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学歴厨、毒を吐く

 生きていくうえで一番大切なものは何か、そう問われたら何と答えるだろうか。


 金、健康、愛情。人により様々な答えが存在し、一つに絞り込むのは難しいようにも思える。


 でも僕のこの問いに対する答えはただ一つに決まっている。


 それはもちろん、学歴だ。



 入学式も終わり、どの教室でも初回の授業が行われ始める頃だ。高校までとは勝手が違う大学の授業に不安半分、期待半分というのが周りを見ての印象だ。入学式で仲良くなったのか、もとから知り合いなのか、初回の授業だというのにもういくつかグループができている。


「ったく、どいつもこいつも馬鹿にみたいに群れやがって」


 誰にも聞こえないようにボソッと呟く。本当は入学したくなかった大学に入学し、これから授業を受けようという僕はどことなく居心地が悪かった。


 僕が通う青海大学は、有名私立大学群のAPRILの一つで、世間一般的には難関大学とされている。しかし入試に3科目しか使わない私立文系の時点で僕から言われてみればFランだ。


 東都大学を目指し勉強し、惜しくも落ちてしまった僕とは違い、ここにいる奴らは3科目しか勉強していないか、そもそも推薦や内部進学がほとんどだろう。

 こんな奴らと同じ学歴なんて反吐が出そうだ。


 そんなことを考えていると、一人の男子学生が近寄ってくる。

 センター分けの髪に、キレイめの白いシャツをタックインした黒いズボン。靴は革靴。いかにも私文大学生といった格好だ。こんなFランに入学して服装に気を遣う暇があるなら、少しでも勉強したほうがいいに決まっている。


 僕はそいつの貼り付けたような笑顔が無性に気に入らなかった。


「やあ、はじめまして。俺は合田奏人って言うんだ。君の名前は?」


 僕の前で立ち止まった合田奏人は、僕と目が合うやいなやそう話しかけてくる。


「………秋山悠太」


 あまり関わりたくなかった僕はぶっきらぼうにそう答える。

 大学生活に友達なんて不要だ。大学は勉強する場所であって遊ぶ場所ではないのだから。


「ありがとう。それで悠太君、今この経済学部のみんなのSNSのグループを作ろうってことになってるんだけど、悠太君もどうかな。ほら、テストとかレポートとかの情報は共有できたほうがいいだろう?」


 チッ。僕は心のなかでそう舌打ちした。

 テストやレポートの情報を共有?いかにも馬鹿が考えそうなことだ。テストにせよレポートにせよ自分で勉強して、様々な文献を参考にして、自分の力で文字を書いて力になるんじゃないか。他人からテストのヒントやレポートの中身を教えてもらってそれが何になるんだ。 


 これだからFランはと心底この大学に入学したことを後悔した。これなら浪人してでも東都大学に行くべきだった。


 そんなことを考えていると、返事を待つ合田と再び目があった。

 その目は断られることなんて微塵も考えておらず、手に持つスマホにはもうすでにSNSのアプリが開かれていた。


「お前、入試方法は?」


 僕がそう尋ねると、合田はひどく驚き、不意をつかれたような表情をしていた。

 少し間があいた後、貼り付けたような笑顔に戻ると

にこやかに答えてくれた。


「僕は内部進学だよ。高校のときはサッカーをしていてね。ほら、青海高校のサッカー部は強豪だろ?だから僕はスポーツ推薦で高校に入学したんだ。まぁ結局全国へはいけなかったけどね」


 そう言って合田は肩をすくめてみせた。

 おそらく初対面の僕と少しでも仲良くなろうと、自分の身の上話をしたのだろう。

 

 見た目に清潔感もあり、今の少しの会話でも性格の良さも感じ取れた。普通の人間ならばこいつの要求通り、SNSのグループに入ることに抵抗を示すやつはいないだろう。 


 しかし僕にはこいつの言うことを聞くことはできなかった。


「内部進学だと、しかも高校もスポーツ推薦。このFラン大の中でも底辺じゃないか。僕がそんなやつとつるむはずがないだろう。僕に関らないでくれ」


「え、あ、あぁ。そうか、邪魔して悪かったね」


 顔を引きつらせながら離れていく合田を見て僕は鼻を鳴らした。

 あんな向上心のないやつらと関わったところで僕には害しかない。

 

 この四年間は我慢して青海学生として勉強し、そして東都大学の大学院に行くのが僕の目標だ。いわゆる学歴ロンダリングでもして東都大学の大学院卒ってことにしないと、青海大卒では恥ずかしくてこれから生きていけない。

 僕はあんな奴らとは違ってあるべき大学生の姿で過ごすんだ。


 そう改めて決意した僕の大学生としての一日目は驚くほど早く終わった。どの授業でもはじめはその授業についての説明がほとんどで、授業時間90分をフルで使う授業はなかったからだ。


 部活やサークルの勧誘で溢れかえる校内を出て、帰路につく僕の目には確かに希望や熱意が湧いていた。

物語はフィクションで、実在する大学などには一切関係ありません。

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