10 サキュバスを召喚
『僕は孤独だ』
僕がこの世界に来てから、5年が過ぎようとしていた。
これまでダンジョンコアとして黙々と働いてきた。その甲斐あってか、僕のダンジョンは当初と比べて多くの人が訪れるようになった。
ダンジョンの外に町まで出来た。
しかし、僕の働きぶりをほめてくれる人はいない。
対価として僕の最大魔力量は増大したが、僕が本当に欲しいのはそういうものじゃないんだ。
実家でニートをしていた当時は、親との関係は悪くなかった。あの頃は、何やかんやと毎日のように会話をしていたっけ。一般社会からは切り離されていたけど、完全な孤独というわけではなかった。
それが今はどうだ。
ダンジョン運営という重要な仕事をしてはいるが、社会とつながっている感じが薄い。モンスターたちにあれこれ指示を出したりするが、これは情報伝達であって会話ではない。
もはや僕の精神はカサカサだ。うるおいが足りなすぎる。
『そうだ! 話し相手として、側近を置こう』
この思い付きに、久々に僕の気分は高まった。
なかなか良いアイデアじゃないか。そういえば考えに行き詰ってアドバイスが欲しい時もあったけど、あの時に誰かがそばにいれば、もっと楽に解決できたかもしれない。
偉い人のそばに秘書とか、副官なんかが付くのはたぶんそういうことなんだよ。
まぁ今はただ、おしゃべりがしたいだけなんだけどね。
とすれば、やはり可愛らしい女の子が良いな。僕はこんな身体だけど、精神は一応男だから。
ゴッツいオッサンとの会話と、若くて綺麗な女性とのおしゃべり、どっちが楽しいかというと圧倒的に後者じゃん。絶対そうだよね?
『問題は、可愛らしい女の子のモンスターがいるのか、ということだな……』
女吸血鬼とか女ワーウルフとか考えていたけど、女吸血鬼はなんとなく血生臭そうだし、女ワーウルフはすごい毛深そうだ(完全な偏見)。
おしゃべりの相手なんだから、そんなことはどうでもいいんだけど、変なところが気になってしまう。さて、どうしたものかと悩んでいたら、電撃的に閃いた。
『そうだ! サキュバスっていたよなぁ。あのけしからんやつが!』
今の僕に顔があったら、鼻の下が伸びていたと思う。口をだらしなく歪めて鼻の穴を膨らませて、下卑た笑顔を浮かべていたかもしれない。
でも、今の僕はダンジョンコアなのだ。性的な思惑など一切ない。平坦な心でエロい妄想をするのだった。
『ムフフフ……、どんなテクニックでナニをアレするのか……。いやいや、そんなことはどうでも良いんだ。どうでも良くはないが、今はどうでも良いの。ともかく、サキュバスは悪魔の一種だから頭は良いはずだ。ダンジョン運営についてのアドバイスがもらえるだろうし、ただの会話の相手としても面白そうだし。よし! サキュバスに決めたぞ』
以前は魔力の枯渇に悩まされることもあったが、今は魔力の使い道に困るくらいだ。だからちょっとくらいの贅沢は許されるのだ。
人間だったころにファンだった、アイドルのアヤメちゃんを思い浮かべながら、サキュバスを召喚した。
『むぅぅぅん……召喚!!』