圧倒的な力の先に
反帝国連盟の最終決戦のメンバーは月へと向かった。ニクス、リアナ、ガルストン、シェスト、マルコー、マリーネ、ルゥ、忍者三名、反帝国連盟兵十名と規模はほどほどに大きい。今回のリーダーはガルストンである。
こうして、一行は、月の地上を数日歩くと、前から伝令がやってくる。そう、とうとう帝国兵達がぞろぞろいる場所が分かったのだという。こうして、目的地は明確となった。それは建築物で、その出入口周りに帝国兵が警戒しているとのこと。おそらくその建物内に、目的のものがあるのだろう。
ほどなくして目的の建物にたどり着く。そこは接合部のない不思議な建物だった。そう、まるでニバルの隠れ家でみた魔術で作った階段のように、接合部の見られない、複雑な形をした建物なのである。それは七階層ほどの塔にも見えた。外側からは階段のようなものはうかがえないがかなり高さがある。
「一気に行くぞ、ニクス、飛行できるな?」
「もちろん」
「なるべく最上階へ突入したら入口から炎を出してしらせてくれ。上から一気に攻める」
「わかった」
ニクスは飛翔し建物より高くとんだ、太陽を背に建物のてっぺんへと近づいて入り口を探す。見つけて侵入に成功すると、ちょうどあの男や兵士、魔導研究者達がいたがお構いなく入り口に炎を出して知らせる。敵は速攻で攻めてくるも、瞬時に現れた仲間達の中で、ガルストンが鈍器、ルゥが氷の壁で、前衛は得意な武器で防ぎ一斉に乱戦となる。
その中でも、皇帝サザーランドは悠々とこちらを眺めていた。
リアナは召喚術で、ゴーレムを召喚し防御を厚くしつつ、自身は風の斬撃で攻撃もおこなう。素早く接敵して倒していくのはマルコーとマリーネと忍者三人達だ、それに続くのがニクスで、前方への治癒や風の斬撃での援護など先頭一歩手前からの攻撃と支援を行い戦線を押し上げていく。ルゥは後方で敵が時折使ってくる魔導銃や魔術の反射に専念する。シェストと幾人かは後方を警戒。ガルストンは中央で指揮をとり、一つ一つ、敵の全体的なスキを見極めて、そこへ、ときにリアナに攻撃の指示を、ときにマルコー達に指示を飛ばしじりじりと戦況を有利に運んでいく。
「気に入らんな」
皇帝サザーランドが動き、剣を振るったかと思うと味方もろとも黒い一閃の斬撃が飛んで建物ごと真っ二つにした。危険を察知したマリーネがリアナとルゥを瞬時に伏せさせ、ニクスとマルコーは跳躍して回避、ガルストンは少し反応が送れ伏せきれず右腕が跳ね飛ばされる。シェストはたまたま伏せて下の階層と撃ち合っていたため難を逃れていたが、その他多くの者が一刀両断されていた。立ったひと振りで、戦況ががらりと変わったのだ。そう簡単に建物ごと切り裂くなんてできはしない、だが、それをやってのける、それが四天王の上に立つ存在、皇帝サザーランドなのだ。
そうした瞬間後も躊躇することなくニクスは決断し盛大な炎をサザーランドを狙うと、敵は剣で受け、そしてその炎は爆発した。それによって切断されていた建物の天井は吹き飛びつつ、マルコーは研究者を狩っていく。そう、何もさせなければいい、つまり、研究者をまずつぶせばよいのである。
だが、サザーランドはびくともしていなかった。
負傷したガルストンをリアナはサザーランドの二撃目を警戒しながら治療する。
ニクスはサザーランドめがけて鞭の殴打を風と炎をまとわせて神速で放っていくも剣で軽く受け流されていく。よくよく見ていれば、サザーランドはまだ片腕しか使っていなかった。そうもう一つの腕が振り上げられた瞬間、味方後方の建物が崩れ、シェストやルゥ、マリーネなど面々は地面に体が押しつぶされ、ズドドドドドンと何階層も下にへと階層ごと落ちていった。
残っているのはニクス、マルコーだけだ。
どちらも、ニクスはサザーランドへの攻防で、マルコーは一介の研究者と思えぬ存在の攻防で停滞している。
ふたたびサザーランドが左手を振るうとニクスの体に衝撃をうけ、後ろへと吹き飛ばされてしまう。残っていたマルコーも次の彼の動作で吹き飛ばされた。
「ホホホホホ、たわいもありませんでしたな」
「ふん、さっさと解析を終わらせろカルモン」
「はいはい、もうしばらく」
しばらくしてカルモンは口を開いた。
「扉を開きますぞ」
すると、ズズズズズズと扉が開く。
地上では大きな異変が起こっていた。地震と共に、地形が変貌しているのである。それは、霊界と人界が元に戻っていく衝撃と変化だった。
「良い景色だカルモン」
「ありがとうございます」
そして、この空間の歪みは月まで届きその衝撃を月の誰しもが受けた。
「これはどういうことだ!?」
ふと、その月の扉、その建物にいた人たちは誰もいなくなっていた。
#
リアナは目が覚めると、節々が痛く、体が重かった。どこかの簡易ベットで寝かされていたようだ。ふと、外へ出るとそこではベンケイが釣りをしていた。
「おぉ、やっと起きたか、一週間も眠っておったぞ」
「そうなのですか……ここは?」
「わからん、とりあえずお主を介抱するために簡単な家をこさえたんじゃ」
「他の人たちは?」
「わからん、月で衝撃があったかと思うと、ここに飛ばされとってな」
「私が……みんなを……集めないと……」
「まだ休んで万全の状態になってからのほうが良いだろうなぁ」
「でもベンケイ、きっと皆を集められるのは私だけよ」
「周囲の魔獣があの閉じ込められてた空間以上に厄介なものばかりでな、ふらふらして移動できるほど安全ではない。それに、誰かひとりを助けるというわけでもないのだろ。多くの仲間を助けたいのならまずはしっかり休んで余裕を作ったうえで、その余力でもって他者を助けんとな。でなくば、助けたことで自分が死んでしまってはもう誰も助けられん」
「そうかもね」
「リアナ、お主は運がよかった。たまたま拙者と一緒の場所に飛ばされたんじゃ。仲間たちもきっと運よく生きとるよ」
「そう祈るわ」
「お主は体力はそんなにない方じゃろうに、過酷で急な修行から戦いの連続じゃったのだ、少し休まんといかんのかもしれんな」
「何でそこまでわかるの?」
「なんかいろいろ伝わってきおったわい」
「修行不足ね」
「修行ばかりしとると、記憶を失ってしまうぞ」
「はは、それは嫌ね」
こうして、リアナはベンケイに守られ一週間は完全にゆっくりし、さらに一週間は簡単な召喚術の修行をしつつやすみ、次の二週間はベンケイに体を動かすことを教わりながらの修業も加えて行った。
「もういいでしょう?」
「拙者としてはちと不満もあるが、それだけ動ければか弱い者としてはしかたないじゃろう」
「ひとまず、ニクスのところに行くわ」
「うむ」
そうして、リアナとベンケイはニクスのもとへとテレポートした。
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リアナがニクスのもとへたどり着くと、彼はすぐに顔をそむけた。
「見ないでくれ」
「ニクスどうしたの?」
「見ないでくれ!たのむ……俺を見ないでくれ」
顔を背けているが、それでも隠しきれておらず彼の頭部は、完全に人間のそれとは違う、鳥と人間とが合わさったような何かへと変わっていた。
「何があったの?」
顔をそむけたまま彼は言う。
「負けたんだ、俺たちは、そして世界はおかしくなった。たぶん、霊界と人界が昔のようにくっついたんだろう、周囲の魔獣はこれまでより強く凶暴で、霊獣もたくさん見かけた。襲われている村があってさ、助けたんだよ。そう、最初は怖い体験をしたから逃げていったのかなって思ってたんだ。でも、たまたま、ガラスに映った俺の姿が見えてさ。わかったんだ。皆、俺を怖がってたんだって」
「そんな……」
「しばらくニクスはそっとしておこう」
「でも!」
「時に大きな変化は受け入れるのに時間がかかるものだ」
そうして、リアナとベンケイは次の場所、アミダ様の場所へと去っていった。
ニクスは、もともと自分のルーツが知りたかった。そう、特別でありたい、特別な何かを持っていたい、リアナを見ていてそう思っていたはずだった。そして、特別なものを見せつけられた。確かに、特別なものだった。そう、人間ではない、というあまりにも思ってもいなかった『特別なもの』だった。
そして、彼には予感があった。この変化はとどまらず、どんどんと人の姿から離れていってしまうのだろうと。




