表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

ep8 取引 

「そうですか。やはり貴女は勇者ですか」


 幻惑の魔女は奇妙な表情を浮かべた。

 怒りでも憎しみでも疑いでもない、まるで何かを懐かしむような表情。


「貴女が、この時代の勇者なのですね」


「?」


「こんな可愛いお嬢さんが、彼を倒した光の子。フフフ......」


 幻惑の魔女は(たの)しむように微笑する。

 挑発に乗る気配はまったくない。

 それどころか感情も考えもさっぱり読み取れない。

 それはセレスと騎士長にとって不気味に映った。


「......貴女は、一体なんなの?」


 幻惑の魔女は答えず、再びエヴァンスに視線を戻した。


「さて、話を戻しましょう。魔導師エヴァンス。貴方は魔王の遺産について話したいと(おっしゃ)いましたね?」

 

「はい。その通りでございます」


 エヴァンスは(うやうや)しく返事した。

 幻惑の魔女は何かを確かめるようにエヴァンスをじっと見つめてから、小さく頷く。


「貴方の希望はわかりました。ただし、条件があります」


「はい」


「それに見合う代価をお支払いいただきます」


 幻惑の魔女の眸の奥が妖しく光った。

 

「できますか?」


「もちろんです」


 エヴァンスは寸分の考える間もなく承諾した。

 騎士長と討伐軍が驚くより先にセレスが血相を変えた。


「魔女と取引!?何を考えているの!?馬鹿なの!?そもそもなぜそんなことをする必要が!?」


 セレスが厳しく詰め寄るが、エヴァンスは平常通りのまま落ち着けと言わんばかりに応じる。


「じゃあ逆に訊くけどさ。今ここで僕らが魔女様と戦うことに何の意味があるのかな」


「もし貴方の言っていることが本当で魔王の最高幹部ならば間違いなく人類の脅威でしょう!?」


「ありがとう。僕の言っていることを信じてくれるんだね。やっぱりセレスは優しいなぁ」


「はっ??」


 まるで人を馬鹿にしたように誤魔化されて、思わずセレスは言葉に詰まる。

 その時。


「!?」


 一瞬、時が止まった。

 その場にいる誰もが理解できなかった。

 間もなく理解した時は、目を疑った。


「なっ......」


 なんと、勇者の胸が、黒い刃に(つらぬ)かれていた。

 いつの間にそこへ現れたのか。

 セレスの背後に、黒いローブに全身を包んだ騎士らしき者が立っていた。

 

「くっ......」


 刃が抜かれると、勇者は力無くその場へ倒れ伏した。


「勇者様!!何者だキサマァァァ!!」


 すぐさま騎士長が斬りかかる。

 しかしその者は慌てることもなく、黒いローブを脱いで顔を見せた。

 その瞬間、騎士長の足がピタッと止まる。


「お、お前は......」


「これは騎士長殿。お久しぶりです」


「お前は、死んだのではなかったのか?マイルス」


 謎の騎士の口元が上がった。

 褐色の肌をした精悍(せいかん)な顔に、異様な光をたたえた眼が一同へ向けられる。


「ま、マイルス?」


 討伐軍がどよめいた。

 次から次へと起こる想定外の出来事に、皆、まるで理解が追いつかない。

 森の魔女の出現。

 エヴァンスの行動。

 森の魔物に殺されたはずのマイルスが生きている。

 だが......何よりも衝撃なのは、光の勇者がやられたことだ!

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ