祝福
ニクス達が帰ってきてほどなく、作戦は決行された。完全ではないものの、それ以上の案はなかった。
浮力エンジンのみでそれを増設したミニマンダー号に、マルコーとメルナ婆さんが乗り込む。ミニマンダー号浮遊型は、静かに移動でき、なんとか高度も十分出せるところまで行った。しかし、速度は馬の二~三倍程度である。そう、ゆっくりである、だが、もうこれ以上は時間もかけられないという判断だった。
そして、本部から直接ミニマンダー号浮遊型で進んではゆっくり過ぎるので、ニクスを中継点とするため、早朝に彼が大空をかけ、毒霧からおおよそ徒歩四日分ほどの距離まで向かう。ニクスと、召喚術で意思疎通をしたメルナ婆さんは、リアナの力をかり受けて、マルコーと共にミニマンダー号浮遊型ごとテレポートする。操縦はマルコーで、とうとつに変わった視界にもうまく対処し、ゆっくりと近づけていく。それを見届けたニクスは二人の無事と成功を祈ってその場で待機した。彼は、結果を見届ける任務がある。彼にとっては、自分でやらない、後は見ているだけしかできないことを、歯がゆく思う。
ゆっくりと飛ぶミニマンダー号浮遊型は、少しずつ近づいていくが、それは本当にゆっくりで、どうしてもじれったい。
避難している人々や、まだ毒から遠い人々の中に、毒のほうへと空を飛んでいった、赤い炎の翼を目撃した人達もいた。彼らは思った、この大惨劇、帝国の恐ろしい攻撃に立ち向かう人達がいる、その希望にすがりたい、お願いします、と、そう思ったのである。
雲の中を突っ切りながらミニマンダー号浮遊型は着実に近づいていた。確かにゆっくりではある、しかし、毒の霧もこっちへと移動しているのだ。よって、少し、早くたどり着けそうだった。しかし、それは、狙う先が移動中であることも意味する。移動中の相手に長距離で命中させなければならない。
メルナ婆さんはデルルズの力を借りて、敵を探すと、その位置が明確にわかった。移動している。中心からやや後方の場所である。それをマルコーに伝える。じわじわと、敵の頭上に近づいていく。もうあとは、メルナ婆さんの背にすべてがかかっていた。多くの人たちができるかぎりのことをしてくれた。作戦の方針をひろげてくれたカゲロウ団の統領モウルズ、なんとか気づかれないようにと浮遊エンジンでの高高度飛行を実現させたシェストやギグ爺さんや兵器開発の者達、避難をさせ時間をかせいでいた霊獣達と仲介をになったガルストンとリアナ、長距離のでの敵の補足を可能とさせてくれたデルルズ、そう、本当に、たくさんの人達の力の結晶である。そして、この成否は、より多くの人たちの生活に影響を与える。
メルナ婆さんは敵の移動とこちらの移動にあわせ、リアナの魔力も借り受けて、霊獣ラグナードの系譜とされる霊獣ナラグを召喚して、予測した目標地点へむけて彼の霊獣にその強大な爆発をときはなつ。
ドガンと強大な爆発が毒霧の中で起こる。成否の確認に関わらず、直ちにメルナ婆さんはテレポートで本部の実験場へと戻る。爆発であるがゆえに、毒霧が周囲へ舞ってしまい、それを受けてしまう可能性があったからだ。ニクスはその爆発で舞った毒の霧を避けるように、さっと後ろへと逃れる。毒の霧はまだある。しばらく、彼は様子を見る。
ほどなくして、ゆっくりと、ゆっくりと、霧の領域が小さくなっていった。それが収まりきるのを、彼は待つ。本当に、完全に、終わったのか、見届けなくてはならない。
ゆっくりと消えていく毒の霧を見つめていると、もう夕方になった。
まったく、無くなってしまったように見えた彼は、爆発地帯に近づいて最終確認を行う。そこは、球状に跡形も残っておらず、敵の姿もなにも見当たらなかった。無事、成功したのである。
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ニクスからの作戦成功の報告に、本部は急ぎ各所にこれを通達、本部のある町リザンスはもちろん、各所へおおきな喜びが伝播していった。
こうして数日後、ささやかながら町リザンスでは作戦成功のお祝いが実施される。また、ゆっくりと避難していた人たちにも伝わり、帰る動きにかわった。といっても、完全に喜べるわけではない。もうすでに滅ぼされた国や地域は帰ってはこない。それでも、全滅は避けられた。これ以上の敵の暴挙を止めることができたことに、皆で祝いあった。
そんな喜びムードのなか、ニクスはマリーネに召喚術の訓練場に来いと意思疎通で呼び出される。彼はなんだろうと思って向かってみると、そこには、マリーネの他に、メルナ婆さん、リアナ、デルルズもいた。
「あのね、お医者さんでも見てもらったし、デルルズの力を借りてもう一つの意志があるかも確認してもらったんだけどー」
「お、おう」
「子供、できたってー!」
「そ、そうか、はは、嬉しいよ、ありがとう」
メルナ婆さんは、不思議なこともあるしさらに次の世代を感じて嬉しい気持ちになって、お祝いの言葉を言う。
リアナは正直複雑だが、まぁ、もう振られちゃったし、見ちゃってたし、この二人ならしかたないなぁとおもってお祝いする。
デルルズからも「おめでとうございます」と言葉が送られた。
「だから、ごめんなんだけど、しばらくは戦線にでれなくなっちゃった」
「何言ってんだ、いつもマリーネがいってるじゃないか、自分第一だって」
「ありがと、ま、これからはお父さんになるんだから、自己犠牲とかなしだからねー」
「当然だ」
「そうじゃぞ、私は頑張ってリアナを育てたが、両親はそろっていてほしいと思っておる。まぁ、それはそうと、リアナも次の相手を探さんとなぁ」
「お婆ちゃーん!」
皆で笑いあっていた。
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そこは鍛冶の霊獣の鍛冶場、金属ハバラウムが入手できたことで、ガルストンの義手ができ、いま接合と調整をしている。それは、外側は白銀のミスリルでできた丈夫さを持ち、関節部と神経伝達に、ハバラウムを用いた新たなる彼の右腕だった。接続を安定化させるため、胸回りを覆うように外側はミスリル、緩衝材として魔獣の皮を使った固定部がある。
調整を繰り返した結果、いいあんばいで腕を伸ばしたり、ひいたり、手を閉じたりが十分できるところまでに至った。
「おぉ、ありがとうございます!」
「ほっほ、良かったわい。強力な腕力もさることながら、少し魔力を込める必要があるが前面にかなり分厚いバリアも展開できるぞぃ。上手く使ってくれ」
さっそく、ガルストンは以前使っていた長い鈍器の武器を持ち出し訓練場へと向かっていった。
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さて、子供ができたこともあっていよいよニクスはマリーネに、彼女の父、カゲロウ団の統領モウルズに会ってほしいと言われ、ニクス、マリーネ、メルナ婆さんの三人でカゲロウ団の里へと向かった。テレポートはリアナの支援をうけてメルナ婆さんが使う。
そもそも、赤子として捨てられていた子を育て引き取り、最初の世話をしていたのはメルナ婆さんである。メルナ婆さんにとってはもともと孫のような存在であったため、付き添うことを決めたのである。
さて、奥の間へ案内され、モウルズと一行は対面し、マリーネはそれぞれを紹介、そして子供もできたことを告げた。
すると、あまりの情報量と状況の複雑さに混乱しモウルズは白目をむいて倒れた。
「「おっ、統領ーーー!」」
そう、いきなり娘が、人間でない存在と恋仲となり、もはや子供もできたとあっては、いくら里の長を厳格につとめているモウルズであっても一人の父親、そのショックは壮絶に大きかったのである。
ほどなくして彼は目覚める。
「もうしわけない、醜態をさらした」
「もうー、驚きすぎだよー」
「まったく、段取りがどうこうとは言わんが、お前がこれほど自由奔放だとはな」
こうして、一行は、いろいろと話をした。メルナ婆さんからはニクスがどんなふうに育ったかなどの話もふくめて。対して、モウルズはマリーネの子供時代なども話された。
「ニクスよ、我も父だが、ここの統領でもある、君も二つの立場の板挟みになることがあるやもしれん。何かあったら、相談しに来い」
「はい、お義父さん」
「ははっ、なんだか不思議な感じだな。マリーネよ、里でもどって暮らすも、他を探すも好きにするといい。だが、たまには顔を見せよ」
「ありがとね」
話はひと段落すると、軽くニクスは里の忍者たちやモウルズと手合わせしたり、一緒に食事をとったりし、一泊して本部に戻った。




