反帝国連盟の拠点
「そろそろ、出発するぞ。サラマンダー号のパーツは少し先の場所まで輸送させている」
「そんなことしてたのか」
「あぁ、とりあえず着いてこい」
こうして、旧炭鉱レンズヘイヤの閉ざされた、炭鉱へと各自入っていく。
「この奥に何かあるの?」
「いろいろ言えないから、ここはとりあえず付いてくる付いてくるー」
マリーネは軽快に答える。入り組んだ炭鉱を下へ下へと進んでいくと鍵のかかった大きな扉があった。それを、マルコーは特殊なカギで開けようとカギを回すと、魔導の力が働いているのか、扉に魔力が赤く、ときに青く、ときに緑に発行し、やがて何らかの形を成して、扉はズズズズズと開いた。
その先には、大きな部屋とまた、同じ大きさの扉があった。
「うん?この扉の雰囲気見たことがあるな?」
ガルストンはつぶやく。
「エレベータか?」
「そうだ」
「え、なんです?」
シェストやデルルズはよくわからないすごい施設に興味を覚えつつ、そのエレベータなるものも気になった。
「帝国でも一部の施設で使われてるんだ、人や物を上下の階に運搬する箱、といったらいいかな。箱が上下に動いて、人や物を、一階から三階へとボタンなどで指定して運べるやつで、動いてるときに外に出ると危ないから、扉がこういう感じであるんだよ」
「なるほど、機材の運搬などで便利そうですね」
と、シェストはこういった細工や機械、さっきの扉も含めて面白く感じてあたりを見回している。
「先に進むぞ」
と、マルコーは言って、エレベーターの扉を開くボタンを押し、中へと入っていく。それに、慣れたようにマリーネもガルストンも続く。
シェストは興味津々に、リアナとデルルズは半分恐る恐る、半分不思議な感じで、先に進んだ人達にならってその四角い部屋に入る。全員が入ると、マルコーは「少し揺れるぞ」とだけ言い、降りるボタンを押した。
ガクン、っと上下に最初は衝撃があったが次はスーッとふしぎな浮遊感を感じる、そうして浮遊感が無くなった時間がしばらく続く。そうして今度は、体が重くなる感じがズーンとしたかと思ったらガクンと部屋は止まったのか、着いたのか、扉が開いた、その先はさっきとは全く別の場所だった。
マルコーは当然のように、外に出て、つづいて慣れたようにマリーネやガルストンも、それに遅れて、三人が追従する。
「これって、上に上がったの?下がったの?」
「下がったのよ、いろいろ他言無用だから、あんまり詳しく言えないけど、外に出たらわかるわ」
リアナの問いに、マリーネが答える。そして、マルコーを先頭に、また炭鉱のような場所を進んで外に出ると、小さな町に出た。不思議なことに天井は岩で覆われている。地下の町ともいえるだろうか、周囲を見渡せば、その地下はかなりの広さだということが分かった。
「本で読んだことがあります、地下に小さな世界があるって」
シェストは言う。
「そんなところだ、俺達はここ出身なんだよ。忍者カゲロウ団の里もこちら側にある」
「特別、こっちの世界の言い方とかないけど、とりあえず地上世界、地下世界なんてざっくり表現してるよ」
「ここなら帝国は攻めてこないんですか?」
それを問うたのはデルルズだ。
「さぁな、知られにくい、そう考えて、反帝国連盟も地下世界に本部を置いたんだろうが、帝国ロズの情報網はそう甘くなかろう」
「一介の兵士には知らされてなかったが、お偉いさんはいろいろ隠しているみたいだからな」
「ここには霊獣はいたりするの?」
「いないよー。それは本当に伝説の存在なのはどっちの世界でも一緒ね」
そうして、先に搬送していたサラマンダー号の運搬舞台と合流し、マルコーが一行を率いて街を出て、地下世界を進んでいく。
「こっちでも、魔獣は出るからな、デルルズ、期待している」
「はい」
こうして地下世界での旅が始まった。
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地下世界の旅は一部苦戦を強いられた。魔獣も少し厄介にはなっているが、リアナやシェストが戦に慣れてきたことや、デルルズも状況に応じて憑依魔術で飛び蹴りや、緑の小鳥チークちゃんからの情報共有の結果も教えてくれるようになり、この辺は問題がない。問題なのは太陽がないことだ。時間の経過が分かりにくく、朝や夜の区別もつかず、地上組の面々はなかなか朝起きるということが難しかった。
「私はこっち出身だからその辺気にしたことなかったけどなー」
「時間ってどうはかってるんですか?」
「感覚でわからない?」
「マリーネにそういう問いをしても無駄だぞ、何でも感覚でやってしまうからな。普通は体で覚えるんだ」
襲ってくる魔獣は、飛翔する丸目玉一つの化け物の群れや、四つ足の俊敏な大型犬のような存在が主であった。そうした化け物も、難なく倒していく。リアナが風の斬撃をよく使うのは理由がある、これはマルコーからの指示であった。火は周囲を燃やして、大事になる可能性があるし、氷や水はその水滴で前衛が足を滑らせる可能性がある。土は威力が高くなりやすい反面、魔獣の解体で土がまぎれると面倒なため、一番重宝されるのが風の斬撃なのだという。
シェストもそれにならって、魔導銃のデフォルトモードは風の斬撃となっている。問答無用で打撃力が必要な場合はガルストンの鈍器が力を振るった。
地上組は、朝日を浴びれないことでやや体調を崩しつつ、旅を進め、村や町でいったん休んだりしながら進んでいく。地上組は、もはや今自分たちがどこにいるのかさえ分からなかった。
ある、大きめの町で、シェストが本や地図を購入し、休憩するときは熟読するようになった。なんでも、この地下世界のことや、魔術について、魔獣についてなど、各地の特産品などが記されているのだという。
そんなシェストにマリーネは言う。
「なんだかんだ、体のほうは鍛錬しないけどさ、シェストって頭使ったりとか細工関連はずっとやってるよね」
「こういうことしかできませんからね」
「それも一つの戦い方だよ、戦いってその場の兵の力だけで決まらないし、状況の把握とか、なんだっけ、ほら?」
「戦略とか補給とかでしょうか?」
「そう、それ、武器や防具だって重要だし、それにあんたの場合、そういうのを自然にやってしまうのは才能でしょうね」
「才能でしょうかね、昔から、お爺ちゃんとこういう工作や魔導の知識を調べるのは好きでしたし」
連携も取れてきたことや、長旅ということもあり、また、地上組が地下世界に不慣れとうこともあって、マリーネは珍しく、人を気づかっていた。
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しばらくして一行は、反帝国連盟ニズダムの本部のある都市、地下国家ゾーグの都市の一つザルーグへとたどり着いた。
「報告は俺がしてくる、いったん、ガルストンやほかのみんなは休んでいてくれ」
そういって、マルコーは、この街のどこかにあるニズダムの本部へと出かけて行った。
そこは、これまでの地下の町とは比べようもないほど発展していた。魔導や蒸気機関などの技術を使い、工業化も盛んである。帝国の中心地ほどではないにしろ、なかなかの発展具合だった。
シェストは近くの店で魔導細工や何らかの機械をかさばらない程度にいくつか買う。これを分解したりして解析して、いろいろ研究のネタにするのである。もちろん本も欠かせない。といって、本などは買ってばかりではかさばってしまうので、読み終えたものは買い取ってもらう。
リアナとマリーネは二人そろって商店街をうろつき、服などの試着をして楽しんでいた。
サラマンダー号もどうやらマルコーが手続きを済ませたらしく、本部への運搬がなされていく。そうしたあと、マルコーが帰ってきて、一行は本部の会議室へと向かうこととなった。
会議室には、幾人かの警護兵とともに、いかにも私が最もえらいですというたたずまいをしている男と、側近がいた。
「ようこそ、私はゲルニック、反帝国連盟ニズダムの盟主だ、ひとまず、座りたまえ」
そう促されると、各自席についていく。
「君がガルストンかね、まずは君の処遇からだ。君がサラマンダー号を強奪したこともあって、帝国の警戒はさらに進んでしまってね、かなり諜報員もやられたし、活動もしにくくなった。この点では、マイナスの評価となる。その代わり、君は、帝国きっての最新鋭魔導兵器を強奪、君のおかげで入手することができた。サラマンダー号をこちらで引き取ってもよいというなら、君に対して今回の件は不問とし、今後は遊撃の戦闘員として活動してほしいのだがどうかね」
「問題ありません」
「うむ、そこで今度は協力を仰ぎたいのはシェスト君、君だ。なかなかの魔導具や細工、機械などに精通しており、今回もサラマンダー号の解体をやって運搬できるようにしてくれたとか。まず、元に復元してほしいというのが一つ、可能であれば、こちらで、兵器の研究をしてくれないか?」
「復元については問題ありません。研究については、私にどのような見返りがあるのでしょうか?」
「研究員としての給料はまず出せるが、他に何か望む者はあるかね?」
「可能でしたら、サラマンダー号の調査にも役立つと思いますので、秘蔵の図書室や研究資料がありましたら見せていただきたいです」
「良いだろう。つづいて――」
そう言おうとしたところで、マリーネがとっさに動き、ゲルニックへの奇襲を阻止する。唐突に表れたのは、樹木のような黒肌にぼろきれをまとった妙な男が、唐突に表れ、槍で一撃を放ったのである。
ゲルニックは周囲の兵士に「侵入者だ!撃退しろ!」と言い放つと、部屋では乱戦がはじまる。
ゲルニックは後ろに下がり、それを守るように兵士が二人、ガルストンやマルコー、マリーネと残りの兵士はかかんに侵入者を攻めるが、手傷を負わされるのはこちらだ。リアナは治療や、身体の強化などの補助呪文で近接用の支援を行う。シェストは、この場所では援護が難しく、デルルズも一歩下がっていた、できることがない。
黒い侵入者の槍さばきはすさまじく、あれほど魔獣を近接でも安定して狩れていた面々を圧倒する。マルコーやマリーネの短刀の斬撃の連撃を軽くはじきさばき、ガルストンの思い鈍器は職種のように枝分かれした腕が難なく受け止めきってしまう。
「くそっ、なんで気づけなかったんだ?」
デルルズは疑問に思う。そう、敵意を感じ取れなかったのだ。戦場は会議室から外の広場へと移っていき、激戦が繰り広げられるも、侵入者のほうが上手でゴリゴリと、負傷していくのはこちらだった。そう、リアナの治療が間に合わない。駆けつけた兵士もあっさりとノックアウトされ、時間が経って有利になるどころかどんどんと戦況は厳しくなっていく。マルコーは力尽き、致命傷ではないものの動けなくなっている。動けるのはもう、ごく少数だ。
「ふん、ニズダムの本部といっても、こんなものですか」
「何者だ!」
敵がつぶやいたのに応じるようにゲルニックは叫ぶ。
「お初にお目にかかる、ニズダムの盟主ゲルニック。私は帝国四天王が一人、死霊使いのガイナード、ふふ、ふふふふふ」
そういうと、致命傷を負って死んでいたものがおもむろに立ち上がっていく、すると、彼らがこちらへと攻撃し始めたのだ。
「おい、このままだとじり貧だぞ」
ガルストンは皆を守りながら、叫ぶ。
「皆よ、操られたものは気にせず葬れ、あれらはもう元には戻らん」
ゲルニックはさけぶも、それが実行できたのはガルストンやマリーネだけだ、味方だった兵を躊躇なく心を切り替えて攻撃できるほどシェストもリアナも修羅離れしていない。
そんなじり貧の中、ついにマリーネの喉元に槍の一撃が放たれたとき、槍がびゅんっとどこかへと放り去られる。横合いからやってきた赤髪の青年が鞭で槍をからめとったのだ。その後、青年は、まばゆい光を放つと、青年のかたわらにふわふわと神々しい足のない人のようでいて不可思議な存在が顕現していた。その存在の光によって操られていた、兵士の肉体は消滅し、操っていたガイナードも大きな痛手を受けてたじろぐ。
追い打ちをかけるように、さきの神々しい存在の力を鞭に宿して、赤髪の青年はガイナードを叩き倒した。
「このっ、わた……し……が……」
ガイナードはまるで土が崩れるように、消え去った。ふと、それを見届けると神々しい存在も消え去った。
「お前、ニクスか?」
ガルストンは、赤髪の青年に声をかける。
「おう、久しぶりだなガルストン、アミダ様が言ってた通りだ、皆がここに来ていて危ないらしいって」
「さっきのは何なの?」
「霊獣、アミダ様だよ」
「ということは、召喚術なのですか?」
「あぁ、シェスト、落ち着いたらゆっくり話そう、リアナもな」
と言っていると、よこからニクスにマリーネが抱き着いた。
「私を救ってくれた恩人の兄ちゃん、ニクスっていうのかな?」
「お、おう」
マリーネがニクスにベタベタしながら、それを微妙に快く思わないリアナではあったが、ひとまず、戦闘が収まった。ゲルニックは、それぞれ支持を出し、状況の収集に努めていく。リアナは治療などを手伝い、ニクスも治癒の魔術がそこそこできるため、その補佐をする。
敵ガイナードの初撃を防いだマリーネはゲルニックから多大に感謝され、また、最終的な決着をつけたニクスも感謝されたが、ひとまず、状態を立て直すことが優先され、いったんは解散となった。
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都市の宿に戻った一行は、集まって、ニクスと情報を共有する。これまでのコンシオ村の事や、そこからここまでの経緯を。ニクスは、どうやら世界中を一人で旅していたようで、そのとき、彼が聞こえると昔言っていた風の声に導かれて霊獣が結界で隠匿して隠れ住んでいる里にたどり着くことができたのだという。そこで、いく体もの霊獣と出会い、そうして召喚術も一時的であるが使えるところまで至ったのだそうだ。
先の戦いで呼び出した霊獣こそ、彼を指導したアミダ様であり、霊獣達の指導者的存在らしい。そんなおり、予見に優れた霊獣の知らせを受けて、はるばるここまでやってきたのだそうだ。
そんな話をしている最中も、マリーネはニクスにべったりだった。そう、窮地を救ってくれた赤髪の青年に一目ぼれしてしまったのである。そして彼女は積極的だった。事あるごとに「さすがニクス様、すごーい」など、調子のよい相槌をうったり、今まで見せなかったほんの少し媚びるような高い声で話しかけている。ニクスは少し、居心地が悪そうだったが、仲間と再会できたのが何よりうれしかった。
リアナはその話を受けて少し悔しいなと思った。召喚術の巫女の家系に生まれていながらにして、それを先取りされたというかなんというか、とりあえず、悔しさ半分、そして、また会えたことが嬉しかった。
こうして、ニクスと合流できたのである。




