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79. 騒ぎの後始末

 セヴランはドスドスと足音を立てながらこちらへやってきた。隣には年配の兵士を伴っている。

 

 傭兵の一人から事の次第を聞き出した彼は、みるみるうちに憤怒の形相になった。そこから放たれる圧に、騒ぎを起こした傭兵たちは勿論、他の兵士たちも真っ青になる。


「彼女は俺の大切な客人だ。貴様ら、俺の顔に泥を塗ったと分かっているのか!?しかも、ご婦人相手に複数人で乱闘だと?戦士としての矜持はないのか!!」


 真っ赤な顔をしたセヴランから、雷のような怒号が落ちる。

 その叱責に傭兵たちが縮みあがった。荒くれ者の彼らといえども、軍神の叱責には肝が冷えるらしい。身体を震わせながら頭を下げ続けている。


 そこへ、背後から「……トレイユ伯」と低い声がした。

 真後ろにいたのは、言うまでもなくジェラルドだ。

 いつの間にやってきたのか。騒ぎのせいで気付かなかった。


「飼い犬の躾がなっとらんようだな」

「はっ。誠に申し訳ございません」


 静かな声音だが、彼がセヴランと傭兵たちに向ける眼差しは酷く冷たい。セヴランが炎とすればこちらは氷だ。見ているこちらまで寒くなってきて、ぶるりと背筋が震える。


「お前たち。シャンタルは王弟たるこの俺の連れというだけではない。この国の恩人として、国王陛下が礼をもって遇する賢人だ。その彼女に対して狼藉を働くということは、王家に対する反逆罪とも取れる」


 傭兵たちは「そ、そんな……!俺たちはそんなつもりじゃ」と慌てだした。彼らは貴族でもない私に多少の無礼を働いたところで、たいした罪にはならないと踏んでいたのだろう。しかし反逆罪となれば話は別だ。処刑は免れない。


 セヴランの傍らにいた年配の兵士が、前に進み出た。


「殿下。私は兵士長のドミニクと申します。彼らは雇ったばかりの新兵で、訓練が行き届いておりませんでした。今回のことは全て私の監督不足が原因です。どうか、私の首ひとつで収めていただけないでしょうか」

「無論、彼らを率いる立場にあるのならば君にもそれ相応の罰は下す。だが、それだけで済むような軽い罪だと思うかね?」

「待ってくれ!」


 私は慌てて口を挟む。

 こんな大ごとにするつもりはなかった。粋がったやつらの鼻を小突いてやるくらいのつもりだったんだ。

 ましてや、ドミニク兵士長には何の咎も無い。


「乱闘になったのは、私がこいつらを煽ったせいだ。そんな重い罪にしなくても」

「だが、そもそもトラブルの原因を作ったのは彼らではないのかね」

「……う。確かに、こいつらが難癖を付けてきたのは事実だが」

「それに彼らがトレイユ伯の客人に対して狼藉を働いたのは事実。つまり、主君の指示に逆らったのだ。戦場において規律を乱すものの存在は戦況に関わる。違うかね、トレイユ伯」

「全く仰る通りです。彼らには私から相応の罰を下します故、どうかこの件は預からせて頂けないでしょうか」

「……ならばシャンタルに免じて、反逆罪は無かったものとする。後は任せたぞ、トレイユ伯」

 

 そう言って去っていくジェラルドの背中を見送る。安堵で気が抜けたのか、傭兵たちがへなへなと座り込んだ。


 

「何をやっとるんだ君は!!!」


 屋敷に戻った私は、ジェラルドから怒られた。そりゃもう滅茶苦茶に怒られた。

 ちょっと助け船出してくれないかな~と横にいるセヴランへ目を向けるが、彼は渋い顔をして黙っているだけである。


「騒ぎを起こさせるために君を連れてきたのではない」

「すまない。あいつらの態度にムカっ腹が立ってしまって、つい……」

「ならばトレイユ伯か俺に言えば良いだろう。しかも、複数の兵士を相手に乱闘とは。無謀にも程がある」

「あの程度の人数に負けやしないよ」

 

 もっと多人数を相手にしたことだってあるくらいだ。

 まあ、大半は私が短気を起こしたせいでそうなったんだけど。今回と同じだ。この性分はどうしようもないらしい。

 

「だとしても、戦いには不測の事態が付き物だ。君が傷の一つでも負っていたら、トレイユ伯の命も危うかったところだぞ」

「そうなのか?」


 セヴランが無表情で頷く。


「部下がシャンタル殿と乱闘になったと聞いたときには、首と胴が離れる覚悟を致しました」

「君の力量について疑うつもりはないが、今は我が国の重要人物であるという自覚を持ってくれ。君の言動ひとつで処罰を受ける者もいるのだ。軽挙は慎みたまえ」


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