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本部へ戻ったニクス達は、盟主ゲルニック達と会議を開いた。人界と霊界を再び戻すか、そして誰が戻すのかである。


まず、戻す場合、一人霊界側に取り残される。そう、これが一番の問題とも言っていい。また、それをなしえる存在は先のガイナードの意思によりおおよそ見定められていた。ニクスとリアナの組み合わせか、メルナ婆さんとリアナの組み合わせか、どちらかだったのである。


ひとまずは、各国と調整をしてどうするのか方針固めが行われた。ただ、現在は強力な魔獣に手を焼いている状態で、戻るなら戻る方がいい、という意見が出そうであった。


それはそれとして、勝利の祝杯を皆で上げることとなった。


大きな場所を借りて、戦いに出たメンバーに加え、ギグ爺さんや、メルナ婆さん、マリーネ、鍛冶の霊獣も参加している。ガルストンが祝辞を述べる。


「手短に言う、帝国皇帝の脅威は去った、まだ混乱は残ると思うが、世界の危機は去った、皆の力があっての勝利だ、さぁ、今日は飲み、食べあかそう!」


こうして、楽しい食事会ははじまった。


「ちょっと、最後の一撃でニクスとリアナが憑依魔術つかって一緒になってたって言うけどどういうことなの!?」


と、ニクスにつめよるマリーネである。


「もう、私というものがありながら、まぁ、浮気には数えないでおいてあげるけど、私もそこまで覚えたいなぁ」


この調子だと、デルルズにいろいろ聞いて、習得してしまいそうな勢いである。


「よぉ、シェスト、機械腕などの新兵器はどうじゃった?」


「えぇ、かなり使えました、でもこれ兵器として使われていくのは嫌ですね。どうせなら工業用の補助など平和的に使いたいです」


「そうじゃなぁ。それに世界を分けたら、金属はなかなかとれんじゃろうから、心配はせんでよいかもしれんぞ」


相変わらず、この二人はそうした話が大好きだ。


ふとリアナは夜風にあたっていた。そこにガルストンがやってくる。


「こんなところで、どうしたんだ?」


「うん、ちょっと悩んでるの。その、もっとゆっくり世界を見て回りたいなぁとも思うし、故郷の村、復興させたいなとも思うし」


「そりゃまた、人生どちらもはえらべないな」


「でしょ。あと、もし世界をさまた分けるってなったらさ……」


「そうだな。リアナにとっては、大事な人がどちらにしても霊界にのこっちまうもんな」


「うん」


そう、まだどうするか、決まっていないが、リアナが人界に残るとしたら、メルナ婆さんかニクスが霊界となる。どちらも、そっせんして、霊界側にと考えていそうだった。メルナ婆さんは、後は若いもんの時代だとかいって、霊界に残りかねないし、ニクスは自分ならやっていける、と霊界に残りかねないのである。


心地よい風も、寂しい予感を拭い去ってはくれなかった。


#


皇帝打倒もあわせて周知されたことで、反帝国連盟や怯えていた各国は安堵した。傷跡も癒えず、街道の安全は確保しきれていないが最大の脅威が去ったのである。


反対に、この知らせはその他の国や帝国側にもゆっくりと伝わっていき、反乱、独立の機運が高まっていく。皇帝不在で、主だった四天王も欠けた今、明確に指示を出せるものも少なく、瓦解の兆しが見えはじめている。


全会一致とまではいかないが、おおむね人界と霊界は、再度分けるという意見が多く、盟主ゲルニックはその運びで進めたい、と通達した。まだ、日時は決定していない。


これに対して、ニクスが霊界側に残ると言い出した。メルナ婆さんには召喚術師を沢山育ててほしいこと、そしてなにより、もう霊獣になりかけている自分がもっとも向こうでやっていける適任者だ。生贄のようにメルナ婆さんを置いていきたくないという思いもあるのだとか。


メルナ婆さんにとっては複雑だった。そう、ニクスはこれから父親になる、また、人生の転機が訪れ、子育てという機会に巡り合うはずなのだ、だから、犠牲になるなら自分でいいとも考えている。


そうした、二人のやり取りは、顔を合わせるたびに続いた。


マリーネにはニクスには残ってほしいとも言われている。それはそうだ、一緒にずっといるつもりで、これまで召喚術の修行など頑張ってきたのである。家も買った。父にも紹介したのだ。ニクスは「ごめん、本当にごめん。でも、たぶん俺が行かないといけないんだ」と答えるだけだった。


ニクスは考えていた。たぶん、ニクスが霊獣になり切ってしまったら、多くの人々は受け入れてくれないだろうと。それは、この戦乱ではっきりした事だった。なにせ、魔獣と霊獣の区別がつかず、多くの人たちは霊獣にも怯えていた。もし、世界が元に戻ったら、自分のような存在を霊獣だと認識できる人はさらに減るだろう。人間たちの中で、肩身を狭くして暮らすより、霊獣の世界で自由に暮らす方がよい、そんなきもしてくる。反対に、これまで育った故郷から、断絶されるというのは寂しい。アミダ様に確認をしたところ、世界を隔てての霊獣召喚の例はないらしい。それほどまでに、きっと強力な分離なのだろう。


ニクスはもう、きっと会えないからと、マリーネとの時間を大切にし、そして、皆の顔をのぞいていく。


ルゥに会いに行った。彼女は、なんだかんだまた防衛にもどって奮闘している。故郷に戻りたくないのかと聞いたら、パフェが食べられなくなるのも嫌で困っているらしい。かわいらしい悩みだった。


ベンケイに会いに行った。彼は、俺はどっち側に行くことになるんだろうなぁと気楽そうだった。彼ならどちらの世界でもやっていけそうでもある。だが、人間の世界でワイワイやりたいらしい。はたして、その願いはかなうだろうか。


シェストに会いに行った。彼は、リアナをふってマリーネを選んでおきながら、勝手だとも珍しく怒りつつ、それでいて、でも、メルナ婆さんを残したいという気持ちはわかるとのことだった。


ウェーゼンに会いに行くと、なら、約束の手合わせに付き合ってほしいと言われた。結果はニクスの勝利で終わり、まだまだ挑戦させて欲しかったと言われる。


盟主ゲルニックに会いに行った。彼からは多大な感謝をされ、家のことや、マリーネの生活のことは任せてくれと言われた。


マルコーに会いに行くと、一発殴らせろと言われたので、盛大に一発殴られた。


ガルストンに会いに行った。彼とはこれまでのことをいろいろ話した。


リアナに会いに行った。彼女からはメルナ婆さんのことであやまられた。きにするな、自分が決めたことだと返した。


そうして、日取りが決まり、ニクスとリアナで月の扉を閉じることとなり、ガルストン、メルナ婆さん、マリーネ、シェスト、ゲルニックが立ち会うこととなった。


#


リアナのテレポートで月の扉に直接向かう。ニクスは一人旅をしていた時の要領で、食材や旅道具を持っている。マリーネはずっと静かになにもいわずニクスにくっついていた。だが、扉のそれぞれニクスとリアナで反対に立つときにガルストンとメルナ婆さんに優しく引きはがされ、泣き崩れていた。


扉をゆっくりと閉めていく。ドズンと閉まり、魔力をそれぞれの方向から流し込んでいく。二人の共に歩んだ年月の長さと絆が深くなければ、世界は分断しえない。


そう、それが成功するというのは、二人の絆は確かにあったという証。


「じゃぁな」


とニクスはいうと、扉を中心に大きく輝いて、そして、その場から、ニクスだけいなくなっていた。


地上に戻ると、世界は確かに分かたれ、以前の街道でのつながりとなっており、凶暴な魔獣もいなくなっているようだった。


マリーネは、心ここにあらずであった。


そんなマリーネを、リアナは一緒に来てと連れていく。メルナ婆さんと、そしてデルルズを呼んで、召喚術の訓練の場にあつまった。


リアナは言う。


「試したいことがあるの、だから協力して、力を貸して」


みんなは輪になった、そしてリアナに従って彼女に力を貸していく。


「私たちは願う、たとえ、これが失敗したとしても、何度でも挑戦する。私達のもとに、帰ってきて、ニクス、アナザーテレポート!」


周囲は大きく光り、一筋の光は月まで届く。


そして、なんと、光の中心から、これから旅支度をして歩き出そうとしていたニクスが現れたのだ。


「ほほう、まさかこんなことができようとは、秘伝を増やしてしまったのぅ」


デルルズは、拍手をしている。


「おかえりニクス」


「よかぅったぁー」


マリーネは泣いて彼に飛びついた。


ニクスとしては、一体全体どうなっているのかわからず、戸惑っていたが、皆がいたので笑っていた。


世界が隔たれていようと、一人の力では難しかろうと、多くの人の力を借りて、奇跡が起きたのである。


ささやかに、ニクスとリアナ、それぞれが持っている召喚術に使う道具、赤い羽根飾りのネックレスが祝福するように輝いていた。


#


あれから数年が経った。


コンシオ村から脱出した人々は、帝国が衰退したことを知り、コンシオ村へと戻り、村は復興されていた。ギグ爺さんもこちらに戻って、また以前のように工作やら修理やらをしている。


メルナ婆さんも村に戻り、帝国の危機もさったこともあって、村の人々に、血筋は関係なく、召喚術を習いたい者達に教えていた。焼き尽くした秘伝や修行法などについても、書物を書いており、まだまだ、くたばれないなと感じるのであった。


ガルストンは、大陸に残り、反帝国連盟の将の一人として、帝国や世界統合時の魔獣によって破壊された都市や街の復興に心血を注いでいた。傷跡は深く、まだ、瓦礫の撤去が終わっていない地域も多い。


リアナとシェスト、ウェーゼン、ルゥは世界を旅してまわっていた。ウェーゼンやルゥの故郷を訪れたりとしている。リアナの両親はもともとは旅の冒険者だった、その血が騒いで、彼女は今度こそもっと世界を知りたいと思ったのだ。シェストは、世界はどのように戻ったのかという調査や研究なども兼ねている。ウェーゼンは武を高めたいという思いや、故郷を訪れたいという思いがあった。ルゥも、故郷を見つつ、世界の美味しいものなどを散策して楽しみつつ、自身の魔法の研鑽にいそしんでいる。


マルコーは相変わらず、帝国の残存への潜入任務などで世界を駆け巡っていた。皇帝は倒したとはいえ、残存した人々で再編成がなされつつあり、戦乱はまだ続いているのである。


デルルズは、一日に二回ほどだがテレポートが使えるまで上達し、反帝国連盟の本部で、情報の伝達、輸送など、大きく貢献していた。


帝国から独立をはかった元小国では、いくつもの武器を持った豪快な武芸の達人がいて、祭りや腕相撲を楽しんでいたという。


ニクスとマリーネの間には二人目の子供ができ、子育てにてんやわんやである。一人目もどちらも今のところ人と全く変わらない姿であった。ニクスの霊獣化は進行しており左手はうろこで覆われている。マリーネは愛嬌のあるお母さんという感じで、家事なども十全とこなすようになっている。


ニクス達の一人目の子供が、階段を四つほど登っては、トーンとジャンプをする、という遊びをいつも通り繰り返していた。いったい誰に似たのだろう。と思ったら、ふわりと宙を舞い空を飛んだ。


「飛んでるー!」と、マリーネが驚くと、ニクスもそれを見て驚く。


こうして、コンシオ村からはじまった物語は幕を閉じる。

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