新規開発
ガルストンは各所との連携の筆頭となっており大忙しであった。あるていど、各国が各自でおこなってもくれるが、こちらが必要だったり優先したい内容とかみ合わないこともあり、そうしたときの交渉なども引き受けるようになっていたのである。そのうえで、霊獣達とも情報交換を図るなどしてもいた。彼はそういう意味で、誇れると思えるものもあった。しかし、皇帝との戦いで腕を失ったことで、戦闘面で全くついていけなくなったことに歯がゆさを感じてもいた。だからこそ、知恵で頑張っているわけだが、やはり前線でも役に立ちたい。ただ、皇帝との戦いの事を思うと、もう前衛としては自分は一歩遅れを確かにとっていたことも痛感していた。そう、右腕を失ったことがまさにその証である。ニクス、マルコー、マリーナの三人はあの一刀両断に対応できていたのだ。自分だけ、腕を失った。あの時点でもう、前衛としてはついていけ無くなりつつあったと無念に思う。
そういう考えがたまによぎる。さて、気持ちを切り替えて、しばらく本部で皆の顔や新しく来た鍛冶の霊獣ともまだあっていなかったなと思い、ふと鍛冶の霊獣の元に訪れて挨拶をした。
「おぉ、にしても何で腕をそのままにしておる、不便であろう?」
「どのみち義手では前線では戦えず、手も自在に動きませんし」
「む?何を言っておる、義手とは、こう、自分の意思で腕や指先を自在に動かしたり、能力を付与してといろいろできるじゃろう?」
「そういうもの、作れるんですか?」
「そうか、人間はそういう技術はあまり持っておらんかったやもしれんの。うむ、作れる」
「ぜひ、作ってもらえませんか?」
「そうじゃのぅ、ハバラウムという柔軟性のある魔導金属が必要じゃし、あれがあれば他にもいろいろできる。報酬分もふくめてそれをタル二つ分欲しいがどうだ?」
「聞いたことはないので、方々をあたってみます」
こうして、ガルストンはハバラウムという金属の確保という目的を持った。さっそくギグ爺さんに聞いてみたところ、彼も知らないそうで、彼が知らなければ一般的に、また普通の専門家も知らない可能性が高い。そのため、特殊な経路での情報が必要と判断し、メルナ婆さんに、霊獣達から情報を集めてもらえないかと伝えておく。
ガルストンはほんのすこし希望を持ったこともあり、最近やっていなかった、筋トレをまたやりはじめるようになった。
#
ウェーゼンは鍛冶の霊獣と共に、霊獣が作ったナックルとブーツの実験のため、魔導兵器の実験場に来ていた。ここなら、兵器の実験場なので爆発や破壊などがあっても、そうそう問題がない作りになっている。
まず、小手調べから。大きな岩をウェーゼンはナックルを装備して一撃を叩き入れると、その威力は岩全体に瞬時に届き、岩がサラサラの砂へと化した。
つづいて、ブーツの実験。魔力を込めることで俊足力と急カーブ、そして、透明なバリアのような足場を作ることができる。それらを一つ一つ試していく。速さの強化と急カーブは問題がなかったが、ゆっくりだったら作って動けるが、すぐには使いこなすのが難しそうであった。もともと、魔導具を使うこと自体が初めてで難しかったというのもあったのかもしれない。
「足場に関しては面白いんですけど、技に組み込むのはなかなか難しそうです。ナックルは強力でした」
「うむうむ、ではナックルは持っていくとよい。しかし、うーん、ブーツは誰か使いこなせそうなものはおらんかのぅ」
「ありがとうございます。私は、飛び蹴りが一番の武器ですので、そちらも似たようなのにしていただけたら使いたいです」
「ほう、飛び蹴りがとくいとな、一度見せてもらってもよいか?」
というわけで、また、岩を一つ用意して、飛び蹴りをするとナックルの時とは異なり、岩が周囲へと破片を飛ばして爆散する。
「おおお、これはまたすごい。しかし、足にあの付与か、うむ、できるのか、問題ないかのぅ?」
「どうかしたのですか?」
「普通に歩いたり走ったりするときも、衝撃が全体へ大きく広がるようになったときの問題点を考えておっての」
「魔力を通した時だけにするとかはできないんですか?」
「うむ、それじゃ!」
こうしてまた、鍛冶の霊獣は新しいおもちゃを手に入れたように頑張りはじめた。
#
ウェーゼンは、ブーツも誰か使えそうな人を探しておくれと頼まれて、結局それも受け取って探すこととなった。
いったんニクスに聞いてみようと思ったが、あいにく出かけていたため、修行中であるものの、マリーネを訪ねてみたところ、いったん修行後ということで、夕方まで待って彼女にブーツを使ってもらう。
「うーん、ちょっとサイズが合わないけどぅ、いったん仮なのでここに布を詰めてっと」
そうして、マリーネは、一つずつ試していく。俊足、急カーブ、そして、足場もトットッとまるで川辺の飛び石を渡るようにちょっと使えたとおもったら、そこから跳躍して、体を反転させて空中で地面に跳躍、して奇麗に着地して見せた。
「サイズは調整してほしいけど、かなりいいねー」
「お見事、調整は、本部にいる鍛冶の霊獣のところへ行くといいですよ」
「おぅ」
ここ最近、マリーネは召喚術の修業の一つとして、魔術の基礎も組み込んでいたことで魔力の流れなどを感じることにも慣れ始めていたのでちょうどよかったのかもしれない。そのうえで、忍者という側面で、三角跳びなどそういった軽業も心得ていたところが大きかった。
それを見ていたウェーゼンはまた一つ、違う側面で自分を高めたいと思うのであった。
#
青白く光る暗い研究所、そこは帝国魔導研究所の最奥、そこでは所長カルモンと部下たちが開発を進めていた。
まずは培養する細胞の選定と開発である。
霊獣の一部を取り込みつつ人間の細胞を母体にしたそれは様々な素養を持つことができる。
赤毛の小僧に対するには、熱への高い体制が欠かせない、それでいて斬撃に強い硬さも必要となる。二つの要素が必要という点が難しくさせていた。
彼らは、どんどんと細胞をいじり、霊獣の一部をいろいろためし、複数組み合わせての研究を進めていく。
それは聡明な頭脳をもつカルモンでも難行であった。
#
リアナとマリーネの修業は続いていた。
リアナは、マリーネとの絆から意志をそしてマリーネの力を受け止め、そして、マリーネのように宙返りなどの軽業をしてみせる。二つ目の秘伝である。
「だいぶできるようになったのぉ、今度は貸し与えてみよ」
すると、リアナは絆から意志を伝わせ、自身の力をマリーネへと送り、それを感じ取ったマリーネは風の斬撃を空中へと放つ。
「ふむ、形になってきおった」
まずはいったん集中すればできるようになった、という段階、実践で使えるまでに極めていく必要がある。
そしてマリーネのほうは霊獣コロと意志疎通がだいぶできるようになっており、こっちにきて、クルっと回って、の指示や、なにしてほしい?と聞いて答えてみる、ということができるようになってきていた。
そうしたマリーネの苦手だったことも少しずつでも克服していこうとするのをリアナは見て、健気さを感じた。それでいて、やっぱり憎らしいともまだ思ってしまうのだ。
一方でマリーネは、先ほどの魔術をかり受けてみた時の感触や、リアナの霊獣との意思疎通を見ていて、なかなかやるなぁと改めて実感していたのであった。マリーネは魔術も少しやりはじめたが、風の斬撃も木に浅く傷がつけられる程度である。あれほどの威力はまったくもってでないし、それを複数同時に扱いながら、霊獣の召喚も行えるのだ。恋敵だった相手だとしても認めざるおえなかった。
#
反帝国連盟の本部に大急ぎの伝令が駆けて来る。伝令の急ぎようは尋常ではなく、蒼白でかなりの無理をしての伝達ということが分かり、すぐさま盟主ゲルニックへと連絡がなされた。
その内容は確かに、緊急を要するものだった。そう、帝国は、四天王の一人邪竜人ファルミドにより反帝国側を完全に毒で焦土とする作戦に出たのである。これまでは版図を広げ、伝承の情報を得る必要もあったため、そうした作戦はとってこなかった。しかし、もうその必要は無くなったのである。帝国にとって、あとは霊獣から情報を抜き出し、伝承のヴィルズの肉体を封印する場所さえわかればよくなっていたのだ。
急ぎの対処が必要であったが、毒となると単純に兵力を集めてどうこうという話でもない。いったん、盟主ゲルニックは、ガルストン、メルナ、ギグ、シェストなど知恵の回るものを集め会議をはじめた。だが、会議は難航した。毒への抵抗手段がなければファルミドと対峙する前に力尽きてしまう。そう近づけないのだ。メルナはいつもの知恵ある霊獣を四体召喚し、そちらと合わせて検討するも、妙案は浮かばない。ファルミドの毒でわかっているのは、それは霧状に散布された毒は、生物を溶かしてしまうということである。通常の、体を内部からむしばむものと比べると酸に近いかもしれない。毒を体内に入れないという手法でも対処できないので、全身をまとってその霧を通さないようなものは、今の技術では存在しなかった。
こうして、反帝国連盟は未曽有の危機に直面したのである。




