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ep6 怪物

「ソレハ、ナンダ......」


 討伐軍全員の腹の底まで届く低い声が響いた。

 騎士長が驚愕して目を見張る。

 

「人間の言葉だと?この図体で知性のある魔獣が、ドラゴン以外でもいたのか」


「これが森の怪物。まだこんなモンスターがいたなんて」


 セレスの雰囲気が一変する。

 勇者の右腕と言われる賢者エヴァンスは彼女を見て悟った。

 これは魔王軍幹部クラスと対峙した時と同じだ。


「セレス。そんなにヤバそうかい?」


「ええ。貴方もわかっているでしょうけど」


「これはやはり...久しぶりに本気を出した方が良さそうだね」


 エヴァンスがそう言った時。

 森の怪物が再び口をひらいた。


「ソレハナンダト、イッテイル」


 すぐにセレスは理解する。

 この怪物が言っているのは、おそらくエヴァンスの持っている魔石のことだ。


「ねえ、エヴァンス」


「やっぱり、これのことだね。でも」


 エヴァンスは魔石を懐にしまい、森の怪物に向かって手をかざした。


「僕が求めているのはこんな獣じゃない」


「待って。何をしようと...」


 セレスが言い終わるが先に、エヴァンスは魔法を発動した。


「〔ピラ・ブレイズ〕」


 森の怪物を呑み込んで焼き尽くすように、巨大かつ激烈な炎の柱が地面から天に向かって一気に立ち昇った。


 ゴオォォォォォッ!!


 まわりには熱風が吹き荒れる。


「伏せて!」


 セレスが皆に向かって叫んだ。

 地にかがみ込む討伐軍。

 しかと立っているのは勇者だけで、騎士長は片膝をついていた。


「やりすぎよ!これでは森ごとなくなってしまう!」


 セレスの批判に、エヴァンスは不適な笑みを浮かべる。 


「本当の本番はこれからだよ」


「どういう意味?」


 エヴァンスは答えず、何かを待つように炎の柱に呑まれる森の怪物を見つめていた。

 それから数秒経ったか数分経ったかわからない。

 

「!!」


 突然、まるで蝋燭(ろうそく)の火がふっと消えるように、巨大な炎の柱が一瞬で()き消された。

 だが森の怪物は、黒コゲになって立ち尽くしたままピクリとも動かない。

 すでに死んでしまっているようだ。

 セレスが構えを解く。

 

「魔法を解除したのね」


「違うよ。僕じゃない」


「この怪物が?」


「それも違うよ」


「じゃあ誰が...」


 エヴァンスが上空を見上げた。

 セレスと騎士長は疑問の視線を交わし合ってから、同じように上空に目をやる。


「招かれざる訪問者は、貴方達ですね」


 上方から声が聞こえた。

 人間の言葉だ。

 しかし討伐軍の誰かのものではない。


「まさか、本当にそんな可愛らしい鳥の姿だとは」


 エヴァンスが独り言のように呟くと、空から一羽の茶色い(ふくろう)がスーッと舞い降りてきた。


「随分と手荒なご挨拶ですね」


 女性の声。

 梟から発せられている。

 セレスと騎士長は剣を構えた。


「何者かの使いか」


「勇者様。このフクロウ......」


「ええ。強大な魔力を秘めている」


 警戒する二人と討伐軍をよそに、エヴァンスは謎の梟に向かって歩きだした。


「エヴァンス!そのフクロウ、危険よ!」


「大丈夫。僕は彼女とお話をしたいだけだから」


 謎の梟は、吸い込まれそうに深い虚ろな黒目を、じっとエヴァンスに見据えた。


「ワタクシと、話をしたいと?」


「はい、森の魔女様。いえ、幻惑の魔女エルフォレス様とお呼びしたほうが良いでしょうか」

 

 梟の雰囲気が変化する。

 空気が不吉にざわめく。

 森の魔物たちが恐れ(おのの)くように後ずさった。

 エヴァンスは穏やかな表情で、相手に敬意を払うように片膝をつく。


「幻惑の魔女エルフォレス様。どうか真の御姿をお見せください」


「わかりました」


 梟が答えた。

 次の瞬間、梟の全身から不思議な光が放たれると共に、ぼんやりと何者かの姿が浮かんでくる。


「森の、魔女......!」


 討伐軍がどよめいた。

 彼らの前に、妖しくも美しい、幻妖なる魔女の姿が(あら)わになった。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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