知らない過去
「お帰りなさい、かわいい赤ちゃん!」
「事情は知らないがお前はみない方がいいだろう。」
ルゥの親切に頼りたかったが、耳を覆うことはできなかったのだろう。音が聞こえてくる。
「この子の持病が治って良かったわ!ねぇあなた!」
知らない女性の声が聞こえてくる。
「あぁ、やっと目覚めてくれた。ディアーナもよく頑張ったな、さすがこの子の母親だ。それに君もありがとうな。こんな辺鄙な場所まで着いて来てくれて」
お父さんの喜ぶ声が聞こえる。
「いいですよ。可愛い妹と勇敢な騎士様の頼みだ。」
ちょっと若い牧師さんの声。何か喋っているが私には何も聞き取れなかった。いや、私の耳が脳が聞くことを拒んでいた。
「ところでこの子の名前は決まったのかい?」
「えぇ、この子の名前は……」
その瞬間本当に何も聞こえなくなった。
「……私の魔法であの空間を壊した。相談しなかった事は悪いと思っているが、お前は錯乱しているようだったから、独断でやらせてもらった。許して欲しい」
(そんなことで責めるなんて有り得ない。)
そう思いつつもルゥにかける言葉が分からなかった。気づいたら私たちは私の家にいた。
「先程と同じ場所だが……ふむ、ここは現実のようだな」
「ここ、私の家だよ。外に出たら神殿が見えるよ」
「ここがお前の家なのか、少しみて回っても良いか?」
「どうぞ」
私はその間にロゼットを首にかけておく。
(家の中で誰にも見られたくないのも取られたくないのもこれだけだから。)
上から物が落ちた様な音がして直ぐに駆けつける。
「ルゥさん、大丈夫ですか」
「見つけた……やっと見つけた」
そう不気味な声を聞いて、私は身構える。だがそれは無用な心配でルゥは静かに涙を流していた。ルゥが大事に抱きしめていたのは先程見た女性の写真だ。
「見窄らしいところを見せてしまったな。リト、この写真もらっても良いか?」
「私には関係ない物なのでどうぞ、ですが事情くらい聞きたい物ですね。」
「この女性は……私の娘、名前はディアーナ。彼女がある日男と駆け落ちして、数年後匿名で孫ができたことを知った。会いに行きたかったがどこに身を置いているか分からなかったため、会いに行くことができなかった。それから定期的に手紙が届く様になった。ある時また手紙が届いた。私は直ぐに封を開けて読んだ。その内容はディアーナとその娘が星に還ったというものだった。それから世界を回って消息を探していた。」
その話を聞いて世界の狭さを感じる。
「にしても先程のディアーナも写真の中のディアーナもとても幸せそうだ。ありがとうリト君に出会えなければ彼女に会えなかっただろう。」
少しお茶を飲んでからルゥは仲間の元に帰っていった。私もそろそろ神殿へ戻ろう。そう思った時上から風を感じてお父さんの部屋が散らかったままなのを思い出し、そこへ向かう。
「ルゥは片付けずに行ったんだね。」
物を片付けていると開いていたアルバムに目が行った。気になった私は少しそれを覗く。私の知らない美しい女性と可愛らしい幼児がいた。アルバムを閉じた表紙にはディアーナとレティと書いてあった。レティとは娘の名前なのだろう。私は静かにそれをカバンにしまった。




