表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

緑の小鳥

荒れた道を進む中、ガルストンは考えていた。やはりというか、分岐点からは魔獣は凶暴になってくる。飛翔する翼持つ魔獣などもおり、ガルストンも防衛にまわったり、シェストも魔導具での応戦と、なかなかに苛烈になってきている。


それはそれとして、彼には思うところがある。リアナとシェストを巻き込んでしまったということだ。すべては、自分一人でことを収めるつもりだった。状況に流され、こうなってしまったものの、危険な地に立つのは自分一人だけでよいようにと考えていたのだが、そううまくいってはくれなかった。


彼にとっては、二人とも心強い仲間ではある。だが、あの日、記念を残した村の四人のうちの親友たちなのだ。戦火かから遠い地で、新規開拓民として暮らしてくれれば、とも思うのだ。


もともと、彼が帝国の伝承狩りについて知ったのはたまたま幼いころ、父と母が話しているのを聞いてしまったからだ。それを誰かに話したことはない。そう、彼は知っていた、もともと帝国が、召喚や霊獣にまつわる伝承のある場所や人を狙っているということを。いくら伝承が途絶えたとはいえ、もしかすると、そう思って、帝国兵となって近づき、それでいて、いざというときに何か手が打てるように、反帝国連盟ともコネクションを持ったのである。それは、かなりの部分でうまくいった。未然に防げなかったという点を後悔するほど彼は理想主義ではなく、現実も見つめる性格だった。


だが、それで本来終わるはずだったのだ。続くとしても自分一人のはずだった。心強いと思う反面、この争いに巻き込んでしまったことに胸が苦しくなるのを隠し、彼は旅をする。彼はそういう性分でもあった。いつでも、頼もしい存在、として振舞える一面があった。


#


数日かけて進んだ先で、崖にかかった橋を通ることとなった。橋自体は古のドワーフ達の職人が作った頑丈なもので、それ自体は問題がない、ただ、魔獣が多くなり、移動の制限がかかるその場所は鬼門ともいえた。サラマンダー号を運ぶ馬車を守りながら進んでいる、というのが難しさに拍車をかけている。


「デルルズ、対岸に魔獣はいるか?」


「いますね、凶暴なのが四体ほど、ただ、ここは見晴らしがいいですから、上空でちらちら引っ掛かる魔獣も気になります」


「隊列はいつも通り、リアナとシェストは空を飛ぶ方を優先してくれ、それと、最悪、サラマンダー号は諦める心づもりで行く」


「いいのか?」


「よくはないが、人材優先だ」


「マルコー兄ぃは、なんだかんだそのへん甘いよねぇ。命を大事にって言えばいいのにー」


「ふん、行くぞ」


そして、橋をゆっくりと渡っていく。


するとやはりというか、運がないというか、空中からの羽をもった魔獣がこちらを狙ってくる。それは、以前リアナ達四人が戦ったエイのような化け物のような頑丈さはないが、俊敏で、単調さがなく、空を自在に動くという点でやっかいな魔獣だ。


その魔獣二体、こちらへの強襲に対して手はず通りリアナは風の斬撃で応戦し、シェストも、魔導銃で牽制するも、そう簡単に当たらない。それでも、橋をゆっくり進んでいくと。デルルズが叫ぶ。


「前方の魔獣もこちらに気づいて、駆けて来ます!」


「ガルストン、後方とサラマンダー号の馬車の守りを頼む、俺とマリーネは前をやるぞ」


「あいよっ!」


と、マルコーとマリーネは俊足で前方に進むといって、いつぞやと違い、数が多いままだ、リアナの援護もないため苦戦は必至である。


そんなさなか、地上の魔獣が一体とびぬけてリアナに向かって突撃してきた。それをガルストンが防ぐ。そのとき、リアナは、ふと気が緩んで、しりもちをついたと思ったら、飛んでいる魔獣の一撃で橋から叩き落された。


「「リアナー!」」


叫ぶのは、ガルストンとシェストだ。リアナは宙を舞う、重力にひかれゆっくりと時間が止まったように落ちていく。そのとき、緑の光をまとったデルルズが橋から飛んだ。


彼はまるで翼で飛ぶかのように飛翔し、リアナを助けつつ叫ぶ。


「大丈夫です」


すぐさま、デルルズはリアナを抱えて端に戻るが、足から崩れ落ちると、緑の光が無くなったと思ったら、頭の上に、緑の小鳥チークがあらわれる。


「体勢を立て直す、リアナいけるかっ」


叫んだのはガルストンだ。


「うん、大丈夫」


デルルズは、しんどそうに倒れている。


「兵士さん方、デルルズをそっちにたのむっ」


とガルストンは言うと、サラマンダー号の運搬兵の一人がそちら側にデルルズを退避する。なんとか、前方での決着をつけてきたマルコーとマリーネが加わってくれたおかげで、上空の敵も追い払うことができた。デルルズは気絶しているようだ。


#


その晩、デルルズは目を覚ました。橋から少し進んで、野営をしていた。


「やぁ、起きたねぇ、やっぱり隠し事あったじゃーん」


と、起きたことに気が付いたのはマリーネである。目を覚ましたといっても、デルルズはだるそうである。


「ははは、大したことのない隠し事ですよ」


と、話しているとガルストンとリアナも近づいてきた。


「そんなことはない、君のおかげでリアナが助かったんだ、ありがとう」


「私も、油断してた。あんなところから真っ逆さまだったら、絶対、死んでたと思う。ありがとう」


「へへ、人の役に立つことなんてないと思ってましたけどね」


「それより、結局なんなのよあれ、言いなさいよ」


「召喚師って聞いたことありますよね?」


「あぁ、リアナは、継承が途絶えてしまっているがもとはそういう家系だからよく知っている」


「そうだったんですか。それの派生の術みたいなもんです。霊獣を自身の肉体に憑依させて、その力をかり受ける術、それがあの時使った憑依魔術です」


「じゃぁ、伝承は本当にあったんだ」


「そうかもしれませんね。でも、僕は魔力がからっきしで、使うとぶっ倒れてしまいますし、そもそも霊獣がいません。心を通わせた相手としか憑依魔術は使えませんから、動物でっていうのも無茶してるんでしょうけど、使うと倒れちゃうんで、使い物にならないんですよ。それに、このせいで、僕の村は滅びましたし」


「なるほど、私たちと境遇は同じなのね」


「ふーん、それと魔獣を探知できるのとは関係があるの?」


「えぇ、周囲に意志を伝えること、受け取ること、それが憑依魔術の基本です。霊獣と言っても、全てが言葉を交わせるわけではなかったそうですし、そうした力の先に憑依や召喚があるみたいですよ。ですから、敵意とかも受け取るのが得意なんです」


「なるほどねぇ、察知能力は使えたとしても、本命のアレが、切り札にはならなかったのかー」


「何言ってんだ、役割分担ができればきっと話は変わってくるさ、今までは一人だから使えなかったんだろ?」


「はいそうです」


そうして、デルルズの力が知られることとなり、それに興味を示したリアナはその後デルルズといろいろと話をした。そう、伝承は本当にあったのだ。もしかすると、自分も、何か秘められたものが本当はあるのかもしれないし、また、同じ境遇だった、いや、逃げられたのがごくわずかだったデルルズと比べると自分たちは良い方だったのだと改めて考えさせられもしたのである。


そんな中、マルコーがデルルズ達のところへやってきた。


「デルルズ、いちおう、他に隠していることはないか聞いておく」


「いくつか修行をさせられていたときに、突進系の動物と仲良くなって、憑依魔術で岩を砕いたりとかはありますけど、もう、そもそも憑依してもらえる相手はチークちゃんだけです。他にはありませんよ」


「なるほど、これではますますお前を本部に送り届けなくてはならなくなったな」


「どういうこと?」


「帝国は、伝承を探っている、その生き証人だからな、かくまわれこそすれ、無下にはされまい」


そういうとマルコーは去っていった。


「ねー、そのどんな修行してたのかとか、教えてもらってもいい?」


リアナはデルルズに聞く。


「えぇ、いいですよ。あなたほどの魔力が僕にもあったら、もうちょっとちゃんと使えたんでしょうねぇ」


デルルズは寂しそうにつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ