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傷心の船旅

反帝国連盟ニズタムの協力のもと、いくつもの船でコンシオ村の人々のほとんどは脱出を果たした。船の上では、夕闇に、遠のいていく故郷の方角をずっと眺めている者も多い。それは、あまりにも唐突な日常の破壊だった。明日も、当然のように平穏が続く、そう思っていたそれがこうも劇的に崩れてしまったのだ。多くの村人はこれからを不安に思い、そしてまた、故郷を捨てなければならなかったことを悔いている。


しかも、しんがりを務めた二人はここにはいない。メルナとギグの二人がいないのだ、ただそれが悲しい。二人は村でも評判の良い、中心的な人物だった。だからなおさら、多くの村人たちは悲しんだ。最も近くにいた、それぞれリアナとシェストはさらに悲しみに暮れている。


そんな中、ガルストンや村長、そして船に乗っていた反帝国連盟側の船長、忍者マルコーとマリーネはこれからのことを船長室で相談する。そう、悲しみに暮れてばかりもいられない人たちもいるのだ。


船長は告げる。


「避難先はもう手配済みだ、大陸のやや海側、王国フランベルズにやや近いが帝国からは遠い商業国家ラページュの一角だ。まぁ、村の規模も小さかったから、受け入れ先は選びやすかったそうだな。嫌なら、そこから好きな場所にわたるといい」


コンシオ村の村長は答える。


「それはありがたい、ぜひとも、そうさせてもらおう」


「ああ、だが、ガルストン、お前は別だ、こっちに勝手に来たからな。結果的にそれが良かったのかもしれんが、一度、本部の者と話をしてもらう必要がある。そこで処遇が決まるだろう」


「それはどういうことじゃ、ガルストンは何か悪いことをしたのか?」


「なに、仕方ないさ、俺はもともと帝国兵として内情を伝える役割だったからな。そこを失った分の穴埋めとか、まぁ、飛行兵器も強奪したからな、いろいろあるんだろ」


「まぁ、どうなるかは本部で決まるし、どういう考えかもわからん、まずは一つずつだ。ラページュまでは二週間ほどかかる、一応、最低限、船乗りも用意しちゃいるが、動けるやつは手伝ってくれ」


「そうじゃの、動ける者は動いた方が良いじゃろう、体を動かしたほうが気がまぎれるやもしれん」


「しかし、ガルストン、村長殿、あの爆発の光はなんだったんだ、あれほどの威力の魔法や、兵器は見覚えがないのだが」


「さぁ、もともとあそこは霊獣召喚の巫女様の秘宝などもあったそうですから、何かがたまたま起こったのやもしれません」


「そうか」


#


リアナは船の中で、涙を流しながらぽつぽつと食事をとっていた。あまりおいしくない非常食だった、船旅ではそれが普通なのだろうか。


いったい、何を間違ったのだろう。何か、自分たちは悪いことをしたのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。帝国の戦乱は遠くのことだと思っていた。でも、あっという間に、その業火に、村を追い立てられてしまった。順調に脱出できると思っていた。それでも、この先どうなるか、不安でいっぱいだった。でも、更に悪い後押しが彼女を襲った。あの爆発でメルナお婆ちゃんが生きていると考えられるほど、リアナは頭が悪くはなかった。そう、多くの帝国兵も巻き込み、自分の命をつかって、私たちを逃がしたのだ。


何て私は無力なのだろう。


もっと、私に力があったら、どうにかできたのだろうか。自身の力のなさに絶望していた。これから、いったいどう生きたらいいのだろう。村の外に出たい、そんなふうに思ったこともあった。だが、それは、こんな望まぬ形ではなかった。もっと平穏に、外の世界が楽しめるものだと思っていた。


「リアナ、すこしいいですか?」


と、隣にやってきたのはシェストだった。


「いいけど……」


シェストは、気丈にふるまっているのだろうか、今ではそこまで落ち込んでいるように見えない。あの爆発の時は、失意に膝をついていたはずだが。


「僕も、割り切れていません。ですが、村の人たちはたくさんまだ生き残っています。知らせがなかったら、どうなっていたかわかりません。ガルストンのおかげですね。それに、お爺ちゃん達がいなかったら、船は追跡されていたかもしれません。本当の本当に、最悪の、皆全滅して終わり、ということは避けられました」


「でも、あんただって納得できないんでしょ」


「はい、生きていてほしかったですよ、お爺ちゃんに」


「じゃぁ、何でそんなこと言うのよ」


「何ででしょうね。お爺ちゃんにはよくこういわれてました、俺が死んだら後は、シェスト、お前のやりかたで、お前の得意なことでいい、後を任せるぞ、って。ずっと、お爺ちゃんは言ってたんです、人間はいつか死ぬ。いつ死ぬかわからない。俺は歳をとったが若くして死ぬやつもいる。子供だってふと事故や病気で死ぬことだってある。最初は、受け入れるのが難しいだろうが、ゆっくりと、俺が死んでも、しっかり前を進んでくれって」


「そんなこと言われても、分からないよ。私、だって、お婆ちゃんに、もっと生きていてほしかったし、いろいろ、まだまだ教えてほしいことだってあったのに」


「そうですね。一緒に脱出できればよかったですね」


「うん、でも、どうせなら、帝国が攻めて来るなんてことがなければよかったのよ」


「そうですね。もしかしたら、もう世界中が帝国の戦乱に巻き込まれてきてしまっているのかもしれません。僕も、村でゆったりと、お爺ちゃんの仕事を引き継いで働きたかったです」


しばらく、二人はぽつぽつと語らっていた。星はいつものようにきれいに輝いているのに、現実は残酷だった。


#


あくる昼の船の上で、動けるものは船の仕事をしていた。そこには、リアナもいた。各船にわたって、船の帆に風を送って速度を上げて回っているのである。この船の上では、なかなか心休まらない人も多い、そう判断し、ふさぎ込むのをやめ、彼女は自分のできることに注力した。多くの村人も感化され、船は順調に進んでいく。


「ガルストン、ちょっとあの魔導兵器調べてみてもいいですか?」


「あぁ、いいぞ」


と、シェストは肉体的に船仕事に向かないが、ガルストンの持ってきた魔導兵器サラマンダー号を自慢の魔導の知識と器用さでもって調べていく。全員ではないが、多くの者達は、自分ができることをしはじめていた。


ガルストンはどちらかというと戦闘兵であり、そうした機材や整備といった面ではさっぱりだったので、もしシェストが何かできるなら、今後も、このサラマンダー号が使えるかもしれない。補給済みだったとはいえ、二日も飛ばしてきた、そのままでは燃料は枯渇するだろうがその辺の知識はガルストンにはないのである。というか、おそらく、そのへんは試作機ということもあり、本当にちゃんとしっているものは、帝国でも一握りかもしれない。シェストは、難しい顔をしながら、一部装甲をはがしては中を見て、装甲をつけなおしてを繰り返して、いろいろと調べているようだ。


船長曰く、この調子なら一週間ちょっとでつくかもしれない、とのことだった。というのも、リアナの魔術の助力がことのほか船の速度を上げているのだという。あれは、一般の魔術師でもそうそうできる芸当ではないそうだ。というのも、あんなに風の魔術を長時間使える者などそういない、魔力量が半端ではないのだ。技術はともかく、魔力量だけで言えば、一流の魔術師と言ってもいいそうである。


そんな働き者達とは反対に、忍者マリーネは、船の高いところで座って呆然と全体を眺めている。島に来たときはタルに潜んでの窮屈な船旅だったのだ、それがのんびりできるのが心地よい。彼女にしてみれば、船が到着してしまうとまた次の仕事に駆り出されるか、故郷へ戻って修行させられるので、この時間はささやかなバカンスなのである。彼女からすると、今回の脱出は大成功のように思う。何せ、村のほとんどが逃げ出せた、行方不明者は二名のみ、任務としてはなかなかの成果である。そう思うと、彼女としては上手くやったなぁーと思い、ゆえに、このゆったりとした時間は与えられて当然のご褒美なのである。


しばらく、船旅は続く。やがて、大陸が見えてきた。

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