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霊獣の隠れ里へ

帝国ロズの執務室では、皇帝サザーランドは忌々し気に報告を聞いた。黒騎士グレイが敗れ死に、そして本命の反帝国連盟の盟主の討ち取りに失敗したのである。


「奴らを侮っていたようだ、レイリア、ファルミドには警戒と、単独で相対することを禁ずると伝えよ」


「はっ」


伝令は去っていく。


「不死鳥フェニックスと思しきものを確認したか……厄介だな、あれがこちら側にいたとは」


それに応じたのは魔導研究所所長カルモンだ。


「もしいるのなら、とらえて実験したいところでございますなぁ」


「侮るなカルモン、あれは伝説の中でも特筆すべき霊獣、死んでも転生しまた現れる厄介な奴だ」


魔術王国ニバル、商業国家グラナディアは陥落させることに成功している。しかし、本命が落とせなかったこと、そしてあの四天王最強のグレイが倒されたことは、サザーランドを不快にさせる。


「ならば、奴らが組織的に攻勢にでてくる前に、月への道を開かんとな」


「仰せのままに、門のある魔術王国ニバルが手中に入ったのは行幸でした。解析も各地の伝承とあわせ解析が進んでおりますので、しばらくすれば開くかと」


「うむ、早く、この偽りの世界を正さんとな。そして、私が、世界を統べる神となるのだ」


#


ニクスは、目が覚めるとベットの上だった。介抱されたのだろう。ふと、腕の違和感に気が付いた。そうして自身の右腕を見てみると、それは人の手をしていなかった。肘から先が赤い鱗で覆われ、魔獣かなにかの一部のようだが、いつもの手のように動かせる。嫌な感じはしないものの、その変化の理由や、そもそもどう戦いが終わったのか、記憶が混濁していて覚えていなかった。そうだ、リアナが、と思ったら、気が付いたリアナが、やってきた。


「やっと起きた、四日も寝っぱなしだったのよ」


と、かなり心配していたようで、彼女は疲労困憊のようだ。ずっと見ていてくれたのだろうか。


「よかった、リアナが生きていて」


その後、リアナがガルストン達から聴いた戦いの顛末をニクスに伝える。


「あの氷、そこまでの規模だったのか……それに、無我夢中で何をしたのか、どうやってあれができたのかわからないや」


「あれって召喚術なのかな、憑依魔術?」


「わからない、でもときおり聞こえる、風の声に導かれるようにしたら、そうなった」


「それもあるけど、その右腕、どうなってるの?」


「俺も分からないな、霊獣関連の事なら、一度アミダ様に聞いてみるのもいいかもしれないな」


「そうね、私達はもともとそこに向かう予定だったしね。その予定はニクスの状態しだいってことになってるけど、体はどう?」


「問題ないよ、案内する」


こうして、起きたニクスをつれてリアナはゲルニックのもとへ訪れ、出立できることをつげる。


「おそらく君のおかげだ、この地、王国ゾーグ以外の二国は帝国に敗れたようだ。我々は一度地上に出て体勢を立て直す、連絡などはガルストンがよく知っているだろう、帝国は本当に恐ろしいな」


「そうですね、たった一人で、国を落とせるくらいに戦況を変えてしまう存在だったなんて」


「あぁ、とりあえず、ガルストンとともに霊獣の隠れ里へ、よろしく頼む」


こうして、ニクス、ガルストン、リアナ、デルルズは、霊獣の隠れ里へと出立した。


#


ニクスの案内で、また違う彼の知るルートで地上を目指した。霊獣の隠れ里はどうやら地上の人里離れた場所にあるらしい。


しばらく、地下世界での旅となるが、前回と違い太陽が差し込んでいるため、ガルストンなどの地上組も体調がよく、時間の感覚がつかみやすくなっていた。いったいどれほどの威力のある兵器を使ったのか、とも思うが、黒騎士のように一個人であれほどの戦力になる存在もいることを考えれば、帝国にはそういうものがあるのかもしれない。


地下世界での旅は快調だった、ニクスは前衛での攻撃と遊撃に長けていて、鞭の攻撃、格闘、火の魔術、風の魔術、治癒などと多岐にわたる万能さでもって戦えるうえに、これまでの死地をのりこえたことでガルストン、リアナ、デルルズも連携や判断が早く的確になっていた。リアナは、召喚術の訓練の成果なのか、わずかばかりだが精霊に支援してもらえることで魔術がさらに冴えわたるようになった。デルルズの敵の察知も大いに役立ったが、ニクスもかなりそっち方面に敏感であった。さすが、一人旅をしてきただけのことはあるのである。


数週間の後、炭鉱レンズヘイヤとは別の場所から、地上に出て、ひとまず、地上の近くの村で一休みすることとした。


「やっぱり地上はいいよなぁ、日の光が全身に浴びられるってのは気持ちがいい」


そういうガルストンに対してニクスが応える。


「そんなに、地下ってしんどかったか?たしかに、日の光は心地いいけど」


「ニクス、地下でこう太陽がないことで不調になったりとかしなかったの?」


「うん、全然ない」


「そういえば結局、あのときのは再現できないんですよね」


質問したのはデルルズだ。


「あぁ、今でも何でできたのかよくわからないんだ」


「そういうことってありますよ。魔術も、最初はできたりできなかったりしますし」


「え?そうだっけ?」


「あんたは特殊なのよ」


「まぁ、徐々にできるようになっていくっていうのは、分かるかもな。子供のころの崖飛び降りとか、少しずつ高くしていった創意工夫みたいなやつ」


「なんですそれ?」


「ニクスって変なんだよ、デルルズみたいに鳥との憑依魔術が使えるわけでもないのに高い崖から飛び降りて着地しちゃうんだから」


「へー、すごいですね」


「そうかな、誰に言っても分かってもらえないんだけど、風が来そうだなーとかそういうのわからない?」


「憑依魔術を使っているときには感じたことはありますけど、普通の人間の感覚ではないきがしますよ」


「そうなのか」


「やっぱりニクスが変なんだよ」


「にしても、なんかすまないな……皆を巻き込む気はなかったんだ」


唐突にそう切り込んだのはガルストンだ。


「いきなりどうしたんだ?」


「コンシオ村が危ういって思ってまぁ、いろいろ俺はやったわけだが、どっちかというと、リアナやシェストにも本当は俺は、新規開拓の場所で安全に暮らしてほしかったなとも思ってるんだよ。だから、今からリアナをそっちに送り届けてから向かってもいいんじゃないかって思ってる」


「なによそれ。私はついていくわよ。これは私自身の問題も関わっているしね」


「それに、アミダ様でしたっけ、世界を巻き込む流れなんでしょ、安全地帯ってそうそうないんじゃないですか?」


「なるほど、そうかもな、俺はあの時、何もできなかったからな」


「まぁまぁ生きてるんだからいいじゃないですかー。それに、ニクスだって、結局、たまたま力が引き出せて運がよかったみたいですし」


「そうなんだよなぁー」


こうして、村で少しのんびりとしていた。


#


地上は街道を使ったことで旅はさらに楽になった。ただ、それも途中まで、人里離れた場所を目指すのだ、街道はもちろんなければ、人が通れるように、小道があるわけでもない場所を進む。それには少し難儀しながら一行は進んでいく。


ニクスはそうした移動は手慣れていた。リアナも小さい頃は森の中を散策したりもしていたが、そうした感覚はとうに忘れていて、四苦八苦している。ガルストンは訓練で登山などいろいろさせられて慣れているらしい。デルルズは、逃げ回っていたときに、珍妙な道を移動してはいたのだが、それでも体力がある方でもない。そうしたわけで、リアナやデルルズの速度にあわせて、ゆっくりと、隠れ里を目指すこととなった。


魔獣との争いも、苦戦こそしないものの、足場が悪く厄介であった。


数日、旅をしていると、ニクスがふと、立ち止まった。


「ここなんだがちょっと待ってくれ」


そう言うと、彼は呪文を唱えはじめる。それが終わると、前方の景色ががらりと変わった。そう、崖だと思っていた場所に進める道が出現したのである。


「こんな感じで、結界で、各地で隠れ潜んでいるらしい」


進んでいくと、ガルストン達にとっては見たこともない存在がふよふよ浮いていたりする。


「あれは霊獣の幼体だってさ」


「へぇー」


奥へ進んでいくと、一体の馬に一本の角をはやした霊獣がこちらに話しかけてきた。


「ニクスか、他の者はどういったもので、どういった要件だ?」


「アミダ様が言っていたとおり、彼、ガルストンが反帝国連盟の使者。旅は危険なので、他は付き添いだ」


「そうか、まぁ入るといい」


こうして、一行は霊獣の隠れ里へとたどり着いた。

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