12 着せ替えショー
シグレの居室を作ってやることにした。
彼女は要らないというが、一日二十四時間ずっと僕のそばに座らせておくわけにもいかないだろう。
新聞広告とかに載ってた、マンションの間取りを思い出しながら、僕がいる部屋の隣にシグレの部屋を作っていった。居間と寝室とダイニングキッチン、風呂トイレ……。
僕のダンジョンコアとしての能力を使えば、ダンジョン内であれば何でも作ることが出来る。しかし、水をどこから引いて来てるのか、排水がどこに流れて行くのか、いろいろと謎ではある。でもそれを言い出すと、そもそも全てが謎だからね。まぁ深く考えるのはよそう。
「ここがシグレの部屋だから、遠慮なく使って」
「ありがたき幸せ」
シグレは僕の前にひざまずいて、頭を下げた。
「お礼なんていいよ。そうだ、着替えの服とかも要るよな。それも今作ってしまうか。じゃあ、サイズを測らせてもらえる?」
「えぇ!? いっ、いえ、あの……」
「まぁまぁ、良いから良いから」
僕には何一つ下心などないのだ。各部の寸法を測らないと、体に合った服は作れないからね。僕の側近なんだから、安っぽい恰好はさせられない。手抜きは出来ないのだよ。
僕はシグレの身体の各部を入念に計測していった。僕の目は3Dスキャナーとしても機能するのだった。
『ムフフフ……。眼福、眼福』
「あっ、あの……。もうよろしいでしょうか」
シグレが顔を赤くしてもじもじしている。
「え? あぁそうだった。うん、もう服を着てもらって大丈夫だよ」
うっかり時間を忘れて、見入ってしまった。
「さてと。じゃあ練習として、今着ている服のコピーからいくか」
僕はシグレが着ているドレスと全く同じものを作り出すことにした。
濃紺の背中が大きく開いた裾の長いドレスだ。頭の中にシッカリとサイズや形をイメージしながら、魔力をこねて物体を作り出す。
ふぁさりと僕の前にドレスが落ちてきた。
「さぁ、ちょっと試着してみて」
「えぇ!? あっ、はい……」
シグレが顔を赤らめながら、そそくさとドレスを着替える。
『ムフフフ……。眼福じゃ、眼福じゃあ』
僕には性欲が無くなっているはずなのに、なぜこれほど楽しいのか分からない。
「まぁ! 着心地も何もかも、全て同じでございます」
先ほどと寸分たがわない格好のシグレが驚いた顔をしている。
「そうでしょうとも。しっかりサイズを測ったからねぇ。だからどんな服にも対応できるよ。じゃあ他にも作ろうか。シグレはどんな色が好き?」
僕はシグレの好みを聞きながら、色々な種類の服を作った。ドレスだけじゃなく、もっと実用的な服や水着や下着も作った。他にも靴とか装飾品とか。
僕は着せ替えショーを心行くまで楽しんだ。下心はない、と思う。
あと、シグレの希望で戦闘用の甲冑も作った。シグレの身体にピッタリとフィットした、黒いフルプレートアーマーだ。作った自分が言うのもなんだけど、めっちゃ格好いい。
「何かのときには、私が身を挺してお守りします」
とか言うんだけど、ここまで何かがやって来れるとは思えない。
今、低層階でウロウロしている連中は、あれでも上級冒険者だからね。彼らはアイテム目的でダンジョンを探索していて、リスクをなるべく避けているというのもあるけど、そもそもモンスターをバカスカ倒せるほどの実力はない。
もしかしたら、彼らを超える英雄級の冒険者がいるのかもしれないけど、それでも広大な100階層の迷宮を、強力なフロアガーディアンを倒しながら踏破できるのかというと疑問だ。それこそ、チートレベルの、滅茶苦茶なバランスブレイカーでなければ無理じゃないかな。
『まぁ、それくらい僕のダンジョンが常識外れなんだけど』
逆に言うと、ここまで降りてこられる怪物なら、もう何をどう対策しても防ぎようがないだろう。台風や地震レベルの自然災害みたいなものだ。
『その時はシグレと一緒に逃げ出そう』
三十六計逃げるが勝ち。
そう、対処不能な困難と、がっぷり四つで組み合う必要なんかないのだ。逃げるのは僕の得意技さ。だからニートやってたんだろって? うるせーよバカ。
「まぁ、危機に備えておくのも大事かもね。でも僕のダンジョンは鉄壁だから安心して。ほら見て、こんな感じだよ」
僕はダンジョン全体が分かるホログラフ映像を、シグレの前に投影して見せた。