月へ向けて
反帝国連盟ニズダム本部へ戻った。リアナはひとまず、月での調査隊の入れ替えや情報共有のためテレポートでいったん往復した。よくよく考えると、リアナがいなければ、この月での調査はかなり危うい、かなり危険な任務なのである。
調査結果、足跡などから方角が特定できていることがわかったものの、月への道を通って帝国兵がやってくるため、迎撃できる人員が欲しいとのことだった。それに、そっせんして名乗りを上げたのは、ベンケイだった。今度は味方として、足止めをやってくれるらしい。彼は本当に人を超越しており、先の巨大魔導兵器からの落下もクルクルと回転して浮力をえてゆらりと降り立つという離れ業をやったのである。
シェストは帰ってきたサラマンダー号を泣きながら猛烈に整備していた。帰ってきてくれたことへの感謝の涙と、ボロボロになってしまったことへの悲しみの涙が混じっている。本当に魔導兵器が好きなのである。こういう、たまに変なところで熱血になるのは祖父からの遺伝なのかもしれない。
ニクスは背中の炎の翼はずっとそのままということはなく、着地すると消えた。しかし、彼の腕には変化があった。これまで肘から先が鱗で覆われていたのに、肩から先と鱗の部分が増えていたのだ。それを見たマリーネはたいそう心配したし、そしてまた、空中をリアナお姫様抱っこで飛んでいたところも見ていたので、彼女は私もして―とせがんだ。
「いいじゃない、私も、空、あなたの腕の中で飛んでみたいなって」
「ダメよ、そう軽々しく使うものでもないでしょ、魔術とかだってそうじゃない」
と反対するのはリアナだ。自分だけの思い出にしたいのである。独占欲だ。
「いや、練習はした方がいいかもしれないから、別に構わないと思うけどな。それに、意識して安定してやるにはちょっと時間がかかりそうだから、人を抱えるのはその後だな」
「えーーーー」
マリーネは残念そうである。
一方、ガルストンは、一人久しぶりに酒におぼれていた。そう、飲みたい気分だった。というのも、どうも周囲の成長が目覚ましい。自分だけ取り残されているような気分だった。なんだかんだ、自分は凡人なんだなと思う。ニクスは炎を平然と受け止めたかと思うと空を飛んでしまった。リアナは召喚師として召喚術にテレポートと成長し、役立つ幅も増えている。シェストも彼の地道な努力の結果のサラマンダー号の運用や先のコアの位置や、月への道についての情報など、役に立っていた。なんだかんだ、新しく共にしているルゥもまだ年下だというのに卓越した魔法の才能を見せつけられていた。そう思うと、なんだか、自分は凡人だなぁと思うのである。このままでは、戦いについていけなくなる、そんな気がしてやるせないのだった。
マルコーや忍者三人はいったん残ることとなった、一人はその報告のために里に戻った。というのも、決戦が近そうだからだ。月での敵地に行くとき、戦力はなるべく多い方がいい。そのため、マルコーは残ったのだ。残った彼は相変わらず修行をしている。いつでもどこでも、任務もふくめて彼にとっては修行だった。今回少し異なるのは、仲間の忍者もいるため、彼らも交えている点だろうか。
ルゥは里を恋しく思いながら、ふらっと街を散歩していた。よくわかってはいないが、きっと隠れ家からとても遠い場所に来てしまっている気がするのだ。だからこそ寂しい。もちろん、隠れ家に帰ったところで、もとの国に帰れるわけでもない。それでも一人、故郷の仲間と離れた場所にいることでホームシックになっていた。そんなとき、小道で捨てられている猫を見つけた。箱に『拾ってあげてください』と張り紙がしてある。可愛い子猫だった。ちょんと手を出すと、ちょんちょんちょんと手を当てて来る。実にかわいらしい。連れて帰りたいな、とも思った。だが、自分はこれから危険な場所に行くことも多い、ペットとして飼ってやることはできそうになかった。どうにかならないかなと思いながらその子猫と少しじゃれあって、立ち上がってそのばをはなれた。みんな、それぞれ強く生きるしかないのかもしれない。
ニクスは建物の屋根の上から夜空を見上げていた。自分たちが月に行っていた、というのも奇妙だが、もっと不可思議なのは自分自身だ。そう、肩まで広がった鱗の腕、そして空が飛べたこと。一体、自分は何者なのだろうかと。空が飛べたことは純粋にうれしかったが、もう一つ、自分にとっての行動理由は自身のルーツを探すことだ。自分はいったいどこで生まれてどんな人が母親で、父親で、どんな家系で、どんな村が里なのか、そういうことを知りたいとずっと思っていた。ふと嫌な考えがよぎる。本当に、親というそんな存在はいるのだろうかと。本当に、自分は人間なのだろうかと。もし人間でないとしたら、魔獣なのだろうか、それとも霊獣なのだろうか。そして、もし、そうだとしたら、皆は自分を受け入れてくれるのだろうかと、心細くなる。ずっと、彼らとは友人でいたかった。しかし、それがかなわないのかもしれないと思うと怖くなった。
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主だったメンバーが本部の会議室に集められた。
「あらためて言おう、先の巨大魔導兵器爆破作戦は見事成就した、盟主として君たちの活躍に感謝する。そしてこれから向かう先が決戦の場になる可能性が高い。いや、そうしなければかなりまずい。人相から、月へ向かった男というのは帝国の皇帝サザーランドと考えられる。彼の底知れぬ力は確認されていないが、四天王を超えているとも考えられている。また、四天王の誕生と関わる魔導研究所所長カルモンも同行していると考えていいだろう、彼も、底知れぬ力を隠しているかもしれない」
厳しい顔で反帝国連盟ニズタム盟主ゲルニックは言う。
「アミダ様の情報や調査によって、月にある扉はそれ自体が、霊界と人界をわかつ何かしらの役割になっている可能性が高いことが分かった。そのため、今回は門の時と異なり、破壊すればよい、という解決策が打てない。敵を倒すしかない。もう我々には後は残されていない。もし、この戦いに敗れれば、世界は凶悪な魔獣がばっこする混沌とした古の時代に逆戻りすることとなる。何としても、この戦いに勝利をもたらしてほしい」
つづいてガルストンが報告する。
「月での調査によれば、月にも古き時代の建築物らしきものが多数みられるそうだが、人間、魔獣、霊獣は確認されていない。また、いまのところ、先に向かった帝国兵とも接触していないとのことであるが、帝国兵の輸送状態から考えても一週間もかからない場所に目的地はあると推定されている。月は大きな凹凸があり、迂回が必要なため、真っすぐ目的地に向かっていないため、断定はしきれないが追いつくのは時間の問題、我々が向かって数日進むころには目的地も判明している可能性もある。今回も、相手に時間をあまり与えないほうが良いと考えられる。というのも、先の巨大魔導兵器は、陽動、時間稼ぎだった可能性が高い。まだ場所は未確定であるが決戦部隊を月へ投入する方針となった」
ここでマルコーが珍しく質問する。
「この一大事だ、他国からの応援は望めそうにないのか?」
これにゲルニックが応える。
「残念ながら巨大魔導兵器への抵抗で力を使い果たしてしまっている。残っていて、迅速に対応できる戦力はここにいる者たち、ということになる」
さらにマルコーが質問する。
「もう一つ確認したい。帝国は四天王が二人残っている。レイリアは地下世界にいたことが確認されているが、ファルミドは所在不明だ、本部の守りは捨てると考えていいのか?」
これにはガルストンが答える。
「諜報員の調査により、ファルミドは帝国首都防衛にあたっていると観測されている。また、本決戦が失敗すれば、どちらにしても本部がどうこうという状況ではなくなるため、全戦力をもって対応する。そのため、シェストや、戦闘経験の高い者は全員投入する」
「覚悟のほども、戦力が出せる限りなのもわかった、こちらも全力で任にあたらせてもらう」
こうして、月の扉への決戦の会議は終了した。




