事変は唐突に
ガルストンは、コンシオ村を目指し、サラマンダー号で空を飛んでいた。その魔導兵器は、確かに最先端で加速もすごく、高速で安定飛行になるまではかなり体に負荷がかかった。
また、このサラマンダー号は、他の飛行兵器と異なり、離着陸は高速飛行エンジンとは別の浮遊エンジンをつかうため、滑走路のようなものが必要なく、様々な場所に離着陸できるというメリットがある。その姿は、サラマンダーと称するだけあって赤く、浮力をえるための翼を細く持つ。高速飛行エンジンと浮遊エンジンを組み合わせることで、変幻自在の飛行ができるというのもこれまでの飛行兵器と異なる点だ。これまでは、高速飛行エンジンによって前進する力を使い、大きな翼で浮力をえるものが主流だった。そこに、浮遊エンジンが組み合わさったことで、新たなる兵器へと進化を遂げたのである。
サラマンダー号は、本来、いくつかの武装があるが、追従大型弾つまるところミサイルは備え付けられていない。標準で備わっている機銃のみである。というのも、開発中の飛行試運転の最中であったため、装備は万全ではないのだ。とはいえ、コンシオ村まで行くには問題ない。
ガルストンは目まぐるしく変わる風景と、各種計器類を眺めながら、一呼吸つける。本番は、村についてからだ、操縦だけで疲れていてはいけないので、なかなか難しい。
二日ほどして、昼、島が見えてきた。北部の港町を過ぎ速度を緩め、コンシオ村から少し離れたところでゆっくりと森でサラマンダー号を隠すように着陸させる。
懐かしい森を、小さな魔獣を軽くあしらいながら村へと進んでいく、そう知らせなければならない。
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ガルストンが村へ戻ると、村長と村の主だった者達、メルナ婆さんやギグ爺さんを含んで、彼は重大な話をはじめる。
「帝国があと数日でこの村を侵略しにやってきます」
「そうか、やはりあれは無駄じゃったのだな」
ガルストンの伝えたことに村長は驚かず答えた。
「メルナ婆さん、どうやら、伝承があった、というだけでも、奴らは攻めてくるようじゃ。ひとまず、昔作った島の東側に逃げれる脱出経路が使えるか、確認が必要じゃな。」
ガルストン以外の一同はうなずく。
「しかし、ガルストン、よく知らせてくれた、ありがとう」
「いえ、俺の力では何もできず、申し訳ありません。」
メルナは告げる。
「それはそうじゃ、召喚については帝国はなんでもかんでも情報を強奪しておるからのぅ。一介の兵士、いや、軍団長ですら、その方針は止められんじゃろう、むしろ、そうそうに廃村にして、違う場所で村を新たに作るべきじゃったのかもしれんの」
「そう決断できんかった先代を責めても仕方なかろう」
するとふと、天井から声がした。
「どうやら、俺たちがいなくても退避の流れは作れそうだな」
いつのまにか、天井に二人の男と女がはりついていた。
男はさっと降りて、ガルストンの前に向かって言う。
「あなたが、ガルストンか、計画では、こちらにはかかわらず、スパイを続けるというのが反帝国連合の要求だったと思うが」
「悪いな、他人に任せておけるかよ」
「確かに、反帝国連合ニズタムも、君から見てどう信用したものか、難しいところがあるだろうしな」
「何かあるのか?」
「いや、ただ信用する、しあうというのは難しいものだ。とりあえず、脱出経路のほうを俺達にも見せてくれ、他、脱出に手伝えることがあれば可能な限り行おう。それと、東側に島から脱出するために、船を用意させている。それを使うといい、その辺の案内は、おい、降りてこい」
「はいはーい、魅惑の忍者マリーネちゃんでーす」
「船までの案内はこいつがする、かわった奴だが腕は確かだ」
「かわったってなによ、妹に向かってー」
「ガルストンは、どうやってここまできた?」
「魔導飛行兵器サラマンダー号でだ」
「なら、さきに脱出の船に向かってそれを船に乗せておいてくれ、そのほうが後々身動きがとりやすいだろう。」
こうして、コンシオ村脱出作戦は幕を開けた。
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コンシオの村人達は少し混乱しながらも、しゅくしゅくと脱出の準備をはじめた。戦ってどうこうできる相手でもなければ、抵抗しなければ安全かというとどうなるかわからない、それが帝国だ。帝国領にされたと思ったら思い重税をかせられた地域もあると聴いている。
リアナは、一変してしまった状況を思いながら、退路の調査についてこいと言われ、祖母と、二人の忍びマルコーとマリーネと他二名でその昔準備した脱出経路をめざしたら。その入り口はいつぞやの古ぼけた、小屋だった。
「ここが脱出経路なんですか?」
「そうじゃよ、脱出するため、ちゃんと構造を知らんもんは迷うようにできとる。といって、村でいまその道をしっかり把握しておるのはもうごく一部じゃがな、それを、しっかり覚えておくれよ」
「任された」
「もちろん」
二人の忍者は何の問題もないかのように言うが、リアナは知っている、あの入り組んだ洞窟はそう簡単に覚えられるものなのだろうか。
「なに、正解の道だけ、覚えればええ」
リアナは光の魔術であたりを照らし、正解の東側への道を頭に叩き込むように覚えた。
「いいかい、スムーズにみんなが脱出できればいい。ただ、帝国も動きが早いかもしれん、そんときは自分の命を最優先にして必死に逃げるんじゃ」
「うん、いいこというねぇお婆ちゃん、何事もまずは自分が一番、私そういう考え好きよ」
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コンシオ村では、脱出の準備が進んでいた。村人たちは必要最低限の荷物をまとめ、家畜や貴重品を安全な場所に隠す作業に追われていた。リアナは村の中心で指示を出しながら、混乱を抑えるために懸命に動いていた。
「みんな、落ち着いて!各自、担当の場所に向かって!」
メルナ婆さんはリアナの横で見守りながら、時折助言を与えていた。リアナは祖母の存在に安心感を覚えつつも、自分の責任の重さを感じていた。
「リアナ、君は本当によく成長したのぉ。こうして皆を導く姿を見ていると誇らしいぞぃ」
「ありがとう、お婆ちゃん。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。全員無事に脱出させることが最優先だよ」
一方、ガルストンはサラマンダー号を港へ移送するために再び森の中を進んでいた。彼は一刻も早く任務を遂行するため、慎重かつ迅速に行動していた。途中で小さな魔獣に遭遇しながらも、問題なく港に到着し船にサラマンダー号を預ける。
村は報告を聞いて全会一致で逃げの構え、これを協力している忍者マリーネはやや面白くなかった。
「ねー、マルコー兄ぃ、なんで戦おうって人が一人もいないの?」
「一人、一つの村だけで戦っても勝ち目はない。反帝国連盟ニズタムなど、助力があってこそ、それを知っているのだろう」
「でもなー、逃げるしかできないってのに、村長さん達、わりと冷静だったの、すごく驚いちゃった」
「もともと、予感があったのかもな」
さて、いくら非難を進めましたと言ってすぐに終わるものではない、必要なものをまとめ持っていくというのは本当に難しいことだし、時間もかかる。
マルコーの知らせで、帝国軍が小島ミゼラの北方に上陸したことが確認された、もうしばらくすると攻めて来る。
「とうとうきちまったな、リアナ」
「そうね。私、ガルストンがこういうこと考えてたなんて知らなかった」
「そりゃ、誰にも言ってないからな。それに、これは、きっと俺にしかできないことだった」
リアナやガルストンは村の住民の避難を先導し、船への乗車をマリーネが案内し、マルコーは周囲の警戒をはじめていた。カランコロン、マルコーの警戒網に引っかかると、帝国兵がズシンズシンとやってくる。
まだ、脱出経路で逃げている最中の者がいる。いったんかく乱のため、マルコーは、二人ほどさくっと兵隊を殺し、進軍の中央に爆弾を数個投擲する。少しでも時間をかせがなければ。
それも長くは持たず、帝国兵は街をくまなく探し始め、対には、避難経路へ向かう者たちを見つけてしまう。
なんとか、ガルストンと、マルコーが手伝い、経路の中にそれらの住人をひきいれたが、経路の場所が見つかってしまったのだ。だが、そこでギグ爺さんは快活に言う。
「なに、ワシとメルナ婆さんがしんがりをやって時間をつくろう。脱出経路は迷宮、しかもいろいろ仕掛けもしとるからな。そう簡単に進ませんぞ」
メルナ婆さんがそれにこたえる。
「まったく、しかたないねぇ、この老体をこき使うとは」
「ふん、うずうずしてたくせに何を言う」
帝国兵が脱出経路に入るも、まずは入り口で、石の呪文でふさぎ邪魔をする、それが壊されて兵士が入ってきたなら、ギグ爺さんが持ってきた二つの魔導マシンガンで次々と粉砕していく。
といって、帝国兵には数がある。そして引けない理由もそれぞれあった。
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ほとんどの人の脱出が終わる。みんなが船に乗り込んでいる。シェストは今回、何の役にも立てなかったことを悔いた。ただの村人の一人と同じように、逃げるしかできなかったのが悔しくて仕方がなかった。
「リアナ、僕悔しいよ。何も、何も役に立てなかった」
「私だって、十分できたって思えてない。だれも、これでいいとは思っていないわ」
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「メルナ婆さんや、そろそろ本気を出してもええんやないかな」
「そうかもしれないねぇ」
そう言うと、メルナは、魔力をため、ゴーレム、番犬、竜にも似た霊獣を呼び出した。
「さすが、一度に三体とはまだまだおとろえとらんの」
「なに、全盛期は五体はいけたわ」
と、しんがりの戦いは激闘を極めた。しかし、そこまでしても、圧倒するだけの人員が帝国にはあるのだ。そして、帝国も通常の剣や槍だけではなく、魔導具も使う。
「小部屋に置いておいた触媒、回収しと組んじゃったかのぅ」
「なに、生きていればいつかチャンスはあるじゃろ」
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ドーンと怒号が響いた。それは、ちょうど脱出経路の入り口付近からだ。崩落させて、こちらに来れないようにしたのだろうか。
「お婆ちゃん!」
リアナは叫ぶ、大丈夫なのかと。
「今のうちに撤収する、祖母殿が時間を稼いでくれたのだ、行くぞ」
「でも!」
「この機を逃したら、脱出できた者たちまで危険になるんだぞ」
リアナは崩れ落ちる。
「お婆ちゃん……」
その次の瞬間、脱出経路付近で大きな爆発が起こった。それを見て、リアナは叫ばずにはいられなかった。
「おばあちゃーーーーーん」
「撤収!」
シェストの祖父、ギグ爺さんもいたのだ。シェストは膝から崩れ落ち、意気消沈している。何隻もの脱出艇が、海へと出ていった。もう、あの、のんびりとした、安息の場所は無くなってしまったのである。
はたして、これからどんな困難が待ち受けているのだろうか。