分岐点
唐突に表れたリアナの一声と共に、彼女が伝えたかった危険とその他もろもろを皆に召喚術の伝達の力でもって過剰に伝えてしまった。
これによって、地上では、町ほどの大きさ高さは雲に届くほどの大きさの巨大な帝国の魔道巨人兵器が、近隣諸国を次々に襲っているのだということを知る。予見のシンバの目によって各地の情報が分かったのだ。反帝国連盟は急遽兵団を集めているが、その巨大な兵器と追従する魔導兵器に圧倒されなすすべがない。
と、ここまではいいが、彼女はニクスと再び会えたことで、彼への思いが追加で乗っかって皆に伝わってしまった。それは、昔一緒に過ごしていた時、何か特別な才を感じて憎々しく思っていたこと。旅に出てからは、一行に帰ってこないことに腹が立っていたこと。死にかけた時に助けてくれた時の感謝、そして、好きだという気持ちだ。
それに「あっ」と気づいたリアナは顔を真っ赤にして、縮こまってしまった。
そして、それに対してマリーネは猛抗議する。
「ちょっと、そんな告白ってずるくない!ねぇ、言葉じゃなくて感情直接ってなによ、卑怯よ!ズルよ!」
と、彼女はぷんすかしている。
「なんだ、お主モテモテだなぁ」
と、ニクスを小突くのはベンケイ。
「うーーうーーーー、強引な修行で伝達力を引き出しちゃって抑えが利かないのよーーーー」
彼女がどうやってここにやってきたのかも皆に伝わっていた。テレポートである。召喚術とは、いわば絆の力である。そして深い絆のある、場所や人に対して、その場に瞬時に転移することもまたできるのが召喚術の応用なのだ。
「にしても、帝国、こっちはあの男、たぶん皇帝かその近くにいるやつだろう、放置するのも危険だし、といって地上も放置はできないのか」
「アミダ様は、あとは自分たちで決めろだって……」
そばでは、愛の告白を痛烈に見せつけられてしまったマリーネは、熱烈にアタックしてたのにと魂が抜けて崩れ落ちている。そんなマリーネをルゥはなぜかよしよしと頭をなでていた。
「アミダ様は、こっちでの敵の行き先は何か言ってなかったのか?」
と、質問したのはニクスだ。
「なにも、さすがにここまではシンバの力も届かないみたい。一応、ここに戻ってこようと思えば、私が何とかここを覚えておけば、テレポートでもどって来れるかもしれないけど」
「ここでさ迷って時間を浪費するより、まずは確実に助けられるほうから何とかしよう。地上にいったん戻ろう……というか、ここはどこなんだ?」
「伝承が本当なら、月だと思う」
「ってことは、あの見えてる青いのって、俺たちのいる地上なのか」
「話を進めるぞ、リアナ、親しい人間のもとにならテレポートできるんだったな、なら、シェストのところには行けるか?」
「うん、たぶんできると思う」
「よし、そこから盟主ゲルニック様と相談して、作戦を立てて対応するのがいいだろう」
「それじゃ、私の近くに集まって」
と、リアナを囲むように各自は円のようにかたまる。彼女は祈るようにシェスト思い、その絆をつなぎ力を解き放つと、彼らはまばゆい光に包まれ、その場所から消え去った。
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一方そのころ少し前、陽動をかって出ていたウェーゼンは、大規模な青い炎の乱舞を見るや否や、逃走をはかった。その逃走はさらに強引なものだった、というのも、跳躍の飛び蹴りでズゴゴゴゴゴっと門や壁を一気に破壊していき、豪快に脱出したのだ。
その後は、あらかじめ持たされた地図を頼りに、なんとか地上に戻る手はずであるが、なかなかの疲労困憊であったため、いったんニバルの隠れ家へ逃げることとし、魔獣を撃退しながら向かう。それはかなり過酷な道のりであった。地下の魔獣は、群れで飛んでくる魔獣もおり、一人で対処するのには難儀したのだ。回り道をして、魔獣を避けながら、ゆっくりと、隠れ家を目指すこととなった。
ほどなくして、彼はほうほうのていで何とか隠れ家へとたどり着くのだった。
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ニクス達は無事、シェストの作業場へテレポートでき、そこから反帝国連盟盟主ゲルニックのもとへと向かった。
ゲルニックも、状況は察知しており、強行部隊としてサラマンダー号で乗り込み相手の、巨大魔導兵器の心臓部に爆弾を設置して壊すしかないだろうと計画していた。そのため、忍者カゲロウ団よりマルコーが応援に駆けつけてくれる手はずになっていた。彼によって、敵施設での破壊工作を行ってもらう予定だったのだ。
だが、問題があった。そもそも心臓部の位置が分からなかったのだ。巨大魔導兵器の試作段階の設計図はあったので、そのコアの位置の読みときにシェスト達がかかりっきりになっていた。もちろん、試作段階の設計図、実際配置が変わっている可能性もある。
さらに厄介なのは、サラマンダー号で乗り込むにしても、乗り込める人数は限りがあった、複座になっており、つめてのっても三人が限界であったのだ。その程度の戦力では、心もとない状況であった。
そんななか、ニクス達の登場で状況は変わった。リアナのテレポートによって、ニクスやガルストンが乗り込めさえすれば、増援を送れるのだ。リアナには次々にテレポートで往復してもらう必要があるため、魔力がどこまで持つかわからないが、これで、小数での戦いから、大人数での破壊工作が可能となったことで成功率が上がりそうだった。
「サラマンダー号の準備と、マルコーの到着、それに他の兵隊も集めるので二日まってくれ。君たちにも休息は必要だろう。門をくぐらせてしまったのはかなりの痛手だが、向こうも扉の解析などで時間はかかると思いたい、ひとまず、巨大魔導兵器への対処に専念しよう。リアナ殿、もし月へ往復できるならいったん調査団を派遣しておきたい、そちらをすぐ取り掛かって欲しい」
こうして、作戦が決まり、リアナが調査団を十五人を月に送った後、ニクス達は宿で休みを取った。これまで、魔術王国ニバルの残党の隠れ家まで強行軍で、そこからも早いペースでさらに苛烈な戦いをした後だった。一行は少しの時間休息をえる。
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ベンケイは一人夜の景色を眺めていた。もう覚えていないが、昔とは全く違う街並みなのだろう。そう、彼はあまりにも長い年月のせいでほとんどの記憶をなくしているのである。それを寂しいとは思わない。ただ、今、地上に戻ってこれた、それが嬉しかった。そういう点では、ニクス達に協力することにしてよかったのかもしれない。確かに、彼にやってくる赤髪の男達をしばらく足止めして欲しいといったあの暗い混沌とした禍々しさを感じさせた男と、ニクス達とを比べれば、気のいい人間はどちらか、というのは比べるまでもなかった。ただ、恩には恩を、というのを忘れたくないとも思っていた。なぜそう思っているのかも、もう忘れている。
ベンケイは一人、酒を飲み物思いにふけっていたとき、たまたま夜中に起きたリアナが声をかけた。
「ねぇ、結局あなたは何者なの?」
「拙者か、何者なのだろうな……あの月への道のはざまで閉じ込められてずっと戦いに明け暮れていた戦士、とくらいしか、もうわからんな、ガハハハハ」
「なんか不思議な感じがするけどね。あなたからはなんかアミダ様とか、霊獣さんたちとかと同じ雰囲気がする」
「霊獣ではなかった、人間、だったはずだと思うが、確かに人間が何百年とさ迷っていたというのもよく分からんな」
「死霊でもないみたいだし」
「血は通っておるし心臓も動いておるぞ」
「そうよねぇ、霊獣だとしたら、隠れ里の外に出られるのもヘンだし」
「なんだ、そういう縛りがあるのか?」
「うん、霊界と人界をわけたとき、人界に残った霊獣にかかった制約というか呪いみたいなものがあるんだって」
「拙者はここにおるぞ。では、霊獣でもないのかもしれんな」
「うん、でもきっとなんだかあなたはいい人なんだと思う」
「そういう事はな、好きな男にだけ言っていればいいのだ」
「あーー、それは忘れて」
「ガハハハ、そうはいかん、これからの記憶は大切にするつもりだからな。しっかり覚えておく」
「いじわるね」
夜空に月が昇っていた、リアナは思う、本当にあそこに自分たちはいたのだろうかと。




