白銀の魔剣
ウェーゼンは長旅の末、なんとか反帝国連盟の本部へと戻ってきたのである。盟主ゲルニックへの報告が終わると、ちょうどニクスが彼の地から帰ってきたところだった。ニクスは鞘に入った剣を腰に下げている。
「ウェーゼン!よかった、無事だったな」
「おぉ、顔は変わってしまったがニクスか。はは、本当にあれから大変だったのだぞ、作戦もなかなか無茶だったが、世界も変わってしまったしな」
「すまないな、結局、皇帝には負けちまって」
「それは仕方がないが、あの作戦を立てたガルストンには酒をおごってもらいたいと思っている」
「ははっ、近いうちに会えるさ、そうだ、せっかく会ったんだ、疲れてなければ手合わせしてくれないか」
「なんだ、なにやら自信たっぷりだな、その剣が秘策か?」
「いや、別だ」
こうして二人は訓練場へとおもむき、また、一対一の試合を始める。しかし、今度のニクスは武器は何ももたない徒手空拳である。その構えを見てウェーゼンは戦慄しつつも、二人は一直線に拳を激突させる。その衝撃は大きな音をなし、ざっと威力に負けたウェーゼンはそれでもその勢いを後方への跳躍で逃がし、相対する。
「その流派、会得したというのか!」
「託された力だ」
そう軽く言葉を交わした後は、格闘による激戦だった。周囲で訓練していた者たちははじめは呆然と見ていたが、次第に真剣になっていく。そう、どちらも一流の格闘術。武器も何もないのに、己の拳や腕、足、による体術だけで圧倒的な強さを互いに見せていたのである。しかし、ウェーゼンはじりじりと押されていく、そうした中、攻撃一つをフェイントに距離をとって、そこからの得意技の蹴りを繰り出す。
「どぉぉぉぉぉぉ!」
その一撃は、ニクスによって華麗に方向をかえられ、その威力でもってニクスの後方へとウェーゼンは投げ飛ばされた。
「すまねぇ、やりすぎた」
「ははははは、いや、大丈夫だ。それに、竜術の達人と手合わせできたのは何より嬉しい。師範には会えるのか?」
「いや、託してくれた奴はもういないよ」
「そうか、なら、またいつか、手合わせしてくれ」
「もちろん」
ウェーゼンは帰ってこれた喜びと、伝説の武術、竜術と相まみえることができたことで感動して宿に戻っていった。
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ニクスはウェーゼンとの試合の後、ギグ爺さんのところへ行った。
「なぁ、この剣なんだけど、鞘とか持ちてとか黒くて禍々しい部分はどうにかならねぇか」
「ほほう、なかなかの業物だな。打ち直しってわけじゃないんなら、ワシでもなんとかなるにはなるが、せっかくなら、霊獣にいい鍛冶をする奴がおったんじゃが、メルナに、鍛冶の霊獣って言って聞いてみい」
そうして、ニクスはメルナのところへ行った。リアナとマリーネが修行しているちょっと閉鎖させた特別な訓練場である。
「わりぃ、メルナ婆さん、ちょっと頼みたいんだ」
と、先のことを説明すると。
「よし、リアナの修行の成果のテストもかねてやってみるかの」
そうして、メルナ婆さんが思っている先の霊獣を中継してリアナがテレポートするという挑戦をしてみることとなった。三つ目の秘術である。マリーネも来たがったが修行を優先せよとメルナに言われて従う、彼女にしては珍しく難しい技で苦戦しているらしい。
リアナにとってはまだ難しい技である。慣れたテレポートと違い時間をかけて集中し、位置を確定、そして光と共に、三人は転移した。みごと、鍛冶の霊獣の元にたどり着いたのである。その霊獣は言葉が通じた。剣を見せるととても驚かれた。
「おぉ、これは伝説級だな、魔剣の域に達している。この剣自体の性能の向上はできんが、要望通りにもできるし、鞘は特注でいい能力を付与したものを用意してやってもいい」
「というと?」
「いいか、何事もタダで仕事をする、というのは良くない、良くないんだが、うーむ」
「どうしたいんだ?」
「ここ数十年、欲というものがなくなってしまってな、何を要求していいか分からん」
「あいかわらず、あんたは変わりもんだねぇ。武器を作ることが好物ならいっそ、ワシらのところにきて、皆のを作りつつ考えてみたらどうじゃ、隠れ里におらんといかん制約もなくなっとるんじゃし」
「なんだ、制約がなくなっておるのか?見たこともない魔獣がいると思ったらなんだ、霊界とまたくっつきよったんか」
「そうじゃよ」
「なら、人間が今作っておる武器や魔導具を見てみたいな、これを条件としよう」
いったん、盟主ゲルニックに確認をとり、工房も借りられることとなり、鍛冶の霊獣は本部へとやってきた、ニクスやその他、いろいろ見慣れてきたということもあり、本部の人たちは難なく受け入れることができ、武具工房の者達は、語り合って楽しそうにしていた。本部はさらににぎやかになっていった。
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マリーネは召喚術の基礎、意思の疎通に苦戦していた、霊獣コロは愛らしく揺らめいていて、あるていど身振り手振りでも意志は伝わって反応はしてくれる。だが、そうしたことをせず、意識を集中させて、どうするのか、そう、そこからが難しかった。
彼女にとって、それは初めての体験だった。里で習うたいていのことは苦労していない。苦労したことと言えば、算学や文字の読み書きだろうか。だが、そうした事とも違う難しさがあった。メルナ婆さん曰く、ある一つの事に長けていると余計にできにくいこともあるらしい。基礎の訓練をしばらくやり、またコロで挑戦してを繰り返していた。何日も習得に時間がかかりなかなかじれったくなっていた。とかく、忍者でありながらなるべく辛抱を避けてきた人生であった。もちろん任務でいろいろ大変なこともあったが、それとは別種である。そう、何が違うかというとまず、段階がまったくないため、どこまで上達しているのか、進んでいるのか不明なのが一番厄介なところなのであった。例えば、文字を書くことでも、以前書いた文字と見比べれば、比較して進展がわかる。
ということで、マリーネはメルナ婆さんに相談してみた。
「なるほどのぅ、熟達に対するものの見方は良いし、それは考えたこともなかった。これはついつい、何年もかけてただ闇雲にやればいいという教えにありがちな、見落としておったところじゃのぅ」
「どうにかなりそう?」
「しばし皆で考える、ひとまず修行を続けておくれ」
と、マリーネは修行に戻ると、メルナ婆さんは、四体の霊獣を召喚し、無言での相談をはじめた。ちょっと前まで三体だったが、彼女もまた、皆の修業のあいまにこうしたことをして訓練し、昔の技術を取り戻しつつあった。
メルナ婆さん達は長時間の話し合いが終わり、修行にいろいろとひと工夫を設けてみる挑戦を行うようになったのであった。
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帝国ロズの執務室では、皇帝サザーランド、四天王レイリア、四天王ファルミド、そして、魔導研究所所長カルモンと勢ぞろいしていた。
「皆、集まったな」
「ははぁ、遅くなり申し訳ございませぬ」
「いや、あれは我も予想外である、よくぞ戻ったカルモン」
「カルモン、生け捕った霊獣からの情報の引き出しと、戦力強化を頼みたい」
「わかりました。戦力と言いますと?」
「レイリアがかなわぬ存在がいたのが厄介だ、相性もあるだろう、赤髪のあやつに有効な存在が欲しい」
「いかなる炎も吸収し、強力な炎と風をあやつる鞭使いの小僧でしたな」
「そうだ、どうだ?」
「しばしお時間をください」
「お前でも難儀するか、ふむ、よかろう」
「ありがとうございます」
「私の毒は有効ではありませんか?」
「グレイを倒したのが奴だとすると、生命力に満ち溢れ、治癒にも長けている可能性が高い。だが、組織力をそぎ落としておくのも悪くはないか。ファルミドお前に作戦を言い渡す」
こうして、帝国側はさらに一段階動き始めるのだった。




