戦闘試験
次の日になった。
「みなさんおはようございます。それでは実践テストを行います。その内容は教師vs生徒です。」
「まさかブラべ先生が相手だとは」
先生は一時間作戦を考える時間を私たちに設けた。
「うぅ、僕自信ないよ……先生と三時間も戦うなんて……」
そう、私たちはクラスで一チームとして担任教師と最大三時間戦う。点数は五十点スタートとし、それに加点と減点が加わり、その最終評価を成績とする。その様子を校長、副校長、担任を含める五名の教師が見て成績を評価する。その間魔力切れを起こす生徒がでたら、その者は退場とし、生徒全員が魔力切れになれば戦闘終了、試験は終わりだ。また、教師が降参と言った場合、反撃をして生徒に肉体的傷を負わせた場合は試験を終了もしくは中断とする。降参と言わせた場合、早ければ早いほど生徒全員への加点とする。最後に、持ち点がゼロになった者は補習。他のテストの成績と合わせて、点数が著しく低い者は強制退学とする。それが今回の試験内容らしい。
「ダズ・アース自信を持て……と言いたいが、救闇魔法士が出てくるとは。これは想像以上の難易度だ。」
救闇魔法士とは七天魔法士の一個下の位に位置する闇魔導士の総称だ。七天魔法士が神が産み出した怪物だとすると、救魔法士は人間が生み出した超エリート集団である。そして、魔法学校の教師になるために要する資格なのである。因みにそれ以外の魔法士は魔法士でしかない存在である。
「……気持ちは分かるけど嘆くのは後だ。プレッテ闇魔法について教えてほしい」
シオルは闇魔法士であるプレッテに意見を求める。よくできた人だと思う。
「は、はい、闇魔法は闇魔法と言われているけど、実際は影を操る魔法なんです。そして空間を支配することに長けた魔法でもあります、例えば」
そう言うとプレッテは魔文を唱えた。
「黒石よ、世界を呑み込めプレッテ・シャドーが願う」
それは一瞬だった。私たちの見ていた世界は黒くなり、すぐ隣にいたはずのクレラゼが見えなくなった。それだけではない感覚もなく世界に一人になったような気分になった。
「…………はっ、ハハハ〜これはすごいねぇ」
「闇魔法は術者がこの空間の中で全てを把握し、肉体的、精神的に追い詰めて戦うのが基本だとブラべ先生は言っていました。」
みなどうしようかと考えている中で一人が声をあげる。
「……ちょっといいかな。ぼ、ぼくみんなが何を言ってるかよく分かんなくて……」
「なにって、プレッテの闇魔法お前は見なかったのかよ」
「見なかったっていうか……その、……世界が暗くならなかった……みたいな。」
「………!それはどういう」
クワイルが問いただそうとしたら、またプレッテが話し出した。
「実は闇魔法の作り出す空間は人によってどう見えるかが変わるんです。暗い空間になったら不安になります。それはプレッシャーだとか過去の出来事から引き出せるものなんです。なのでそういうものが少ない人は視界が開けて、闇に呑み込まれないんです。」
「……それは闇魔法はその人の精神により、作用する威力が変わるということか」
「は、はい」
「それなら話が早いわ。ダズを中心にして一発喰らわせる。これで成績アップよ!」
(このままいくとダズを中心にして戦うことになりそう。でも……今回は)
「ならダズを中心に…」
「…………その話なんだけど今回はセリーとクワイルが中心になるといいと思うよ」
クレラゼの発言にみな驚く。
「まぁまぁそんな怖い顔しないで〜さぁ。とりあえずぼくの話を聞かない?」
・・・
「確かにそれならずっと簡単に追い込める」
「クレラゼ、おまえすっっっげぇな!」
「こんな大役ぼくに務まるかな……」
「そ、それは私のセリフ!」
「ふっ、お前らこんな簡単なことなのに、自信がないのか」
「なっ、あるわよ!」
「ぼ、ぼくはないかな」
「まぁなによりこの方針でいいかもね」
みんなで作戦をより濃いものにして、あっという間に一時間が過ぎた。
「さぁ、みなさん時間です。試験をはじめましょう。」
「では第一段階です。杖よ!」
先生そういうだけで私たちを軽々と宙に浮かせる。さすがの芸当だ。
「うぉ、浮いてるぞ!」
「楽しんでる場合なのかしらっ、ルビーよ、私リリィ・ソリタリィが願いますわ、杖に火をっ!」
「杖よ俺の願いに応えろ、草木で身体を巻きつけろ!」
リリィとゲニアスが体勢を整えて唱えると、先生の杖に火がつき、先生に木の枝が巻き付いた。動きが一瞬鈍る。その隙を逃さず次の手にうつる。………はずだった。
「ふむ。次の一手は私が炎と蔓に戸惑っている間にセリーさんとクワイルさんで私の手を凍結させ、物理的に封じるとかですかね。ですがこの火がシオルさんの光魔法で作られた投影だと分かれば………このように蔓を解くことができるのです。」
先生に巻き付いたはずの蔓は黒く枯れたようになっている。
「……では次は私の番ですね。闇よ世界を覆え」
視界が暗くなり、一人になった。これはプレッテに見せてもらった魔法………なのだろう。規模が違いすぎる。効果時間、突き刺さるような鋭い冷気に加え、トラウマになるような出来事が頭に思い浮かぶ。この視界をなんとかしないと。
「石よ我の願いを叶え……あぐっ」
魔文の詠唱中に攻撃を受ける。
(う、嘘でしょ………魔法しか取り柄のない私が魔法を使えないなら、私が存在している……意味って……。)
暗闇が孤独が不安が私を襲う。もう、無理だと思ったその時、足下に謎の物体があることに気づいた。
(……なにこれ)
それはどこか暖かくて、可愛くて、光っていて…………。
(光ってる?)
その光は、瞬く間に闇を払い。私を……私の視界を元の物に戻してくれた。
「よし、四人目救出完了」
「まだ、四人なの〜?!早くしてよぉ、ぼくにも限界ってものがあるんだからぁ」
「………リトさん!……クレラゼさんに助太刀をお願いします!」
そこにはシオルとダズ、クレラゼがいた。クレラゼは先生と戦っていて、ダズは何かを作っている。シオルも先生と戦っているようだが使う魔法の威力が弱いところを見ると、魔力の浪費が激しいのだろう。なら私がやるべきことは……
「石よ、魔力の泉をリト・ホーリーの願いを叶えたまえ!」
「ふむ、そうきますか」
「お喋りなんて余裕ですね、うちのエースが復活したっていうのに!」
そう言うと、シオルが魔文を唱える
「光よ我が願う、線となり彼を拘束せよ」
「闇よ光を呑み込め」
「幻影を生み出せ、杖よぼくが願う」
光線が増えて、それは先生を捉えた。
「草木の皮であいつを包め、杖よ俺が願う」
「ルビーよ私リリィ・フレイム・ソリタリィが願いますわ、炎よ美しく散りなさい」
リリィ?!いつの間に回復していたの?!激しく燃えた、煙の中からは拍手が聞こえてきた。
「いやはや、一ヶ月でここまで成長しているなんて、感激です。ですが爪がまだ甘い」
すると後ろから黒い影が私たちを捕えた。
「……うわっ」
「……っ」
「みなさんに授業をしましょう。魔法とは同じものでも人により、必ず違いがでます。それは性格や思考回路の違いによるものですが、他にも魔力量や精神力なるものがあります。リトさんとダズくんはそれが他の方より秀でているようです。そういう人は支援が上手ですので、ここを抑えるとチームが崩れるのです。」
魔力が吸われている。それだけじゃない魔法が使えないような細工がしてある。
「光よ、闇を払いたまえっ、!」
シオルから光が消えた、もしかしてこれは……
「君は魔力切れになったようだね。シオル・ライトニング・ジロールくん。残念だけど君は退場だ。」
(私の魔法が途切れたからだ。)
シオルの周りに魔文が浮かび上がり、シオルを教室のセーフゾーンに飛ばした。
「ごめん僕ももう、限界みたい……」
そう言い、ダズもセーフゾーンに飛ばされた。
「微風よ流れろ、剣よ俺の願いを叶えろ」
この声は……振り向くとそこにはセリーとクワイル、プレッテが立っていた。
「お待たせしました。」
「こっからは私たちに任せなさい!」
「それでは………闇よ呑み込め」
再び同じ魔法が放たれた。さっきはダズとシオルのおかげでなんとかなったが二人はもう脱落している。同じことをもう一度されたら全滅だ………闇に教室が包まれそうになる。………その時。
「闇を呑み込め黒石よ!」
プレッテに闇が集まる。その量は決して多くないが、完全に闇に包まれない。
「リリィ!」
「……!……来ましたわね、あなた方私がいないからって負けるんじゃないんですのよ」
「当然だ、俺の辞書に敗北の文字なんか無いからな!」
「リトさん、こちらもお願いします」
「はい、わかりました」
「水よ湧き上がれ、本よ願いを叶えて」
「魔力よ湧き上がれ、石よリト・ホーリーの願いを叶えよ」
「風よ渦巻け、剣に願うはクワイル・ウィンドだ」
「熱よ大地に伝われ、ルビーよ、リリィ・フレイム・ソリタリィが願いますわ」
私が魔力をセリーに与え続け、その魔力で大量の水を生み出す。そこにクワイルが風をおこし、リリィが地面を温めると影が落ちる。頭上には雲ができている。これで………上昇気流の完成だ。それは瞬く間に教室を覆い尽くし、闇に包まれた。
「ふむ、これは……私の攻撃手段を減らしましたか。素晴らしいですね、しっかりと闇魔法が何たるかをわかっている………ですが、あなたたちの攻撃手段もないのでは?」
「いや、チェクメイトかなぁ」
「これは水の大砲ですか」
クレラゼが創り出した水の大砲が先生を囲んでいる。セリーが合図すれば高圧力の水圧が一斉に発射され、無傷ではいられないだろう。
「いやはや、みなさん素晴らしいです。まだ一年目でここまでの実力、及第点は超えるでしょう………ですが、あと百歩も足りない。」
先生がそういうと私たちは一気に脱力した。
「みなさん、魔力切れです。そのため試験を終了」
「まだだぁ、蔓よ魔力を吸い取れ!」
ゲニウスが蔓を出そうとするが……蔓が出てこない
「ゲニウスくん、諦めなさいとは言いません。ですが無謀なことはおやめなさい。そんなことをしたところであなたの実力が上がるわけではないのですから。」
「っ………はい」
こうして私たちの戦闘は約一時間で終わった。
残りの二時間は魔力を回復しながら戦闘試験の振り返りをしていた。良かったところ、うまくいかなかったところを先生も交えて話し合っていた。
「いけると思ったんだけどなぁ」
「無理にぃ決まってるよぉ、だってぇ非戦闘員二人もいるんだよぉ〜」
(…うっ、心が痛いよクレラゼ)
「そうかしら、リトさんもクレラゼさんも私のサポートを上手くしてくれてとても心強かったですよ。」
「僕も、もう少し戦えたら良かったんだけど……まぁ課題も見つかったから良かったかも。」
「僕もです、まだまだやることだらけなんだと気付かされました。」
「俺もだ、自分が未熟で恥ずかしい」
「お、俺も……もっと頑張るぜ、詳しくはわかんねぇけど」
「私は自分の役割が全うできたので、満足ですわ。ただ、先生との実力差が大きすぎただけですわ。」
そうみんなで反省している、一人を除いて。
プレッテは録画映像を見て、一人で考え込んでいるようだが、席から立ち上がり先生の元に行った。
「ブラべ先生なんで最後に魔力を吸えたんですか、闇魔法は自らの魔力で生み出した闇しか操れないはずです。なのにどうやって、」
そう、私たちの大まかな作戦はダズとシオルを中心に闇魔法の攻撃を防ぎつつ、私とリリィ、セリー、クワイルで上昇気流を起こし、トドメをさすというものだった。しかし、それは自らが生み出した闇以外は操ることができないという闇魔法の仕組みの前提あってのものだ。
「そうですね……プレッテさんはどう思いましたか」
「私は先生の実力が高いから、自分の生み出していない闇を操れたのだと思いました。」
「……では、自分の生み出す闇とはなんだと思いますか」
「…自分の魔力が含まれる……ですか?」
「そうです、先程の試験で私は」
「魔力を混ぜたということですか……でも他人の魔力は感知出来なかったです。」
「……それはどこを感知させていたのでしょう」
「……影です、雲の」
「私はセリーさんの生み出した水に魔力をこめました。常識とは恐ろしいものです。そうであることが絶対に覆らないと脳が理解してしまい、視野を狭くしてしまう。今回は闇という単語が影と直結してしまい、そこに意識を向けすぎてしまった。ですが、闇はどこにでもあるものなのです、水の中、物質の中……これは風船がわかりやすいでしょうか、外からだと風船から落ちる影を意識しがちですが、中の空洞にも闇がある。他にも人の内面とかありますね。……プレッテさん、あなたが何を目指すのか私は分かりませんが、この学校を優秀な成績で卒業したいなら視野を広くし、想像力も高めなさい。そして、自分を褒めて、労ってくださいね。………すいません、少し説教くさくなってしまいましたね」
「っい…いえ、これからも指導よろしくお願いします!」
「おっ、プレッテ話終わったのか、こっち来て反省会しようぜ!」
「う、うん!」
「っていうか、私の水に魔力をこめてたなんて、良い気分じゃないわね。魔力の密度を高くすれば良かったのかしら」
各々が反省をして、私たちの初めての戦闘試験は幕を閉じた。