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72. 襲撃 ◇

「デルーゼはあまり情勢の良くない国です。現在の王政に反発する部族が抵抗運動を行っていると聞いております」


 その部族に雇われた刺客という可能性もある。

 そんな話をしたら馬車に乗せてもらえないと思って、盗賊という事にしたのでは?と二コルさんは続けた。

 嘘を付かれていたことはともかく。

 こんな中途半端な場所で殿下たちを放り出すわけにもいかない。

 どうしよう……と思案していたそのとき。


 「うわぁっ」という声が聞こえた。

 イヴォン殿下が覆面をかぶった男たちに取り囲まれており、ウジェ様とヤニッグ様が応戦している。


 何とか囲みから抜け出したイヴォン殿下がこちらに走ってきた。追いかけてくる襲撃者たちをディオンさんとニコルさんが迎え撃つ。

 打ち合った剣の音が響く。

 ディオンさんが振り下ろした剣の脇を抜けて、一人がこちらへ突進してきた。

 その目に孕んだ殺意に背筋が寒くなる。足がガクガクして動かない。

 間一髪、二コルさんが襲撃者に追いつき「アニエス様、お逃げ下さい!」と叫びながらその胴を打つ。だが吹っ飛ばされた男はすぐに立ち上がって、剣を構えた。


 

「アニエス、こっちだ!」とイヴォン殿下に手を引っ張られ、私たちは森の中へ逃げ込んだ。二人でしゃがんで茂みの中へ隠れる。


「ここでやり過ごそう」

「あの人たち、殿下を狙っているのですか?」

「まあそうだろうね。父上は反抗分子に対して厳しいから……」


 向こうの方で足音と人声が聞こえた。私たちは慌てて口をつぐむ。


「こっちの方へ逃げたぞ」

「隠れているかもしれん。捜せ!」

 

 新手?それとも先ほどの襲撃者に突破されたのだろうか。ニコルさんたちは無事なのかな……。


「アニエス、別行動にしよう。あいつらの目的は僕だ。人質にして、父上に何かしら要求する気だと思う」

「それなら、殿下が殺されることはないということですか?」

「それは分からないなあ。僕は第三王子だし、他にも兄弟はたくさんいるからね。父上が奴らの要求を呑むかどうか」

「そんな……」

 

 生死が掛かっているというのに、殿下は平然と答えた。デゼールの人は、みんなこんな風に諦観しているのだろうか。


 彼らが茂みをかきわけて近づいてくる。もう駄目だ。見つかる……!

 その時、イヴォン殿下が茂みを出て走り出した。「いたぞ!」という声がする。


 私から引き離すために、囮になってくれたのだと気付く。

 旅の目的を考えれば、私はここで自分の身を守ることだけを考えるべきだ。

 でも……。それでいいのだろうか。

 

 お師匠様なら、きっとイヴォン殿下を放っておかない。

 フェリクス様だったら?彼もやはり、殿下を置いて逃げたりはしないだろう。

 

 私は意を決して走り出す。

 少し開けた場所で殿下に追いついた頃には、襲撃者三人がすぐそこまで迫っていた。


「アニエス、何で……」

「殿下、しっかり掴まってて下さいね」


 私はイヴォン殿下の手を腰へ回し、手をベルトに掴ませた。

 襲撃者たちは無言でじりじりと距離を詰めてくる。

 

 怖い。だけど、逃げない。殺されるつもりもない。

 フェリクス様の隣に立てる、私である為に。

 

 私は右手を前に出し、全力で風の精霊を呼び出した。


風の輪舞(ヴァン・ロンド)!」

「な、なんだ!?」


 私たちの前に竜巻が巻き起こる。そして、ふわりと身体が浮き上がった。

 そのままどんどんと上へ昇る。

 呆然としている襲撃者たちを置いて、私たちは飛び去った。


「空を飛んでる!すごい!すごい!」

「殿下、あまり動かないで下さいっ」


 イヴォン殿下は私へしがみついたまま大喜びしている。私は何とか体勢を維持しようと必死なので、それどころではない。自分で飛んだのは初めてだ。お師匠様みたいに上手くはできない。


「あっちにウジェたちがいるよ!」

「駄目です、そんなに動いたら……あっ!」


 眼下に剣士様たちを見つけた殿下が手を振ろうとする。何とか維持していた体勢が崩れ、私たちは地面へ落下していった。

 

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